ヘルズ・キッチン

放送局: FOX

プレミア放送日: 5/30/2005 (Mon) 21:00-22:00

製作: グラナダ・エンタテインメント、A. スミス&カンパニー

製作総指揮: ポール・ジャクソン、アーサー・スミス、ケント・ウィード

出演: ゴードン・ラムジー


ザ・ネクスト・フード・ネットワーク・スター

放送局: フード・ネットワーク

プレミア放送日: 6/5/2005 (Sun) 21:00-22:00

製作: CBSアイ・トゥー・プロダクションズ

ジャッジ: ゴードン・エリオット、ボブ・トゥシュマン、スージー・フォーゲルソン

ホスト: マーク・サマーズ


内容: 勝ち抜き系のクッキング・リアリティ・ショウ2種。


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最初は「アイアン・シェフ」から始まった。とはいえもちろん、アメリカにだってそれこそ星の数ほど料理番組はあるわけだし、実際、朝から晩まで24時間料理番組を放送しているフード・ネットワークというチャンネルもある。「アイアン・シェフ」のように特に勝敗にこだわっていたわけではないとはいえ、「ピルズベリー・ベイク-オフ (Pillsbury Bake-Off)」のような伝統ある料理コンテスト中継も存在していた。


とはいえ、料理番組が今あるように、味に優劣をつけ、勝敗を決する勝負としてのリアリティ・ショウという体裁を色濃く帯びるようになったのは、やはり「アイアン・シェフ」の影響を抜きにしては考えられない。そして元々「サバイバー」に代表される勝ち抜きリアリティというジャンルが人気のあるアメリカにおいて、料理番組がただ一回こっきりの勝ち負けを決めるだけでなく、最終的に大きな褒美を獲得するまでをとらえる勝ち抜き形式になるのは、避けられない当然の成り行きだったと言える。


今回FOXが編成した「ヘルズ・キッチン」は、英国のセレブリティ・シェフとして知られるゴードン・ラムジーの元で、シェフ志望の参加者が毎週勝ち抜きで凌ぎを削る。12人の参加者は赤チームと青チームに分かれ、毎週ラムジーの監視の元でレストラン (実際にはスタジオを改装したレストランもどき) の厨房で調理を行う。ラムジーが毎回チームの勝敗を決め、負けたチームのキャプテンは、追放するべき参加者を二人選択、最終的に二人のうち誰が番組を去るかをラムジーが決定する。


一応そのレストランには客席もあり、毎回ゲストもテーブルに着席しているが、まだ素人、よくてセミプロ程度の腕しかない参加者は、ラムジーの思うように料理を作れない。短気で知られるラムジーは毎回癇癪を起こして、なんでこれができないあれができない口答えするなこの大バカ者! と怒鳴り散らし、当然の如く参加者の悔し涙と反感を買う。さらにぷっつんしたラムジーは、ダメだダメだ、こんなんじゃ客に食わせる料理なんかできない! と、すべてのテーブルがゲストで埋まっているにもかかわらず、運がいいゲストはアペタイザーを食べ終わり、運の悪いゲストはまだ食前酒を嗜んだだけで1時間以上も待ちぼうけを食らわされた挙げ句、誰もメイン・ディッシュに到達できないまま、店は閉店を告げるのだった。


とまあ、最初の数回はこんな感じで進み、後の方になると参加者も慣れてきて、一応は一通りなんとかゲストにコースを提供するくらいにはなってくる。が、それでもまだまだラムジーの疳の虫を抑えるほど参加者の技術は向上しているわけではない。当然だろう、いくら参加者が料理好きだったり、実際に業界で働いていたり、今はラムジーがつきっきりで教えているとはいえ、一朝一夕でセレブリティ・シェフ並みの料理が作れるようになるわけがない。だから毎回毎回ラムジーはぷっつんきて暴言吐くし、参加者は罵倒されてぼろぼろ泣くし、それが見ていて面白いのは言うまでもない。


ラムジーは英国では既にかなり有名であったようで (特にその短気の点が)、この番組に出る前にもBBCで「ラムジーズ・キッチン・ナイトメアズ (Ramsey's Kitchen Nightmares)」なる番組に出ている。この番組は、英国で店をたたむ危機に瀕しているレストランをラムジーが訪れ、持ち前の短気でスタッフを怒鳴り散らしながらメニューに手を入れ、レストランを建て直すというものだ。BBCの人気番組はほとんどアメリカでもBBCアメリカが放送しており、実はこの番組は、昨年の私の隠れヒットだった。


この番組は英国産番組だからラムジーはアメリカの視聴者のことなんか気にもせず、完全な癖のあるスコティッシュ英語でわめき散らすのだが、もう、私が聞くと、ほとんど何言っているのかわからない。だから逆によけいに面白かった。なんて言って怒っているのかを予測しながら見てたりすると、結構熱中する。おっとりとした人当たりのよさとにこやかな笑顔で人気のある同じ英国のセレブリティ・シェフ、ジェイミー・オリヴァーの対極にいるのがラムジーだ。


さらにラムジーはその後、英国の民放ITVで今回の番組の前身とも言える「ヘルズ・キッチン」に出演する。この番組はアメリカでは放送されていないため私は見ていないが、ラムジーが2週間でセレブリティをセレブリティ・シェフにするよう料理のイロハを教え込む番組だったそうで、要するにこの番組をさらに強力に展開させたのが、今回のFOX版「ヘルズ・キッチン」だと言ってしまって差し支えあるまい。


現在、番組は既に中盤にさしかかっており、最も業界の経験が長く、実力では他より頭一つ抜きん出ているように見えるラルフが優勝に最も近い位置にいるように見えるが、番組をもっと面白くするためにも、そう簡単には事は運ばないと思う。結構エルシーがひいきされているような気がするのだが、もしかしてジェシカかも。残るアンドリュウとジミーとマイケルの可能性はあまりないと思う。実は一番最初に見た時は、クリス、ウェンディ、メアリ・エレン辺りがいいとこ行きそうだなとなんとはなしに思っていたのだが、彼らから先に落ちた。いつもながらこの手の予想は当たんない。


しかし気になるのが、番組の最後まで勝ち残った勝者には新レストランのオーナー・シェフという玉座が待っているのだが、これまでの参加者のクッキング・スキルを見ていると、ラルフ以外は素人の域をほとんど出ていないように見える。これじゃあはっきり言っていきなりレストランを任せられても、店の運営なんてどだいムリだろう。まさかそれもいちいちラムジーが一から手とり足とり教えるわけにも行くまい。つまり、素人に料理を作らせて、勝ったら店を持たせるなんて安易な発想の番組の土台が、根本的な無理があるのだ。それなりに面白くないわけでもないのだが、私はやはり「キッチン・ナイトメア」の方が面白いかな。


一方、「アイアン・シェフ」を放送しているフード・ネットワークも、ついにオリジナルの勝ち抜きクッキング・ショウ製作に乗り出した。その名もずばり「ザ・ネクスト・フード・ネットワーク・スター」で、まんま名が中味を言い表している。要するに、この番組に勝ち抜いて無事優勝した暁には、フード・ネットワークで自分の料理番組が持てるという寸法だ。8人 (実際にはうち一つはペアのチームであるため、合計9人) の参加者が様々な試技をこなしながら、順次一人ずつ脱落していく。


食をテーマにするフード・ネットワークのオリジナル番組らしく、同チャンネルの他の人気番組からゲストを迎えるところが特色で、それこそ「アイアン・シェフ・アメリカ」のボビー・フレイやマリオ・バタリもスタジオにやってきていた。参加者はグリリングの帝王フレイの前でグリル料理のプレゼンテイションを求められ、イタリアンのアイアン・シェフ、バタリの前でオリジナル・ピザを披露しなければならない。一応和気藹々と番組収録自体は進んでいたとはいえ、参加者のプレッシャーがかなりのものであったことは想像に難くない。和の鉄人森本も呼んできて、彼の前で参加者に和食を作らせたらとんでもないのができ上がったに違いないだろうにと想像を逞しくしたのだが、まあ、そこまで参加者を痛めつけるのも酷だろう。


また、参加者の優劣を決めるための勝負方法も、「アイアン・シェフ」に準じたところがあった。「アイアン・シェフ」では毎回秘密の食材をテーマにアイアン・シェフと挑戦者が腕を競ったが、「フード・ネットワーク・スター」ではいきなり10種類の食材を提示されて、それらを利用した料理の優劣で追放者を決めるという時もあった。その食材も、サーモン、えび、パパイヤ、チリ・ペッパー、長葱、しいたけ、ビーツ、トマト、ほうれん草、パイ生地等まるでなんの脈絡もないもので、確かに付け焼き刃ではない、日頃の経験と実力がものを言いそうだ。因みにシイタケ・マッシュルームは今ではアメリカでも普通に見かけるようになった食材だが、この普及には「アイアン・シェフ」の力が与って大きかったのは間違いのないところである。


そして番組が最後の二人まで進んだところで、参加者独自のコンセプトによる彼らのオリジナル番組を試作する。因みにこの時まで残っていたのはダンとスティーヴの白人男性ペアと黒人女性のデボラで、ダン/スティーヴが「スープ・トゥ・ナッツ (Soup to Nuts)」という番組タイトルでロブスター・ポット・パイを、デボラが「ライフ・オブ・スパイス (Life of Spice)」で、スパイスの利いたフライド・チキンと野菜のつけ合わせを作った。彼らが調理している模様を実際にTV番組という形で視聴者に提供した後、番組は生放送になり、視聴者のインターネット投票によって優勝者を決めるという体裁だった。


この時の彼らのオリジナル番組の収録は、フード・ネットワークでエメリル・ラガッシと並んで人気の高いレイチェル・リーの「30ミニット・ミールス (30 Minute Meals)」を収録しているスタジオで行われ、リーがそれぞれにTV番組としてのクッキングについてあれこれアドヴァイスしていた。因みに「30ミニット・ミールス」は、手軽に素早くおいしい料理を作るというコンセプトで、フード・ネットワークでもかなり人気のある番組である。結局優勝したのは唯一ペア・チームで挑んだダンとスティーヴで、見ていると、彼らの作る料理そのものよりも、二人いることで一方がとちったりしてもすぐ他方がカヴァーできるという安心感によって、他の参加者よりもうまくリラックスして番組進行をこなせたという、雰囲気作りによって点を稼いだという印象が濃厚だった。


また、一見普通のフライド・チキンという、わざわざTVを見てまで作ってみようと思わせるには地味という感が拭えなかったデボラのディッシュに対し、ロブスターといういかにも派手派手しい食材を使って目を引いた、ダン/スティーヴの作戦勝ちという印象も強かった。デボラは自分が最も得意とする料理で挑んだのだろうが、やはり私もどちらかというとダン/スティーヴのロブスターの方に惹かれた。結局視聴者は実際に味見するわけではないのだから、ここは見た目のよさやエキゾチックな好奇心をそそったロブスターがどうしても有利だったのは否めないところだろう。因みにダンとスティーヴがホストの新番組は、9月から始まるそうだ。


さらに上記2番組以外にも、公共放送のPBSまでもが、現在、「クッキング・アンダー・ファイア (Cooking Under Fire)」なる勝ち抜き料理番組を放送している。こちらで優勝すると、セレブリティ・シェフのトッド・イングリッシュの店であるマンハッタンの「イングリッシュ・イズ・アメリカン (English Is American)」(下らない命名!) か「オリーヴス (Olives)」でシェフを務めることができるというものだ。イングリッシュの名を聞いて、彼が最初のアメリカ版「アイアン・シェフ」である「アイアン・シェフUSA」でアイアン・シェフ・アメリカの名を冠されていたことを覚えている者は、かなりのアメリカ料理番組通である。


さらにジャッジの一人は、アメリカ版の最新の「アイアン・シェフ・アメリカ」で挑戦者としてボビー・フレイと対戦、それまで負けなしだったフレイを見事に破った「ブルー・ジンジャー」のミン・ツァイと、いずれにしてもやはり、この種の番組で「アイアン・シェフ」の影響を受けていない番組はないと言える。


ところで番組とはまったく関係ないのだが、実は私はよくフード・ネットワークにチャンネルを合わせて、ながら視聴している。単純にうまそうなものを見るのは目の保養になり、あわよくば新しいレシピを覚え、さらに番組の途中から見ても楽しめるという利点があるからで、特に何も見たい番組がないという時にフード・ネットワークを見る頻度は非常に高い。その中で私の最近のイチ押しは、ナタリー・ポートマンをもうちょっと痩せさせてナターシャ・マッケルホーンとかけ合わせて割ったような顔立ちのギアダ・デ・ローレンティスがホストの「エヴリデイ・イタリアン (Everyday Italian)」だ。


彼女の料理は、基本的に家族に昔から代々伝わる伝統的レシピを基にしているそうだ。実際、彼女が作っているのを見よう見真似で作ったシーザー・サラダは、自分で言うのもなんだが、私がこれまでに食ったシーザー・サラダで1、2を争うくらいうまかった。マンハッタンには至るところにデリがあり、サラダ・バーが併設されていて、だいたいどこにでもシーザー・サラダが置いてあり、ところによっては実際、かなりのレヴェルのものが食えたりもするのだが、そういうものより自分が作ったものの方がうまかったと断言できるのは非常に気分がいい。というわけで、私は今日もいそいそと、ぽつりと空いた時間にフッド・ネットワークにチャンネルを合わせて、次の簡単にできるうまい料理のレシピの発見に余念がなかったりしているのである。






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