交換留学生として日本に来ているカレン (サラ・ミシェル・ゲラー) は、ヴォランティアとして、日本に来ているウィリアムス家の寝たきりの母の面倒を見ることになる。前日にその家に来たはずの前任者のヨーコと連絡がとれないのだった。カレンはその家で得体のしれないものを見る。実はその家では以前に一家心中があり、家の中に漂う怨念が、家の中に入った者を呪い殺していたのだ‥‥


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思いもかけなく日本産の映画のリメイクが二本、アメリカでまったく同時期に公開となった。一本は「Shall We Dance?」、もう一本は「呪怨」のリメイクである「The Juon」である。もう既にかなり前の作品であるオリジナルの「シャル・ウィ・ダンス?」に較べ、「呪怨」の方は、実は今夏、アメリカでも公開されている。オリジナルが公開されたばかりの作品のリメイクに意味があるのかなとも思うが、まあ、しかし、ほとんどのアメリカ人はわざわざ字幕入りの映画なぞ見ないのが普通だし、限定公開のため、都市部に住んでいる者以外には見る機会がなかったのも確かだ。かくいう私もわざわざ休みの日にマンハッタンまで出向くのがかったるかったわけだし。


というわけで、オリジナルの「シャル・ウィ・ダンス?」は見ているが、こちらは見ていない「The Juon」の方がどちらかというと気になるなあと思っていた矢先、ローカル・ニューズを見ていたら、「The Juon」公開初日の某映画館で暴動があって、警官隊が出動することになったという騒ぎを報道していた。どうせ血気にはやる若者が劇場に銃でも持ち込んだか、大声でぺちゃくちゃ喋るか携帯鳴らしまくって喧嘩になったんだろうと想像するが、いずれにしても、ニューズ・ネタになる「The Juon」がなにやら面白そうだと思っていた。そしたら初週の興行成績3,000万ドル、楽々とその週で1位になっただけでなく、さらに第2週目も堂々と1位をキープしたという話を聞くにつけ、俄然こちらに惹かれ始める。夏頃までは是非「Shall We Dance?」も見たいと思ってたんだが、ひとまず後回しだ。


それにしても今回のリメイクでいきなり驚かされるのは、アメリカから出演している役者陣のかなりの豪華さである。サラ・ミシェル・ゲラーは「バフィー」という妖怪? 退治の専門家だったこともあり、この手の役は慣れているし若者にも人気があるから、まあ妥当な人選と言えるかもしれない。そういうゲラーにわざとセンスない服を着せてダサく見せているのは、湿り気のある和製ホラーになんとかゲラーを違和感なくはめ込もうとした戦略だと思うが、それはそれでなかなか楽しい。クレア・デュヴォールやウィリアム・マポサーもわりと中堅どころという印象があるし、ローザ・ブラシは「ダナ&ルー (Strong Medicine)」で主演しているから日本でもかなり顔は知れているだろう。それにビル・プルマンは一時は「インディペンデンス・デイ」で大統領役さえ務めたことがある。


これらのメンツが大挙して出演するほど、アメリカにおける和製ホラーの知名度は上がっている。もちろんこれはナオミ・ワッツが主演したリメイクの「リング」成功の賜物であって、このおかげで和製ホラーに対する注目度は格段にアップした。ハロウィーン直前にはTVでも様々なホラー特集を放送していたのだが、たまたまその手の番組を見ていたら、ゲストの一人が、「『リング』のあのTVのシーンは怖かったよねえ」と発言していた。当然そのオリジナルが日本製ということも知っており、日本製ホラーは怖いという認識が既に一般に浸透していることが、「Juon」の予想外の好調に繋がっている。ハリウッドでは公開映画がどのくらい稼ぐかが事前に予測され、だいたいそんなに外れることはないのだが、誰も「The Juon」がここまで稼ぐとは予想していなかった。業界人の予測よりも速く、和製ホラーは着実に市民権を得ている。アニメの次にアメリカを席捲するのは、ホラーかもしれない。


さて、今回、よく知られたメンツを揃えたことによる利点は、もちろん、なによりもまずその注目度、パブリシティにある。「リング」効果によって和製ホラーの注目度が高まっていたことももちろんあるが、さらにこれらのよく知られた俳優陣が大挙して出演したことにより、こんなに知られた俳優が何人も出るくらいだから面白いに違いないと考えた者が大勢いたことは間違いない。


そしてたぶん、今回は「リング」のリメイクのように舞台をアメリカに移し替えたのではなく、東京が舞台であるということも、興行的にはプラスに働いたようだ。これがホラー以外のジャンルなら、舞台が国外で、セリフの4分の1が知らない言葉という状況は、字幕に慣れていないアメリカ人に対する興行としては、通常、あまり有利には働かない。ましてや東京の下町なんか、普通のアメリカ人にとってまったく未知の場所だろう。ところがそれがホラーだと、登場人物の疎外感を増す効果として作用するため、逆に有効だ。そのせいで普段はきゃぴきゃぴという印象があるゲラーが、ちゃんと神経症的な女性に見える。


なんでも「呪怨」は最初ヴィデオで発売され、それが話題になったために劇場用が改めて撮影され、そして今回、アメリカ版リメイクが公開されたということだ。つまり、都合3回撮られている。しかも3本とも基本的にまったく同じ話らしい。東京の下町が舞台であるから最初の2作が収まるべきところに収まっているのは当然として、では、今回、アメリカ人俳優大挙出演で作品としてちゃんと機能したかというと、「Juon」しか知らない私が見ても、それなりに面白い。詰め込み過ぎという嫌いはなきにしもあらずだが、充分楽しめる。アメリカでも、新し物好きの若者になら充分受けるだろう。本当ならここで、オリジナルから新しく加わったもの、失われたものの比較ができれば面白いんだろうけれども、最近、なんかのリメイクが公開されても、そのオリジナルを見る時間がない。結局今年見た「マンチュリアン・キャンディデイト」「ステップフォード・ワイヴズ」「レディ・キラーズ」も、結局オリジナルを見ないままここまで来てしまった。「呪怨」も、当分は見る機会はなさそうだ。


「Juon」で私が最も怖かったのは冒頭のプルマンのシーンで、「ドーン・オブ・ザ・デッド」でもそうだったけど、やっぱりああいう、理由もなく事件が起きるのが怖い。理由もなく危険が迫ってくるというのが私にとっては一番怖いのだ。こういう静かな怖さに較べると、その後で大きな音やいきなりのアクションで怖がらせるショッカーは、さすがにもう慣れたというか、先が読める場合が多かった。そしてそれは私だけでなくアメリカ人でも結構そうみたいで、私の印象では、観客が最もざわついたのは、やはり冒頭のプルマンのシーンだった。ただしホラーの場合、先が読めるというのは必ずしも作品としてはマイナスにはならない。来るぞ来るぞと思わせといてバンと出すことはホラーの醍醐味の一つであり、要するに、そこをうまく演出できるか否かこそが問題となるからだ。そこで及第であれば、和製ホラーだろうと西洋ホラーであろうと、観客は受容する。


結局、日本的なホラー、西洋的なホラーという伝統的な違いはもちろんあるが、それでも、怖いという心理、怖いもの見たさという心理は、やはり世界共通なのだ。だからアメリカ人俳優を使っているとはいえ、東京の下町が舞台で内容はオリジナルほとんどそのままの「Juon」がアメリカでも受ける。あるいは、これまでアメリカ人が見てきたホラーとは異なる舞台、異なるテイストという点こそ、「Juon」が受けた最大の理由であるかもしれない。いずれにしても、来年は今度は「リング2」公開も控えている。もうしばらくの間は和製ホラーのブームは続きそうだ。 






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The Grudge   The Juon/呪怨  (2004年10月)

 
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