2019年末のアメリカTV界最大の話題は、正確にはTVではなく、ディズニー+とアップルTV+という、二つのストリーミング・サーヴィスにあった。共に11月からオリジナル・コンテンツの提供を開始、特にディズニー+は、それまでの膨大なディズニー・ソフトが見放題ということもあって、爆発的人気を博した。
一方、アップルTV+の方は、たとえ天下のアップルのストリーミング・サーヴィスといえども、この業界では新参、ほぼオリジナル・コンテンツにめぼしいものがないこともあって、加入者獲得には苦戦している。基本的に過去30年以上にわたってマック派の私でも、特にアップルTV+には惹かれていなかったというのが本当のところだ。
それでも、ただ1本、この「サーヴァント」だけは気になった。なんとなればこの番組、M. ナイト・シャマラン製作演出なのだ。全話演出を担当しているわけではないが、それでもシャマランが携わるホラーというだけで、大いにそそられる。
話はフィラデルフィア (もちろんシャマランの地元であり、シャマラン作品の多くの作品の舞台でもある) のタウンハウスに住むカップルの元に、住み込みのナニーが訪れたところから始まる。TVレポーターのドロシーとセレブリティのお抱えシェフのショーンの夫婦にはジェリコというまだ幼い息子がいて、その世話の必要があった。
しかし、ジェリコは実は人形だった。まだ乳飲み子だったジェリコを不慮の事故で亡くしてしまったドロシーは、精神的に不安定となり、医者の勧めで代替人形を手に入れ、それに愛情を注ぐようになる。ジェリコはドロシーにとっては生きている赤ん坊そのもので、彼のためにナニーを雇いたいというドロシーの頼みを、ショーンは断ることができなかった。
しかしナニーのリアンは、人形であるジェリコを、ドロシー同様、演技ではなくさも生きているかのように扱う。さらにショーンは、リアンが今の時代には珍しいくらいの敬虔なクリスチャンで、思わず引いてしまうくらい熱心に神に祈っているのを見かける。
第1話の最後は、人形のジェリコを寝かしている子供部屋の音声応答システムから物音が聞こえ、驚いたショーンが部屋を覗いてみると、そこに本当に生きている赤ん坊が寝ているというシーンで終わる。この子はいったい‥‥という不気味かつ謎めいた展開で、さすがに作りがうまいなあと思わせる。
リアンはどうやら危ないくらい信心深い女性のようで、こういうカルトめいた人物造形は、最近ではどうしても「ミッドサマー (Midsommar)」のアリ・アスターや、「ザ・ライトハウス (The Lighthouse)」のロバート・エガース、「アス (Us)」のジョーダン・ピール等のホラー・フィルムメイカーを思い出さずにはいられない。ジム・ジャームッシュの撮ったゾンビ映画「ザ・デッド・ドント・ダイ (The Dead Don’t Die)」がコメディであったように、ゾンビはコメディ化し、結局やっぱり一番怖いのは人間であるというのが、近年のホラー作家の認識であるようだ。
「サーヴァント」はだいたい1本30分程度 x 10本の、ドラマとしては1話の長さは短めで構成されている。しかし話自体がスロウな展開で、雰囲気でじわじわと怖さを醸成する。そのため1話30分程度が、だれずにちょうどいい。これが通常のTV枠なら、ドラマだと1話60分で構成せざるを得ず、この悠揚とした話の進み方だと、盛り上がらずつまらないという意見が大勢を占めたに違いない。ストリーミングのドラマ・シリーズというのは、そういう点では従来の枠に縛られずに色々な提供方法が模索できて悪くない。