放送局: ABC

プレミア放送日: 6/25/2003 (Wed) 22:00-23:00

製作: グリーングラス・プロダクションズ、ヴィン・ディ・ボナ・ワールドワイド・エンタテインメント、DSエンタテインメント

製作総指揮: ヴィン・ディ・ボナ、ダニエル・シュワーツ

共同製作総指揮: キャシー・ウェザレル、テリー・ムーア、スティーヴ・パスケイ


内容: 日本でTBSが放送し、人気を博した「未来日記」をアメリカ版として再製作。


_______________________________________________________________


TV界においては、ある国で大ヒットした番組というものは、遠からず他の国でも放送される運命にある。それがリアリティ・ショウの場合だと、番組フォーマットだけを輸出入して、その国の実状にあった番組として製作し直されるのが普通だ。「サバイバー」「フー・ウォンツ・トゥ・ビー・ア・ミリオネア」も、そうやって世界各地に広まっていった。


しかし、時として、ある国でヒットしたからといって、他の国ではまるで見向きもされないこともある。例えば、フジの「料理の鉄人」は、番組をそのまま吹き替えたヴァージョンはアメリカでもかなりの人気を集めたが、それをアメリカ風に手を入れて製作し直した「アイアン・シェフUSA」は、一度寂しく放送されただけで、あとは話題になることもなく消えていった。これなんかは、いたずらに手を入れない方がまだよかったという例だろう。


また、今頃になって、TBS (東京放送) が80年代に放送した「風雲! たけし城」が、「モスト・エキストリーム・エリミネーション・チャレンジ (Most Extreme Elimination Challenge)」なんてけったいなタイトルを付けられてアメリカで放送され、話題になっている。基本的に当時の映像を編集して吹き替えているのだが、意訳なんてもんじゃない、完全にオリジナルのセリフを捏造して、登場人物の口の動きに合わせて、まったく本筋とは関係のない英語を喋ってたりする。


とはいえ、これなんか、同様の番組を今製作したら、怪我した参加者から訴えられまくりで番組製作どころじゃなくなるだろうから、当時の映像をそのまま使用せざるを得なかったということにも納得が行く。「たけし城」は、あれくらいやるから面白いのであって、ゲームに手心を加えて簡単/安全にしてしまっては面白くもなんともないのだ。しかし、15年前の映像を今見ると、当時の日本人がやたらと古臭く見える。時代が変わるのは速い。


さて、「デイティング・エクスペリメント」である。こうタイトルが変わってしまってはオリジナル番組を推測することは難しいが、実はこの番組、TBSの「未来日記」のアメリカ版なのだ。しかもこの番組、実は本当なら昨夏放送が予定されていた。プレミア放送予定日も発表になっていた。それなのに、その当日になって、発表されていた時間に放送されたのは、「NYPDブルー」の再放送だった。番組に自信をなくしたABCが、直前になって番組を差し替えたのだ。


実は、この「デイティング・エクスペリメント」、あまり面白くないという噂は耳にしていた。なんとなれば、オリジナルの「未来日記」だと、日記に感情を弄ばれ、それに戸惑いながらも行動する参加者の感情の揺れこそが見所であったわけだが、「デイティング・エクスペリメント」になってしまうと、参加者が喜んで日記の指示する通りに、あっちにふらふら、こっちにふらふらとしてしまう。あるいは、感情を押し殺すのではなく、節制の美徳のないアメリカ人は、すぐに感情を爆発させてしまい、日記に翻弄される人の心の葛藤を見る視聴者の楽しみという点では、ほとんど番組の所期の目的に沿うものではなくなってしまったと聞いた。


実際、番組タイトルも、最初こそ「未来日記」を直訳した「フューチャー・ダイアリー (Future Diary)」で通っていたが、しばらくすると「ダイアリー・アフェアーズ (Diary Affairs)」というタイトルが発表になり、そして最終的に「デイティング・エクスペリメント」で落ち着いた。これだけでも、番組製作に関して迷っていたか、あるいは統一がとれていなかったことが窺われる。結局、番組は棚上げされちまったまま、いつまた放送するという予定の発表もなく、そのままなし崩し的に、番組はキャンセルされてしまったものと思われた。実際、私はもう「デイティング・エクスペリメント」が放送される見込みなぞないものと思っていた。


それがいきなり、1年後の今夏に再度編成が発表された。ABCは番組製作に当たり、TBSにそれ相応のコピーライト・フィーを払っている上、さすがに、一度金を積んでせっかく製作した番組を、そのままお蔵入りさせるのは、いくらなんでももったいなさすぎると思ったようだ。今度はまさか、また直前になって放送差し替えなんてことはあるまい。


しかし、この番組が1年もお蔵入りになっていたのは、TVファンならば既に周知の事実で、はっきり言って、番組に対する期待度はそれほど高くはなかったと言っていい。実際、ABCは、まあ、普通に自チャンネルでは番宣はしていたようだが、一度お蔵入りになった番組に対するマスコミの態度は冷たいもので、「デイティング・エクスペリメント」が、ABC以外のマスコミ媒体で紹介されたのは、私の知る限り、確か「エンタテインメント・ウィークリー」が、「昨年お蔵入りになった番組が、(製作費を無駄にしないために) やっと今放送される」と、ふざけ半分に紹介した一本の記事のみだった。


そのプレミア・エピソードの放送が始まって、私は、あれ、番組ホストのヘクター・エリゾンドはどうしたのと思ってしまった。昨年番組編成が発表になった時は、「シカゴ・ホープ」等で知られるこのおっさんが、番組ホストとして名前が挙げられていた。実際、彼が前口上を述べる収録も既に済んでいたようで、エリゾンドの写真が、ABCが配布するプレス・リリースにもちゃんと登場していたのだ。それが、いざ放送が始まった番組では、エリゾンドが番組を紹介するホストとしてではなく、後ろに引っ込み、ただ、ナレーションのみを担当している。番組紹介は何もなく、いきなり本題に入ってしまうのだ。


これはABC、昨年いったん番組を棚上げにしてから、だいぶ番組をいじったようだ。いくらなんでも本編そのものの撮り直しをしたとまでは思えないが、それでも、だいぶ編集し直しただろうというのは、想像に難くない。実際の話、「エクスペリメント」は、ほとんど「未来日記」の焼き直しという風には見えない。似たような状況設定の、まったく別の番組という印象が濃厚だ。


「未来日記」は、ほとんどシングル・カメラ撮影の、ドキュメンタリー・タッチの番組であった。編集で盛り上げるというよりも、あまりカットを入れず、被写体にカメラが密着して、その一挙手一投足を余さずとらえるところに主眼が置かれていた。ところが「エクスペリメント」は、連続したカットが特徴で、それができるには、常時2台以上のカメラで同じ被写体を撮影している必要がある。めまぐるしいカットは、3台以上同時に使っている時もあったんじゃないかとすら思わせる。撮影に当たって、万が一ポイントとなるシーンを撮り損ねた時のための予防策というよりは、最初からカットを多めにして、本当に題材が面白かろうがどうだろうが、編集によって何が何でも盛り上げるつもりでいたかのようだ。実際そうだったんだろう。


そういう番組進行だから、当然の如く、こっちが考えていた「未来日記」とは似ても似つかぬ、アメリカ版「未来日記」ができ上がった。プレミア・エピソードはサンフランシスコが舞台で、名所、アルカトラズ島で、その回の主人公である二人に一夜を過ごさせようという発想からして、既にスケールがアメリカ的だ。その主人公となるのは、シアトルのバーテンダー、モーガンと、ヒューストンでやはりバーで働いているシャイの二人。


アルカトラズは、極悪人ばかりを収容し、設備や監視の厳しさで脱走不可能として世に知られた刑務所が、今は観光地になった場所として名高い。日記の命により、その刑務所跡地で、二人は深夜、誰もいなくなった独房で、寒さに震えながら過ごさなければならない (一応、帰りの船に間に合わなかったから島に残らざるを得なかったという理由がついていたが、本当にそういうわけはあるまい。) 二人して毛布にくるまりながら、果たして二人の間に仄かな感情は芽生えるのか。


結果から言うと、この時はあまりにも寒すぎたみたいで、二人共そんな気分じゃなかったみたいだ。第一、ちょっと雰囲気が、ロマンティックというよりも怖すぎた。二人が今座っている独房にどんな囚人がいて、どんなことが行われて、もしかしたら夜な夜な亡霊が刑務所内を徘徊していたりして‥‥なんて想像したら、これはちょっとロマンスどころの話じゃないだろう。その上、寒いしベッドはないしシャワーは浴びれないしお腹はすくしで、シャイなんか、はっきりと怒っていた。これはちょっと、選ぶ場所を失敗してるよ。あるいは、もしかしたら、わざと心細い思いをさせて、お互いに気持ちを寄り添わせようという思惑があったのかもしれない。いずれにしてもそっちも成功しているようにはまったく見えなかったが。


しかし場所を替えてサンフランシスコの繁華街に戻り、二人してマッサージを受けたり、ホット・バスに入って寛いだりしてからは、事態はなにやらお熱くなっていく。やっぱり、恋愛感情というものは、気持ちに余裕があった方が高まりやすいみたいだ。また、アルカトラズで怖い思いをした反動という点も確かにあろう。その点では、アルカトラズの選択も悪くはなかったか。また、二人はスカイ・ダイヴィングなんかもやらされていたが、どうもこちらの番組製作者は、怖い思いをさせた方が、感情が高まりやすいと思っている気配が見受けられる。まあ、確かにその後で、二人してふうふうきゃあきゃあ言っているところを見ると、それもあながち間違いではないとも言える。しかし、やはり、「未来日記」とはそこはかとなく違うなあ。


しかし、そうやって二人の気持ちがなんとなく接近してきたように見えるところで、唐突に日記はこのロマンスの終焉を伝える。未練を持ちつつも、日記の命令に従うしかなく、二人は離れ離れに。それで本当に二人の間はおしまいなのか。なんか、ようやっといい感じになってきたのに。特に、どちらかというとモーガンとシャイでは、モーガンの方がシャイを気に入ってたようで、気落ちしている。そのモーガンは、一人、二人が初めて出会ったアルカトラズ島のベンチに座って、もしかしたらシャイが来てくれるかもしれないという僅かな可能性に一縷の望みを託す。


シャイはほとんど自分の感情を隠さない、いかにも強いアメリカ人というタイプの女性で、私は、人選としてはこれは間違いなんじゃないのかと思っていた。これだと、「未来日記」的な感情の揺れの発露なんか、あまり期待できないな思っていたし、実際、ほとんどのシーンにおいて、その危惧は当たっていた。いくらアメリカナイズすることが番組製作には必要だとはいえ、番組の根幹の部分を違えては、番組が成功することは覚束ない。その上、はっきり言ってしまうと、シャイはあまり可愛くない。そういう子がずけずけ私はあまりモーガンは好きではない、みたいなことを言うもんだから、視聴者としては、シャイに反感を持ちこそすれ、あまり感情移入することはできない。


だから、どちらかというとモーガンの方に肩入れして、あんな女、待っててもしょうがないよ、どうせ彼女は現れないよ、帰った方がいいよと思っているのだが、モーガンは一日中、ほとんど日の出から日没まで (というのは誇張だが)、アルカトラズでシャイを待ち続けるのだ。そして、意外なことに、その、自分勝手で我が強く、モーガンを大して気に入っているようには見えなかったシャイが、最後の最後になってアルカトラズに現れて、番組は幕を閉じる。モーガンの嬉しそうなこと。


へえ、そういう筋書きだったのか。この二人はうまく行かないとこちらは思っていただけに、最後の意外性は充分だった。しかしシャイがモーガンをあまり気に入っているようには見えなかったのは、どうやら編集の時に、わざとシャイがそういう素振りばかりをしているところを集めて、最後のどんでん返しに備えていたのかもしれない。いかにもアメリカのTV局のやりそうなことだ。とにかく、リアリティ・ショウであろうとなんであろうと、どうしても何らかのドラマを演出したいらしい。よくも悪くも実にアメリカ的だ。


視聴者としてはうまく番組の思惑に乗せられてしまったわけだが、とはいえ「エクスペリメント」のこういう姿勢は、やはり「恋愛日記」とは別物であるという感じが強い。別にそれはそれで面白くないわけではないのだが、やはり、ちょっと期待してたのとは違うかなという感じだ。さらに、一つの主題/出演者で何週間も続いていった「恋愛日記」と異なり、「エクスペリメント」は、一回60分放送分で一つのペアのエピソードが終わる。来週はまったく新しい人選のエピソードになるわけで、誰が出演しようと一回60分という番組製作の姿勢が、また、いかにもアメリカ的だ。


因みに番組の第2回は、双子の男性を一人の女性に絡めて、兄弟同士で火花を散らさせたりと、これまたいかにもアメリカ的な演出のエピソードで、モーガン/シャイ・エピソードと共に、こちらもなかなか面白かった。「恋愛日記」を期待すると裏切られたような気になるが、アメリカ産の新番組と割り切って見ると、演出過多の嫌いはあるが、それはそれで結構見られる。私の印象では、今、ネットワークで編成されている恋愛系のリアリティ・ショウの中で最も高い視聴率をとっているNBCの「フォー・ラヴ・オア・マネー (For Love or Money)」よりも、ティーンエイジャーに人気のあるFOXの「パラダイス・ホテル (Paradise Hotel)」よりも、こちらの方が面白い。


とはいえ、TV界では、視聴率を稼げなかったら、そこで終わりである。特に「エクスペリメント」は放送前からだいぶ番組にケチがついており、そのマイナス効果は無視できないものがあったろう。まず、批評家からほとんど無視され、彼らがTV評でもとりあげなかったために、こういう番組が放送されたことすら知らなかった視聴者も多かったと思われる。結局「エクスペリメント」は、その後、大した話題にもならずに、4回だけ放送されて終わった。番組製作は難しい。







< previous                                    HOME

 

The Dating Experiment

ザ・デイティング・エクスペリメント   ★★1/2

 
inserted by FC2 system