やり手のTVプロデューサーとして知られるジョアンナ (ニコール・キッドマン) は、しかし、プロデュースしたリアリティ・ショウで袖にされた男が銃を乱射して自殺するというスキャンダルのおかげでTV局から干されてしまう。これを機に家族というものをやり直そうという夫のウォルター (マシュー・ブロデリク) の意見を受け入れ、二人は子供を連れてコネティカットの高級住宅地ステップフォードに越してくる。その町の住人の妻たちは、全員が判を押したように完璧で、ジョアンナと、親しくなった友人のボビー (ベット・ミドラー)、ゲイのロジャー (ロジャー・バート) は、なにやら胡散臭いものを感じるのだった‥‥


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「ステップフォード・ワイフ」は、昨年からなにやら内容はよくわからないが、主演のキッドマンが車やら宝石やらの、高級品に囲まれた女性という立場を強調したようなティーザーが既に劇場で流されており、なにやらそそるものがあった。しかし、その時点ではコメディ・ホラーということは知らなかった。


というか、この作品が、75年に製作された同名タイトルのリメイクだということも、評が出回り始めた最近になるまでまったく知らなかった。こないだの「レディ・キラーズ」も見る直前までリメイクということを知らなかったので、ちょっと不勉強すぎるかなと少し反省モードに入っていたのだが、オリジナルのキャサリン・ロス主演の「The Stepford Wives」は日本未公開だそうで、それなら知らなくても少しは弁解の余地はあるだろうと一安心する。そしたら原作はアイラ・レヴィンだそうで、ミステリ・ファンの私としては、それを知らなかったのは、やはり不勉強のそしりを受けても弁明できそうもない。


しかし、自分の不勉強を棚に上げて言わせてもらうと、この邦題には不満たらたらである。オリジナル・タイトルは、「ステップフォード・ワイヴズ」と複数形だ。それがなんで勝手に「ステップフォード・ワイフ」と単数になる。「ワイフ」にしてしまうと、一人しかいないから、反射的に思い浮かべるのは主演のキッドマンただ一人だ。しかし、このタイトルが意味しているものは、ステップフォードの町に住む、完璧でただならぬ雰囲気を醸し出す主婦たちなのだ。だからこそこのタイトルが意味深で、不吉な含みを持つのに、「ワイフ」にしてしまうと、まったくお門違いも甚だしい。


「ワイヴズ」、あるいは「ワイブズ」という単語の響きが日本人に馴染みが薄いなんてくだらない理由は、間違っても言ってもらいたくはない。今時、そのくらいも知らない中学生なんていないし、そのくらいも知らない頭の悪い配給会社の誰かと我々観客を一緒にしてもらいたくはない。「レディ・キラーズ」だって、「レディ・キラー」じゃなくて、ちゃんと「キラーズ」になっているのに、まだまだだったか (本当は「レディキラーズ」とワン・ワードで、さらに言うと「レイディキラーズ」なのだが、この際そこまでは言うまい。)


さて、この「ステップフォード・ワイフ」、なんといっても見どころは、キッドマン、ミドラー、それにステップフォードの妻たちを仕切るグレン・クロースの、ハリウッドを代表する3人のオーヴァー・アクティング女優の揃い踏みにあるのは言うまでもあるまい。キッドマンはその本質が過剰気味の演技にあるのに、綺麗すぎる顔が邪魔をしてなかなかスラップスティック系の作品で芽を出せない。逆にスーパーシリアスのラース・フォン・トリアーの「ドッグヴィル」に主演したり、抑え気味の「めぐりあう時間たち」みたいな作品でオスカーなんかとっちゃってしまったが、順番が逆のような気がする。ついでに言うと、ロジャー・バート演じるゲイのロジャーも、当然オーヴァーな所作がつきもので、それを考えると4人のオーヴァー・アクティング競演と言えるかもしれない。


特にキッドマンは、こういう役こそ彼女の魅力を最大限に発揮することを存分に知らしめている。目薬を差さなくても涙を流すことが可能っぽい彼女の大袈裟な表情の魅力を存分に楽しめるのが本作で、しかも、ボーイッシュなブルネットに染めたキッドマンのボブ風の髪型は非常によく似合っており、文句なしに可愛い。「時間たち」も「ドッグヴィル」も、それはそれで悪くなかったが、本質的に、彼女はやっぱり大仰な役者なのだ。来年公開の「奥様は魔女」も、当然はまるだろう。


一方、その大袈裟演技の彼女らに対抗する男優陣が、今度はアンダー・アクティングの代名詞的なクリストファー・ウォーケンとマシュー・ブロデリクだ。どんなに笑い顔を見せても抑えているようにしか見えないウォーケンと、感情の起伏が乏しいとしか思えないブロデリクを相方に配したキャスティングには、思わずにやりとさせられる。ブロデリクなんか、成人してもその童顔の無表情さによって年齢不詳で、おかげで、なぜだかそこを買われて子供向け作品への出演が途切れないという、独自の地位を築いている。


この作品でクロース・アップが印象に残るのは、当然キッドマンと、ブロデリクなのだが、どんどんカメラが寄ってアップになっていくのに表情を表に現さないことが求められているブロデリクと、喜怒哀楽の激しいキッドマンのコンビは、思ったより楽しい組み合わせになっていて、見飽きない。当然、考えていることを表に出さないという人物の方が裏で何かを画策しているのだが、それは何か。そんなもの、最初から謎というほどのものでもなく、観客にはわかるように作られているのだが、それでもついつい次どうなるのか期待してしまう。


キッドマンは、黒髪とブロンドという2種類の髪型で観客を楽しませてくれるのだが、現代でもなぜだかブロンドが男性の理想と思われているらしい。実際、後半、ブロンドでスクリーンに現れるキッドマンの方が、少なくともゴージャスに見えるという点は否定できない。やはりゴールドとブラックでは、ゴールドの方が金がかかっているように見えるのだ。作品内でミドラーが、この町の女性は皆白人ばかりで、黒人もエイジアンもいないのはヘンだ、なんて言うシーンがあるが (実際には町には少数だが黒人女性もいる)、やはりものごとを高級に見せるためには、金色がはずせないということか。人はきらきら光るものに弱いのだ。しかし、それでも言わせて貰えれば、個人的にはキッドマンは黒髪の方が可愛く見える。


作品はコメディ・ホラーとジャンル分けされているのだが、コメディの部分で個人的に最も受けたのが、ウォーケン演じるマイクが、実はマイクという名前は本名ではなく、マイクロソフトのもじりであるということをブロデリクに告白するところで、完全にマイクロソフトを悪玉視するところがマック派の私としてはもろにツボで、爆笑してしまった。しかし、そこのところで笑ったのは観客の中では私一人で、一般観客にとっては、別におかしくもなんともないただの捨てギャグだったようだ。しかし、ウォーケンがまじめくさった顔で、実は‥‥とブロデリクに持ちかけるシーンを思い出すだけで、私は思い出し笑いしてしまうのだが。 







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The Stepford Wives   ステップフォード・ワイフ  (2004年6月)

 
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