放送局: FOX

プレミア放送日: 1/15/2003 (Wed) 21:00-22:00

製作: LMNOプロダクションズ

製作総指揮: エリック・ショッツ、ビル・パオラントニオ

監督: ボブ・レヴィ

ホスト: スティーヴ・サンタガティ

コメンテイター: カール・ルイス、他


内容: 大食いや綱引き、短距離走等の分野で、人間の代表と動物界の代表が競争する。


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FOXのゲテモノ路線リアリティ・ショウは、今に始まったことではない。元々通常のリアリティ・ショウも、「誘惑の島 (Temptation Island)」や「ジョー・ミリオネア (Joe Millionaire)」等、道徳的観点から見ればすれすれのやつが多く、「グラットン・ボウル」「セレブリティ・ボクシング」等、完全に反則というか、一線を超えてしまっている番組も多々ある。視聴率を稼ぐことだけを目的とした、番組製作者としてのプライドがゼロの番組作りは、同じ業界人からも時として呆れられたり忌み嫌われたりしているのだが、この路線を改めるつもりはまったくないようだ。


そして今回、またまたFOXが編成したこの「マン vs ビースト」は、その低俗系リアリティ・ショウの新たな低みに挑む。なんせ、人間と動物を、早食いやかけっこ、力勝負などで勝負させてしまおうというのだ。この話が言語道断なのは、いくらなんでも無理がありすぎるからだ。例えば、いくら100メートルを10秒以内で走る人間を連れてきても、時速80kmで走れるゼブラと勝負して勝てるかあ? 100メートル10秒弱というと、時速に換算して40km近くでは走れる計算になるが、それでもまだまだ差はある。


第一、よーいどんと言って、ゼブラが合図に合わせて走ってくれるのか。万一そのゼブラに勝っても、そのゼブラが全力で走ったかなんて誰にもわからないし、他のゼブラの方が速いかもしれない。とにかく、いったいどういう基準で勝負する相手同志を選んだのかわからない、こういう無茶な勝負に、公正を期するのはまったく無理だろう。開いた口が塞がらないとはこのことだが、しかし、このあまりにも常識無視のアイディアに興味を惹かれ、ついつい見てしまった。ああ、私も段々FOXの術中に陥りつつある。


第1の勝負は早食い競争で、動物界代表のクマに挑む我らが人間界の代表は、現在、この分野で誰もが認める世界一の大食い、小林尊 (こばやしたける) だ。この人、「グラットン・ボウル」にも出ていたし、今ではこの種のゲテモノ競争では欠かせない存在になってしまった。なんか、この人もある意味でフリークスだよなあ。その小林は、得意のホット・ドッグの早食いでクマに挑む。50個のホット・ドッグを早く平らげた方の勝ちだ。クマによーい・どんでさあ食べてもいいよ、なんてやるのは不可能なので、とにかくクマが食べ始めた瞬間が勝負開始となり、それを見て小林もホット・ドッグをぱくつき始める。さて、勝ち目はあるのか。


クマが暴れ出さないという保証はないため、クマは高圧線を巡らされたリングの中でホット・ドッグにかぶりつく。さらに万が一を考えて、麻酔銃を構えた狙撃班と救急隊も会場内に控えているのだが、おかげでよけいもしかしたらという怖さが募る。クマが会場内に現れて、ぐああーっという雄叫びを上げた時は、いきなり小林の腰が引けたが、そりゃそうだろう、ありゃ怖いわな。


しかし、そういうことよりも気になったのが、その小林が旭日旗の鉢巻きをし、頭上には日の丸が掲げられているのに対し、一方のクマの頭上にはなぜだか星条旗が掲げられていることだ。アラスカン・ベアだと言っていたからには確かにボーン・イン・アメリカのクマなのだが、いつの間にやら人間対野獣のはずの対決の構図が、日本対アメリカという構図にすり換えられている。小林が日本を代表し、クマが大きくて頼りになるアメリカ代表だと言いたいことは明らかで、こんなことをするからアメリカが世界中からバカにされていることをいまだに気がつかない製作者の時代錯誤振りには、嘲笑するどころかほとんど悲しくなってしまう。


さて、勝負が始まって、数秒でこれは勝負にならないなということがありあり。だって、いくら小林が早食い名人といえども、クマの方は1個食うのに2秒しかかからない上、平気で2本、3本とまとめて食べる。もう、皿の上のホット・ドッグが減っていくスピードがまるで違うのだ。というわけで、クマは2分半で50個のホット・ドッグをすべて平らげ、その時点でまだ30数個目に挑戦していた小林に圧倒的大差で勝利した。しかし、小林、勝負の後のインタヴュウで、また機会があったら挑戦したいなんて言うなよ。次はワニと勝負させられるかもしれないぞ。


次の勝負はオランウータンとの綱引きで、対する相手はキトノナミ (Kitononami。どういう字を充てるんだろう。感じとしては北の浪なんだが) と紹介された相撲取りだ。ちゃんとまわしを締め、顔からしてこちらも日本人なんだが、小林と違い、流暢に英語を喋っているところからして、日系なんだろう。300パウンド超のキトノナミが、体重はその約半分に過ぎないオランウータンと綱引きするんだが、二人の間にアメリカ人の行司が立っていきなり軍配をかざし、ハッキヨイ、といって勝負が始まるところは、思わず吹き出してしまった。しかもその軍配には、「天下泰平」なんて書かれているのだ。おいおい、あんたらそれ、どこから調達してきたんだ。


勝負の方は、体重差から圧倒的有利に見えたキトノナミが、段々オランウータンに力負けして前に引かれてくる。へえ、たとえ半分の体重でも、オランウータンは体重差を跳ね返すだけの筋力があるのだ。結局キトノナミはこれをこらえきれず、二人の間にこしらえてあった泥水の中に転落、これで野獣チームの2連勝となった。それにしてもこの番組、人間対野獣どころか、今のところ日本人対野獣になってるなあ。頼むからあんまり世間の深層心理に悪影響を与えるような番組作りはやめてくれ。


3番目の勝負は100m走で、動物界代表としてまずキリンが登場。これに挑む人間代表は、実際に9秒台の記録を持つショーン・クロウフォード。しかもアドヴァイザー兼コメンテイターとして、カール・ルイスまで登場してきた。ルイスは昨年、TV映画の「アトミック・ツイスター (Atomic Twister)」でTVデビューを飾るなど、TV界進出を意識しているようだが、今のところ実が結んでいる様子はない。この100mダッシュ、キリンが途中で足がもつれたのか、それともふくらはぎ痙攣か、いきなり足ががくがくとしたかと思うと走れなくなり、クロウフォードが勝った。


それで次に連れられてきたのが、ゼブラだ。これはわりと速そうだ。案の定、ゼブラはクロウフォードに対し、いきなり最初の20mで差をつけ、楽勝。しかし、ピストルが鳴る寸前にゲートが開き、ゼブラが飛び出したため、あれはフライングじゃないかとクレームをつけたクロウフォードの要求が通り、再戦となった。今度はクリーン・スタートとなったが、全力で走っているようにも見えないゼブラであっても、やはり人間は敵ではなく、今回もゼブラの圧勝。動物界最速のチータを持ってくるまでもなかったようだ。チータは肉食だからな、クロウフォードがゼブラに勝ってチータとやるしかないという風になったら、プロデューサーはどうする気だったんだろう。しかしキリンもゼブラも、ゲートを開けるとちゃんと前に走り出した。これって習性なんだろうか。


4番目の勝負は障害物競争で、チンパンジーが人間と競争する。人間側は海軍上がりの元軍人で、彼らが平均台、綱渡り、塀越え等の障害物に挑戦、こちらはどうしても真面目にやっているようには見えないチンパンジーを、人間代表が下した。


さて、最後の勝負は、旅客機のDC-10を先に75フィート引っ張った方が勝ちという力較べに、ゾウと人間の集団が挑む。これがかなり趣味が悪いのは、ゾウと勝負するのが、44人の、いわゆる侏儒の集団であることだ。彼らがそれぞれにハーネスをとりつけ、足を踏ん張って一斉に力んで前進しようとする。これ、視覚的に非常に危ないものを見ているような気にさせられる。第一、一対一の勝負でなければ、最初から公平もくそもないではないか。それをハンデ戦にして、しかもわざわざ人間側を小人で揃えるこの趣味の悪さは特筆ものだ。FOXの本領発揮というところである。


結局勝負の方は、こちらも大して本気を出しているようには見えないゾウの方が、小人軍団より早くDC-10を75フィート引っ張って、人間側を下した。これで5番勝負で人間側は1勝しか上げることができなかったわけだが、しかし、まあ、動物側は一応その分野のスペシャリストを連れてきているわけだし、こんなもんか。ゼブラが走るのが遅ければ、それは即刻死を意味するわけだし、その他もそれぞれ得意分野で勝負しているわけだから、まあ、これはどう見ても人間には分が悪いだろう。


番組製作総指揮のエリック・ショッツとビル・パオラントニオは、やはりFOXが放送した「ブート・キャンプ」のプロデューサーでもある。今から考えると、「ブート・キャンプ」は全然まともな勝ち抜きリアリティ・ショウであった。ああ、もう、最近では次はFOXが何しでかしてくれるか、待ち望む気分になってるよ。







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Man vs Beast

マン vs ビースト   ★★

 
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