Titane


チタン  (2022年5月)

パンデミック、およびドナルド・トランプの謀反以降、アメリカでは民主党と共和党の対立がエスカレートしている。そのことを最もよく現しているのが、銃規制と妊娠中絶の是非だ。 

 

基本的に民主党は銃規制推進、中絶容認で、共和党は銃規制、中絶共に反対の立場をとっている。考えるに、民主党は銃を規制して中絶を容認する方が、今生きて暮らしている人々の暮らしを安全に、住みよくすると考えている。一方、共和党は、個人の権利を侵害されることを嫌うので、銃規制は論外、そして受胎した以上、お腹の中の子にも生まれてくる権利があると考えている。 

 

個人的には、ここまで銃乱射事件が頻発している以上、銃規制は必要だと思うが、反対意見は根強い。また、やはりどうしても中絶せざるを得ない状況の人もいると思うから、中絶を絶対反対するのもどうかと思う。 

 

などと日頃つらつら思っていたら、先日、米最高裁が、妊娠中絶の権利を認めた1973年のロー対ウェイド判決を覆すという驚愕のニューズがあった。トランプ在任時に保守多数になった最高裁判事が、判決をひっくり返したのだ。時代に逆行している気がするが、それともこれが時代の先端なのか。 

 

「チタン」では、主人公の女性がよりにもよって機械の、クルマの子を妊娠する。人間がアンドロイド化するとか半機械化するなんてのは、「ロボコップ (RoboCop)」「ゴースト・イン・ザ・シェル (Ghost in the Shell)」などこれまでにもあったが、今回はさらに一歩進んで、人間と機械の子孫ができる。あるいはある意味デイヴィッド・クローネンバーグの「ヴィデオドローム (Videodrome)」に近いものがあるような気もする。人間が機械の機能を持つのではなく、合体、共存するという感じだ。 

 

いずれにしても、人間の女性がクルマの子を妊娠するというストーリーは、実際に見るまでは納得し難かったのは事実だ。そんな話、どうやって撮るんだとしか思えない。正直、突っ込みどころは満載なのだが、それでもそれを力技で乗り切る演出のジュリア・デュクルノーと、主人公のアレクシアに扮するアガト・ルセルには感服する。 

 

一方でアメリカでは、望むと望まざるとにかかわらず、もしクルマの子を妊娠してしまったとしても、法律によって産まざるを得ないという時代が来る。映画ではまだ中絶をするという選択肢があり、アレクシアは実際にそうしようともする。しかしそこで中絶の選択肢がない場合、これはかなりのホラーなのではあるまいか。むしろ人工中絶には女性の権利というよりも、人類の未来を保証する意味合いの方が大きいのではないかと、「チタン」を見た後には思ってしまった。あるいは、もしかしたら人間とマシーンが敵対する「ターミネーター (Terminator)」や電脳世界で対峙する「マトリックス (The Matrix)」とは異なり、人類とマシーンが共存共栄する新しい道が拓かれたのかもしれない。 


 









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フランス。アレクシア (アガト・ルセル) は幼い頃、交通事故に遭い、頭蓋にチタンを埋め込まれる手術を受けていた。成長したアレクシアはアンダーグラウンドのモーターショウでコンパニオンのような仕事をしており、セクシーなアレクシア目当ての男性ファンもいた。ある時、執拗な追っかけに切れたアレクシアは、男を殺してしまう。しかし追われて結局捕まったアレクシアの前に、ヴァンサン (ヴァンサン・ランドン) が現れる。ヴァンサンはアレクシアをかつて行方不明になった息子だと断言し、アレクシアを引き取る。ヴァンサンは消防隊のチーフであり、ヴァンサンとアレクシアの奇妙な共同生活が始まる‥‥ 


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