Anon


アノン  (2021年3月)

実はこの作品、3年前から既にNetflixでストリーミングされていたらしいが、私はまったく気づかず、こないだ次に見る作品をNetflixで物色していて、私向けに推薦されている作品の中に「アノン」が入っていて、初めて気づいた。 

 

演出アンドリュウ・ニコル、主演クライヴ・オーウェンとアマンダ・サイフリッドの近未来SFということで、予告編でもそのスタイリッシュさ加減はよくわかった。NBCの「デブリー (Debris)」でちょっとヴィジュアルづいていることもあり、今回はこれに決める。 

 

一方で、劇場公開されていたらいくらなんでも気づいたろうと思うから、アメリカでは未公開だったのかと思ってIMDBで調べてみたら、一応公開されたことになっている。公開されたといっても限定的だったものと思われ、特に推されていたわけではなさそうだ。 

 

アクション系ドラマも撮るが、どちらかというと「TIME/タイム (In Time)」、「ザ・ホスト (The Host)」等SF色が強いニコル、「アノン」はさらにその傾向にスタイリッシュ度を増した作品という印象が濃厚だ。 

 

主人公のサルに扮するオーウェンは、一昔前の洒落者という雰囲気を持つ俳優だ。「アノン」は舞台が近未来であるにもかかわらず、なぜだか舞台装置が1950-60年代的な印象を与えるものとなっている。たぶん電気自動車が大勢を占めているはずの未来で、なんで大型のアメ車みたいなクルマばかりなのか。 

 

しかし、その空気にオーウェンがよくはまる。対するアマンダ・サイフリッドも、「マンク (Mank)」でマリオン・デイヴィースを演じるなど往時のハリウッド女優的な美形なので、印象としては二人がアンドリュウ・ワイエスやエドワード・ホッパーが描くマジック・リアリズム的世界を背景に描く未来SFという感じだ。 

 

とにかくヴィジュアルが凝っていて、実は話そのものよりもヴィジュアルを見るだけで楽しい、といったら誉め言葉になるのかどうか。冒頭、犯罪現場に向かうサルが通行人とすれ違うと、通行人の情報がサルが見ている視覚に文字情報として現れる。 

 

特に目新しいギミックというわけではなく、既に何十年も前の「ターミネーター (The Terminator)」でアーノルド・シュワルツネッガーがやっているが、今回はさらに、どの人間の視点にも切り替えられるというのが新しい。人の視覚情報がすべて記録され、たとえ殺されようともその人物が死ぬ直前に見た情報が死後とり出せる未来では、基本的に完全殺人犯罪はほぼ不可能なはずだった。対面で人を殺せば、被害者から見たその記録が残る。 

 

しかしサルが見た被害者が死ぬ直前に見たはずの情報は、被害者を殺した殺人者の視点にすり替えられていた。脅える被害者が現れ、男の眉間に銃口を向ける殺人者の視点からの記録に置き換えられていたのだ。こういうギミックは、正直、話のでき如何にかかわらず、楽しいのだった。 

 

ところでサルがアノンとすれ違う寸前に前を通る正面が鋭角のビルは、これは「ジョン・ウィック (John Wick)」の拠点となるウォール街のホテル・コンティネンタルではないか。「ジョン・ウィック」もヴィジュアル重視の、こちらはアクションの型を基本とする作品だった。映画の最後はクイーンズ側から見たマンハッタンの背景で幕を閉じる。場所を特定しているわけではないが、これは基本ニューヨークを舞台としているようだ。これまた同じく場所を特定しているわけではないのにもかかわらず明らかにニューヨークが主要舞台の「ジョン・ウィック」と、軌を一にしている。 

 

ついでに、ではサルのアパートはどうなんだろう、あれは実はなんとなくヨーロッパ的なテイストなんだが、これまた「ジョン・ウィック」同様モントリオールとかトロントとかで撮影したとかと思って調べてみたところ、実はマンハッタンのブロンクスで撮影されていた。しかも、ロケ地がかなり「ジョーカー (Joker)」の、あの階段に近い。クルマで数分といったところだ。 

 

さらにこの場所は、うちの女房がかつて何度も慰労訪問して歌声を披露したことのあるナーシング・ホームのイザベラの、目と鼻の先なのだ。クルマで数分どころか、イザベラからなら徒歩数分だ。この辺なら私も何度も歩いている。場所を知った途端に、「アノン」の世界が近未来やヨーロッパという感触から、身近な日常の世界に一気に引き戻されてしまったのは言うまでもない。 


 











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近未来、人々の視覚情報はすべて記録され、それを解析することで犯罪解決に利用されていた。しかし、刑事のサル (クライヴ・オーウェン) がある事件現場に向かう最中にすれ違った女性 (アマンダ・サイフリッド) の情報は、システムのどこにもなかった。ある人物が殺された現場で、しかし、その人物が殺される直前に見たはずの殺人者の視覚情報は、殺人者本人視点の視覚情報に切り替えられていた。アノン (サイフリッド) と呼ばれる、視覚情報を操作することのできる容疑者が浮上する。彼女こそ、システムに存在しない女性だった。サルは自分が囮となってアノンと接触しようと試みる‥‥ 


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