放送局: ABC

プレミア放送日: 6/22/2006 (Thu) 20:00-21:00

製作: Y27エンタテインメント

製作総指揮: ジョナス・ラーセン、アンソニー・ロス

監督: マイケル・ディミック

ホスト: クリス・リアリー

共同ホスト: リサ・ダーガン-ポドセドニク

ジャッジ: オクサーナ・バイユール、スティーヴ・ガーヴィ、ジョニー・モーズリー


内容: 素人タレント発掘勝ち抜きリアリティ・ショウ。


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シーズンが終わって夏休みに入ったアメリカのネットワークの編成は、定時番組の再放送が主体となる。しかし、特に近年ケーブル・チャンネルの追い上げは厳しく、シーズンが終わったからといって悠長に再放送ばかりでお茶を濁していては、視聴者に逃げられてしまう。そういう時に頼りになるのが金と時間がそんなにかからないリアリティ・ショウで、ここ数年、ネットワークの夏場の編成で見るべきものは、リアリティ・ショウしかない。そして特に今年、そのリアリティ・ショウでも、素人タレント発掘ものの番組がどのネットワークでも編成されたのが目を惹いた。


この傾向が、シーズンを重ねる毎に、衰えるどころかますます人気を高めているFOXの「アメリカン・アイドル」に触発されていることはまず間違いなかろう。実際、「アイドル」ですら最初のシーズンは、様子見に夏場編成され、誰もTVを見ていないはずの夏に、この番組だけが圧倒的な人気を博したのだ。つまり、確かに人は夏はどちらかというと屋外アクティヴィティを好みはするが、面白い番組がありさえすれば、TVを見るのに吝かではない。


さて、今夏、各ネットワークが投入した素人タレント発掘系のリアリティ・ショウで、特に私の目を惹いたのが、ABCの「マスター・オブ・チャンピオンズ」だったのには理由がある。つまり、この番組が日本テレビ「ワールド・レコーズ」のリメイクであるという、和製番組のリメイクであったことがまず一つあった。もっとも、私は実際に「ワールド・レコーズ」を見たことがあるわけではない。しかし、「料理の鉄人」や「風雲! たけし城」を筆頭に、日本のキッチュなテイストのリアリティ・ショウは結構アメリカ人にも受け入れられている。今回もそうならない理由はない。


一方、日本製番組がアメリカにも受け入れられているとはいえ、だいたいの場合、それはオリジナルが受け入れられているのであって、アメリカ人のテイストに合わせようと番組をリメイクして放送する場合、だいたいにおいてそれが人気の理由であったはずのキッチュなテイストが雲散霧消してしまい、リメイクとは名ばかりの似て非なるまったく別の番組ができてしまうということが往々にしてあった。最もいい例が「未来日記」をABCがリメイクした「ザ・デイティング・エクスペリメント」で、何も知らないで見た場合、まず番組が「未来日記」のリメイクということは誰も気づかないだろうと思われた。


また、その一方、アメリカにだって長い歴史がある、というか、素人タレント発掘番組というジャンルはアメリカこそがそもそもの本場と言える。そのアメリカのネットワークが、自分たちが得意だったはずの素人タレント発掘番組を逆輸入してリメイクするというのは、やはり非常に興味深いと言える。そもそも、よく考えたら現在アメリカTV最強の「アメリカン・アイドル」ですら、オリジナルは英国製だ。というわけで、今回のABCによる「ワールド・レコーズ」のリメイク「マスター・オブ・チャンピオンズ」には、なにがしかの期待を抱いていたのであった。


いずれにしても、まずはそもそものオリジナルに当たらないと始まらないと思い、日テレのHPを見てみた。そしたら、あるある、色々なテーマがずらずら並んでいる。なかでも視力世界一とか、世界一の泣き屋だとか、なかなかいい。理想を言えば、それができたからいったいなんになる的な、脱力無目的的であればあるほど、私としては嬉しい。MTVの「ジャックアス」とかもそうだったが、そういう壮大なエネルギーのムダ使い的な個人の行動は、それだけである種、人を感動させたり爆笑させたりする。


もちろんアフリカの大平原で遠くのものを確実に見れることは他人より有利に生きられるということであり、他人の葬式で泣いて金をもらう人間が人より泣けることは儲けを多くすることを意味するので、彼らのそういった特技は、生きる上では必要なものであったりするだろう。しかし単純に、視力8.0で、20m先の7mmの動物の絵が識別できるというのは、ひたすら感心してしまうし、通常、4mlも流せば限界といわれる涙を意識的に13mlも流した女性の話だとか、実際に番組を見ていなくても笑ってしまう。こういう番組をアメリカのTV局が意地を出して作ってくれるなら、面白い番組になるかもしれない。


一方でオリジナルではないテーマもあり、なかでもわりとフィーチャーされていたロボット・バトルというのは、これはやはりアメリカが本場だろう。明らかに「バトルボッツ」を真似ており、ほとんど新味はない。ま、これが日本人に受けたのはわからないではないが。さらに「アツい挑戦をする人々」の「グリズリーに挑戦」、「犬に挑戦」、「キリンに挑戦」は、真似するどころかすべてFOXの「マン vs ビースト」および「マン vs ビースト2」からのセグメントをそのまま流用している。


ついでに言うと「マン vs ビースト」は、読んで字の如く人間対動物を様々な競技で競争させるという番組で、その愚劣な覗き見趣味的な趣旨にこそ面白さがあり、小人対動物なんて競技こそこの番組の真骨頂だったんだが、日テレは見事にそういう部分は無視したようだ。ま、あれは日本人のセンシティヴィティでは到底受け入れられまい。そしてめぐりめぐって、今度はその「ワールド・レコーズ」をアメリカのネットワークが真似て製作する。そうやってTV文化は発展するのか退行するのか、あるいは単に流転しているだけなのか。いずれにしても一視聴者としての立場から言えば、面白ければ文句はない。


その「マスター・オブ・チャンピオンズ」、番組進行は、参加者が一対一 (チームの場合もある) でそれぞれ同種、あるいは似たような競技で勝負し、スタジオ内の観客の投票によって勝ち負けを決め、さらにその回で最も印象的だった参加者がその回のチャンピオンになるという構成だ。果たして「ワールド・レコーズ」が同様の構成で進行していたかまではわからないが (たぶんそんなことはないだろう)、既になんか胡散臭い雰囲気を濃厚にまとっている。


例えば、最初の種目の車のドリフトによるチーズ削り勝負! は、スタジオの中央の高さ1mくらいの台の上に直径50cmくらいの円形のチーズを置き、その周りを車でドリフトして周回しながら、車の横から伸びているアームにとりつけられたチーズおろし! でチーズを削ってしまおうという競技だ。「ワールド・レコーズ」でも片山右京やジャン・アレジがドリフト駐車に取り組むという競技があったが、それをこういう風に内容に手を入れるところがいかにもアメリカ的である。一瞬で勝負の決まるドリフト駐車より、延々とタイヤから煙を吐き出させながらドリフト周回するこちらの方が派手っちゃあ派手だ。とはいえ私の好みからすると、よりぎりぎりのスペースにきちりと車体を滑り込ませるドリフト駐車の方が、いかにも職人芸という感じがして好みではある。


この競技は、削られてやせ細った本体のチーズの重さが計量されるため、明確に結果が数字となって現れ、一見して完全に白黒はつく。最初のアジア系の女性ドライヴァーは、ドリフト途中で自分が削り飛ばしたチーズにタイヤをとられてスリップするなどのアクシデントがあったため、それを見た後攻の男性ドライヴァーは、アームに取り付けたチーズおろしを上からではなく横から押しつけるようにドリフト、それが功を奏して女性ドライヴァーに圧倒的に差をつけた。


しかし、話はここからが胡散臭くなってくるわけだが、そこでなぜだか「パネル・オブ・チャンピオンズ」という名の下にコメンテーターとして参加しているオクサーナ・バイユール、スティーヴ・ガーヴィ、ジョニー・モーズリーの3人が、それぞれ、勝負した参加者のどちらが勝者として相応しいかについて自分の意見を述べるのだ。因みにバイユールはフィギュア・スケートの「白鳥の湖」で著名、モーズリーもモーグルの第一人者として知られている。共に冬季五輪金メダリストであり、確かに「チャンピオン」であるわけだが、MLB出身のガーヴィがなぜ「チャンピオン」なのかはよくわからない。一度でもMLBで優勝チームにいれば、一応「チャンピオン」を名乗る資格があるということだろうか。


番組では彼らがそれぞれ意見を口にした後、スタジオ内の観客のボタン押し投票によって最終的にどちらが勝ったかが判定される。たとえ「チャンピオンズ」の誰が誰を応援するという意見を口にしても、スタジオの客は当然私のようになにはともあれちゃんと結果を出した男性ドライヴァーの勝ちだと思っており、実際に彼が大差で彼女を下したわけだが、しかし、こんなの、結果が出ているわけだから、投票する意味すらないんじゃないか? 主観による採点種目ではなく、結果が数字として現れるドリフト・チーズ削りですらそうなのだ。これは敗者にも暖かい手をみたいな博愛主義というよりは、単に世界をいたずらに混乱させるだけの話である。100メートルを9秒で走った者より、10秒で走った者の方により感銘を受けたなんて言われても、見てるこちらもはいそうですかと言うわけにはいかない。


最近のABCのリアリティ・ショウは、この手の胡散臭い似非人道主義的な匂いがぷんぷんしており、ほとんどの番組において、こういう、負けた者に過度に同情する傾向が見られる。しかし、相手を蹴落として勝ち上がっていく真剣勝負の面白さこそが見所の勝ち抜き系リアリティ・ショウにおいて、その醍醐味を削ぎ落とした最近のABCのリアリティ・ショウが面白くないのは当然と言える。番組にこういうお仕着せのお涙頂戴主義を持ち込むのはやめてもらいたい。こういう傾向の走りが「エキストリーム・メイクオーヴァー」であり、この番組がヒットしたおかげで、それを真似た最近のABCのリアリティ・ショウは、ますますつまらなくなっている。


話が逸れたが、番組の次の勝負は、今度は一方がチームによるアクロバティックなダンスを披露したのに対して、もう一方は身体の柔らかい妙齢の女性による、逆立ちをしながらえびぞりになって足の指を使っての弓射による風船割りだ。共にアクロバティックな技を使うということは共通しているが、しかし両者を較べて採点するとなると、これはもう単にムリムリだと言わざるを得ない。私の目から見ると、どこかで見たことがあるような足技弓射なんかよりもまだダンスの方が面白かったんだが、これは射的の方が勝った。たぶん芸を披露しているのが可愛い女の子だったからだろう。


しかし、チャンピオンと名乗るからには、逆立ちしてそれから助手によって弓を持たされるんじゃなくて、自分の足の指を使ってフロアから弓を持ち上げて弦にかけて引くくらいの芸を見せてくれるんじゃなくっては、私としては到底投票しようという気になぞならない。探せば彼女くらいできる人間なんて、中国雑技団の中にそれこそ掃いて捨てるくらいいるような気がする。


この日最後の競技が一輪車乗りの妙技で、そりゃ彼らのバランス感覚はすごいが、特に面白いともなんとも思わなかった。同じことをシルク・ドゥ・ソレイユにやらせたら、もっとショウ・アップした演出で面白くするだろうにという印象の方が強い。そしてこの日の3番勝負が終わった後、またまた前出の「チャンピオンズ」の3人が登場、この日を通してのチャンピオンを決める。


それがえびぞり弓の女の子で、だいたい、ドリフト屋とアクロバティックと一輪車乗りを同じ土俵で較べてしまうというのがまず強引過ぎる。彼女が勝った根拠がまったく理解できないし、まったく説得力がないと言わざるを得ない。これじゃ視聴者も納得しないだろう。オリジナルの「ワールド・レコーズ」がこういう番組だったとは到底思えない。これじゃダメだなと私が思った通り、番組の視聴率はプレミア放送後、減少の一途を辿っている。やはりねえ、特にリアリティ・ショウのリメイクを作る場合、ほぼ完成されているオリジナルのフォーマットにあまり手を入れすぎない方がいいと思うよ。





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Master of Champions


マスター・オブ・チャンピオンズ   ★★

 
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