The Dead Don’t Die


ザ・デッド・ドント・ダイ  (2019年6月)

いや、それにしても、ジャームッシュって、時々実にけったいな作品を撮るよね、というのが、「ザ・デッド・ドント・ダイ」を見た後の偽らざる感想だ。むろん見る前から、これが2013年の「オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ (Only Lovers Left Alive)」に共通するコメディ・ホラーで、一昨年の「パターソン (Paterson)」とは毛色の違う作品なんだろうなとは予想していた。 

 

しかし、とはいっても実際に「オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ」を見ていないこちらとしては、果たしてそれがどのくらいファンタジーでどのくらいホラーでどのくらいコメディなのか、実を言うとよくわからなかったというのが本当のところだ。 

 

また、「オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ」で描いていたのはヴァンパイアだが、「デッド・ドント・ダイ」で描かれているのはゾンビで、主演級で再度ティルダ・スウィントンが出ているとはいえ、単純に続編もしくはスピンオフ的な作品ではない。 

 

正直言うと、事前にホラー・コメディという内容を聞いていても、こちらとしてはいまだに「パターソン」の印象を引きずっている。あれは久し振りのジャームッシュにしか撮れない快作だった。それに主演していたアダム・ドライヴァーが再度出演するというと、頭の中では「パターソン」にちょっとホラー的味付けをしたような、自分の頭の中での「デッド・ドント・ダイ」ができ上がってしまう。 

 

そしたら、本物はそういう事前の予想や期待とまったく違う、確かにホラー・コメディの作品だった。「パターソン」とは全然違う。「パターソン」にも共通する、ジャームッシュ的な乗りやユーモアはないこともないが、しかし、「デッド・ドント・ダイ」は、ユーモアというよりもギャグで、「オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ」を見ていず、洗礼を受けていなかった身としては、ジャームッシュがスプラッタかという印象は強い。 

 

だいたい、コーヒーに目がないゾンビってなんだ。「コーヒー&シガレッツ (Coffee and Cigarettes)」を例に出すまでもなくコーヒー好きのジャームッシュだが、これはゾンビだってコーヒー好きがいるに違いないという確信か、それとも自分が死んでゾンビ化してもコーヒー飲みたいという宣言か。しかもいつの間にやらゾンビって、発話し、簡単な会話ならできるようになっているようだ。とすると、ゾンビは知能があることに他ならない。あいつらって、死んでいるから本能 (というのもおかしい気がする) で動いているだけで、何かものを考えているわけではないのではないか。考えることができるものは死んでいるわけがなく、それはもうゾンビとは言えないのではないか。 

 

一応主演は警察署長のビル・マーレイということになるんだろうと思う。その配下のドライヴァー、クロイ・セヴィニー、それに葬儀社経営のスウィントンが準主演というところか。さらに全編に散りばめられた数々の著名人の出演も見どころの一つで、セリーナ・ゴメス、トム・ウェイツ、キャロル・ケイン、ダニー・グローヴァー、ロージー・ペレス、イギー・ポップ、スティーヴ・ブシェミ、ケイレブ・ランドリー・ジョーンズなんて有名どころがさくさく出てくる。その全員がいかにもというキャスティングだ。その中で最初からゾンビとして出てくるポップは、どういう経緯で出演をOKしたのやら。 

 

「パターソン」に次いでジャームッシュ作品出演のドライヴァーの役名が、ロニー・パターソンというのがにやりとさせる。「パターソン」ではドライヴァー演じるパターソンのファースト・ネイムが何か最後までわからなかったが、ロニーだったのか。あるいは実はパターソンがファースト・ネイムという引っ掛けかもしれんと思ったが、ここへ来て「パターソン」の伏線を回収するとは思わなんだ。前回はバス・ドライヴァー、今回は制服警官だが、やはり何度もクルマを運転している。彼は絶対ドライヴァーという自分の名前からジャームッシュに役柄を連想させている。 

 

ラストは単にコメディ・ホラーというだけでなく、さらにSF的味付けまで加わってこれはいったい何なんだという世界で、呆っ気にとられたまま、世界は何の解決策も見つけ出せないまま幕を閉じる。飄々とした、肩の力を抜いたようなテイストが持ち味のジャームッシュが作った、肩の力を抜いたコーヒー好きのゾンビによる人類への教訓もしくは復讐譚? それを諦観するスウィントン。ゾンビ・コメディというのは、ジャンルとしてこれまでにもないわけではなかったが、ジャームッシュが作ると、やっぱり、なんか一と味違う。 











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アメリカの地方の小さな町センターヴィル警察署のクリフ・ロバートソン (ビル・マーレイ) 署長とロニー・パターソン (アダム・ドライヴァー) 警官は、町民のフランク・ミラー (スティーヴ・ブシェミ) の、ニワトリを盗まれたという被害届けの聞き込みに訪れる。帰路、クリフとロニーはもう夜の8時のはずなのに外がまだ明るいのに気づく。その夜、町の墓場から続々と死者が生き返り、ダイナーを襲い、従業員を食い殺す。ゾンビ化した死者が町の者を襲い、次々と餌食にしていく‥‥ 


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