The Matrix: Resurrections


マトリックス レザレクションズ  (2022年1月)

女房が、「メイトリックス」って、日本では「マトリックス」というんだね、と、ふと口にした。日本のTVかなんかで言っていたらしい。言われてみると確かにその通りで、アメリカでは誰でも「メイトリックス」と発音するが、日本語表記・発音は「マトリックス」だ。この自動変換は頭の中で無意識に行われるので、大昔はそれなりに気にかかったかもしれないが、今では意識の表層まで上ってこない。日本語で「マトリックス」と書かれているのを読んでも、頭の中で自動変換されて「メイトリックス」として認識している。これって、もしかしてメイトリックスの世界に住んでいても本人が自覚していないことと同じか? 

 

さて、実は「マトリックス」3部作がどういう終わり方をしたか、もうよく覚えていない。確か、マシーンに対して勝利したんじゃなかったっけ、という記憶ももう朧だ。一方で最初の「マトリックス」は、細部は忘れているとはいえ、要所要所は今でまだ結構覚えている。やはり「マトリックス」3部作は、第1作が最もインパクトが強かった。 

 

人類とマシーンとの戦いが中心の第2作以降の「リローデッド (Reloaded)」「レボリューションズ (Revolutions)」より、ネオが覚醒していく様を描く「マトリックス」の方が、ストーリー的にもヴィジュアルの点でも、よりエキサイティングだった。いや、正確には、「リローデッド」と「レボリューションズ」のアクションの方が、より金がかかって大掛かりで、少なくとも見ている時は圧倒するのだが、後で記憶に残っているのは、やはりオリジナルの「マトリックス」の方だ。 

 

最初に見た時のあのイメージの斬新さは、網膜にこびりついて、忘れようにも忘れられない。ネオが銃弾を避ける屋上でのあのポーズを真似したことのないSFファンはいまい。先頃終わった北京冬季五輪でも、フリースタイルやエアリアル競技で、スロウモーション再生で競技者が宙に浮いた地点で止まったままカメラがぐーんと動いていくショットを、メイトリックス・カムと呼んでいた。 

 

「レザレクションズ」は、伝説的ヴィデオ・デヴェロッパーとして働くトマス・アンダーソンを描くところから始まる。どうやら彼は覚醒したネオではないようで、ということは、人類はマシーンに勝利したわけではなかったのか? 最近、「デューン (Dune)」を見た時も、昔見ているし、おさらいは別にしなくてもいいかと高を括って見始めたらストーリーがよくわからず失敗したと思ったのだが、それで学習しないで、また同じ轍を踏んでしまった。今回は「デューン」ようにリメイクではなく新しい作品になるわけだから、これこそ復習しておく必要はないだろうと思っていたのだが、そんなことはない。それまでの展開を押さえていて見るのとそうでないのとは大違いだ。 

 

そう思って「レザレクションズ」を見た後に、自分の書いた「リローデッド」と「レボリューションズ」を読み直してみたんだが、ものの見事に細部を忘れていた。というか、「レボリューションズ」の時点で、既に半年前の「リローデッド」を覚えていないと言っている。20年後ならさらに忘れていて当然と、ほとんど開き直る。当時書いているように、何が起こったかを100%理解しているか疑問だったため、あやふやの理解のまま多くが記憶からこぼれ落ちてしまっている。その前に見た「マトリックス」の方を、まだよく覚えている。 

 

「レザレクションズ」では、人類がマシーンに勝利した後というよりも、印象としては人類とマシーンが未だに戦っているパラレル・ワールドだ。近年の量子力学によると、マルチヴァースは空想の世界の中の出来事だとも言い切れないそうなので、設定としてはあり得ないとも言えない。「ターミネーター」フランチャイズは、既にこのプロットを利用している。 

 

その世界では、覚醒していないネオとトリニティが、お互いに微妙な距離感を保ちながら、同じ生活圏内にいる。まだネオもトリニティも覚醒していないが、やがてネオが覚醒し、トリニティの覚醒を手引きすることになる。要するにオリジナルと展開が逆だ。 

 

今回の演出はこれまで「マトリックス」3部作で共同クレジットされていたラリーとアンディのウォショウスキー兄弟ではなく、その後性転換した兄で元ラリーのラナ・ウォショウスキーが一人でクレジットされている。近年はウォショウスキー姉弟として紹介されることも多く、今回単独クレジットということで、性別が変わったために姉と弟で仲違いでもしたのかなと思っていたら、弟のアンディも、やはり今では女性のリリィなのだそうだ。今ではウォショウスキー姉妹だ。いずれにしても彼女らの、ここは自分らのいるべき場所ではないという気持ち、認識が、「マトリックス」の根幹にあるのは確かだろう。 

 

「レザレクションズ」で最も気になるのは、ストーリーや演出・アクション云々より、たぶん私だけでなく多くの人にとっても、多少腹が出て濃くなったネオ/キアヌ・リーヴスにあるのではないかと思う。ネオというより、これでは「ジョン・ウィック (John Wick)」だ。あの端正な顔のネオの印象をいまだに引きずったまま見始めると、些か衝撃を受けそうだ。 

 

リーヴスに較べると、トリニティに扮するキャリー-アン・モスはかなり昔のままという印象がある。意外と気にならなかったのが、新しいエージェント・スミスに扮したジョナサン・グロフで、ヒューゴ・ウィーヴィング演じるスミスだってあれで印象固まっているのだが、グロフも悪くない。さらに新しいキャラクターのアナリストに扮したニール・パトリック・ハリスも、「ゴーン・ガール (Gone Girl)」以来、悪役も板についてきた。 


 











< previous                                      HOME

トマス・アンダーソン/ネオ (キアヌ・リーヴス) は伝説的なヴィデオゲーム・デヴェロッパーだったが、時に幻覚や目眩に悩まされていた。行きつけのコーヒー・ショップで目にする女性ティファニー/トリニティ (キャリー-アン・モス) のことが気にかかり、彼女のイメージを利用してヴィデオゲームを製作したりしていたが、なぜ彼女のことがこんなにも気にかかるのか、本人にもよくわからない。実はトマスのビジネス・パートナーであるスミス (ジョナサン・グロフ) こそ姿を変えたエージェント・スミスで、トマスがネオとして覚醒しないよう見張っていた。マトリックス世界の危険を察知したスミスは、トマスを消去しようとする。しかしトマスが作っていた仮想世界のモーダルによって姿を現したモルフェウス (ヤーヤ・アブドゥル-マティーン2世) とバッグス (ジェシカ・ヘンウィック) によって、トマスは現実世界で再びネオとして目覚める。ネオはトリニティもなんとか覚醒させようと画策する‥‥ 


___________________________________________________________

 
inserted by FC2 system