Midsommar


ミッドサマー (ミッドソマー)  (2019年7月)

タイトルの「ミッドソマー (Midsommar)」はスウェーデン語で、彼の地の夏至の祭りを意味する。現地発音だと「ミッドソンマル」というのに近いらしい。最初、こちらは「ミッドサマー (Midsummer)」だとばかり思っていたから、「Midsummer」ではなく「Midsommar」と知った時は、「ミッド」と「サマー」がくっついて語形が変化したのかと思った。 

 

「ミッドソマー」は、昨年「へレディタリー (Hereditary)」で注目されたアリ・アスターの長編第2作に当たる。「へレディタリー」は無国籍的というか、あまりアメリカには見えない背景を舞台としていたが、今度は完全に海外、北欧のスウェーデンが舞台だ。しかもこの作品、わざわざスウェーデンを舞台にスラッシャーものを撮ってくれと頼まれたものだという。そもそも、なんでスウェーデンで血みどろホラーを?  いったい誰が、またどういう理由で? と思うが、実際、アスターも最初話を断ったらしい。そしたらその後ストーリーが思い浮かんだので実現の運びになったそうだ。作る話も製作の背景も、やっぱり無国籍的だ。 

 

「ミッドソマー」は、舞台は違えども、やはりカルトが登場する。カルトの狂信的集団心理がもたらすホラーを描くのは、「へレディタリー」も「ミッドソマー」も同じだ。ということは、結局世界のどこにいても人間が一番怖ろしいということになろうか。 

 

そのスウェーデンのカルトの世界に、アメリカの大学で民俗学を研究している学生が招かれる。スウェーデンからの留学生が、めったにない夏のお祭りが開催されるので、学生たちを招待したのだ。主人公ダニは、精神の不安定な妹が両親を殺害して自殺した後で、その痛手からまだ立ち直っていなかった。気持ちはもう離れているが彼女を見捨ててもおけないボーイフレンドのクリスチャンは、ほとんど成り行き的にダニも誘ってスウェーデンに発つ。 

 

ダニに扮するフローレンス・ピューは、特に美人というわけでもスタイルがいいというわけでもないが、その辺の普通さ加減が役柄にはまると、俄然魅力を増す。昨年のTVミニシリーズ「ザ・リトル・ドラマー・ガール (The Little Drummer Girl)」は、そんなピューの資質が見事にはまった例だった。近年エロティシズムを描く方向に進んでいるパク・チャヌクがピューを主人公に起用したことからでも、普通の女の子が一転してエロティシズムを放つ時が最もエロいと考えていることが窺える。そして「ミッドソマー」もその例に漏れない。 

 

「ミッドソマー」における白眉が、その年の祭りの女王を決めるためのエンドレスのダンスに借り出されたダニを描くシーンだ。祭りが初めてのダニは当然ダンスの振りも知らず、最初は周りの者を見よう見真似で、踊っている振りをするくらいでしかないが、段々興が乗るというか、踊りの世界に没入していく。ダンスは最後まで踊り通した者が女王になるため、踊り疲れたり転んだりした者が一人抜け二人抜けしていく。ダニは最後の方まで残っていき‥‥という展開。 

 

肉体を使う表現手段のダンスがエロティシズムに直結するのは当然だが、こういう、明るい陽の下での大勢が一斉に踊る民族舞踊は、やはりエロティシズムの発露というよりは陽気なお祭りだ。それに振りを知らないダニのダンスは正直言って下手で、見れるもんじゃない。それが見よう見真似で踊りながら自分の世界に没入していくダニに、何かがとり憑いたのか、素人のくせにダニは最後の方まで脱落せず残る。素人丸出しのダンスというよりは自我の崩壊か丸投げか。いや、エロくて怖い。よくこんなシーン撮れたなと思う。 

 

この映画、見終わって調べてから気づいたのだが、2時間半もある。因みに「へレディタリー」も実は2時間を少し余っている。通常、ホラーってのは1時間半というのが相場だが、ストーリーをしっかりと描き込むタイプの作品は、長くなる。とはいえ「ミッドソマー」が2時間半もあったとは知らなかった。夢中で見ていたのでまったく長さを感じなかった。 

 

アメリカのホラー界は活況を呈していて、アスター以外にも、「ゲット・アウト (Get Out)」「アス (Us)」で人種ホラーという新境地を開拓したジョーダン・ピールがこのジャンルを活性化している。それだけでなく、いかにもハリウッド・ホラーの「チャイルド・プレイ (Child’s Play)」、「アナベル (Annabelle)」シリーズの新作が今夏続け様に公開されて、結構人が入っている。本命「イット (It)」の続編公開ももうすぐだ。 

 

しかし、個人的にはいかにもハリウッド的なショッカー的なホラーよりも、雰囲気を醸成して怖がらせてくれる方が好みだ。その点でアスターは断然擁護するし、ピールの次の作品も気になる。ついでに言うと「ザ・ウィッチ (The Witch)」のロバート・エガースの新作が見れたなら、と思って調べてみたら、今秋「ザ・ライトハウス (The Lighthouse)」が公開される由。今年はホラーの豊作だ。そういえば「ウィッチ」も、ある意味カルト的な閉ざされた世界を描く話だった。やっぱり一番怖いのは超常現象の衣をまとった人間か。 











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ダニ (フローレンス・ピュー) には情緒不安定な妹がいて、始終それを気遣っていたが、ある日、妹は両親を殺害して自殺する。ボーイフレンドのクリスチャン (ジャック・レイナー) は実はダニと別れようと思っていたが、傷心のダニのことを考えてダニのそばにいた。クリスチャンら大学の仲間は専攻の研究のために、スウェーデンからの留学生ペレの招待で、何十年に一度という頻度でしか行われないフェスティヴァルに参加を決める。なかなか言い出せなくてダニにはまだ打ち明けていなかったクリスチャンだが、結局発覚し、ペレの意見もあってダニも一緒にスウェーデン行きを決める。ほぼ文明から遠ざかった世界でのフェスティヴァルは、初めこそ興味津々だったものの、意外な側面を見せてくる‥‥ 


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