The Lighthouse


ザ・ライトハウス  (2019年11月)

「ザ・ライトハウス」とほぼ同時期に公開され、たぶん同様にあまり話題にならず、公開1、2週ですぐに打ち切りになりそうと思われる作品に、フランソワ・オゾンの新作「バイ・ザ・グレイス・オブ・ゴッド (By the Grace of God (Grâce à Dieu))」があった。近年、間を置いて久し振りに見たオゾン作品の「彼は秘密の女ともだち (The New Girlfriend (Une nouvelle amie))」「婚約者の友人 (Frantz)」が両者とも面白く、やはりオゾンって面白いなと思っていたのにもかかわらず、昨年、「2重螺旋の恋人 (Double Lover (L'amant double))」を見逃した。 

  

それで今回こそと思っていたのだが、一応ヴェテラン監督のオゾン作品だからしてアメリカでも公開はされるが、評判になるとまでは言い難く、公開されてもせいぜい1、2週間という気配は濃厚にあった。しかし、「バイ・ザ・グレイス・オブ・ゴッド」とほぼ時を同じくして、ロバート・エガースの「ライトハウス」も公開された。前作の「ウィッチ (The Witch)」がそこそこ話題になったとはいえ、今回は一見して地味、しかもモノクロ作品であるなど、こちらも商業的に成功は難しそうだ。 

  

考えたら、前回見たオゾン作品の「婚約者の友人」もモノクロ作品だったなと、とりとめもないことを連想する。結局、どうしよう、どちらにしようと迷った末、「ライトハウス」に決める。どうか「バイ・ザ・グレイス・オブ・ゴッド」が来週もしてますように。 

  

一応予告編は目にしていたので、「ライトハウス」がモノクロ作品であることは知っていたが、しかし、本編上映が始まって、さらに驚いたことには、この作品、スクリーン・サイズが1:1.33のスタンダード・サイズですらない。一見したところ、縦横比が1:1の正方形にしか見えない。本当か、目の錯覚か、と何度も目を凝らしても、やはり正方形にしか見えない。スクリーンの左右がやたらと空いてるんですけど。 

  

昨年、ジュリア・ロバーツが主演した「ホームカミング (Homecoming)」でも、こういうギミックはあった。記憶を操作されている主人公が登場するシーンが、まるでスマート・フォンを縦にして撮ったような構図になる。それがすべての疑問が氷解する瞬間、クリアで視野が広がる世界へと変貌する。「婚約者の友人」では、フレイムワークではなく、途中でモノクロ画面が色付きになったりした。要するにこういうギミックは、周りの世界に対する主人公の意識に対応している場合が多い。 

  

一方「ライトハウス」の場合、最初から最後まで、徹頭徹尾モノクロの正方形の世界で、それが途中で変わることがない。しかも舞台は離れ小島で、周りを海に囲まれ、どこにも脱出しようがない。この閉塞感、圧迫感たるや大したもので、ホラーというよりも鬱だ。 

  

さらに登場人物は基本的に二人だけ。それが荒れ狂う海に囲まれた北の地方の小島の灯台で暮らす。よくこんな世界で気も狂わずに生きていられるよなと思うが、実際、先任のウェイクはもしかしたら既にあちらの世界に足を踏み入れているのかもしれないと思わせる。新しく赴任したウィンズロウも、幻覚を見るようになる。 

  

「ライトハウス」が正方構図であるのは、横長であることの安定を意識的に排除しているのだと思う。それと共に、縦長の背景である灯台をできる限り構図内に収めようとした便法でもあるだろう。これは基本的に登場人物が二人だけだからできる技だ。3人いたら、それだけでもうこのスクリーン・サイズに違和感安定感なく収めることは難しい。意図的に不安定な構図にしようとしているとはいえ、それでは無理があり過ぎる。 

 

二人だけでも、両者を同じ構図に収めるためには、そこそこカメラが引いてのバスト・ショットもしくはロング・ショットにならざるを得ない。顔のクローズ・アップにできるだけ近いところまで寄るためには、二人がかなり近寄っている必要があるが、お互いに腹の探り合いをしているような関係で、そこまで近づかないだろう。映画のポスターに至っては、いかにも当たり前のように、縦長構図に入り切らない二人の顔が、半分ずつで断ち切られている。とにもかくにもなんとも微妙に人を不安定な気持ちへと導く収まりの悪さ、居心地の悪さがスクリーンを支配している。 

 

一方、それらの視覚的な側面とは別に個人的に痛かったのが、全編19世紀の擬古文的なセリフ回しになっていることだ。これは「ウィッチ」もそうだったが、あれは結構絵だけで話をわからせるところがあり、そこまで気にはならなかった。ところが「ライトハウス」は、かなりウィンズロウとウェイクの間で会話というか怒鳴り合いがあり、セリフの多くを聞き逃す。残念。 

  

ところで、「ライトハウス」を見た翌週、願をかけていたにもかかわらず、やはりというか「バイ・ザ・グレイス・オブ・ゴッド」は近くの劇場から消えていた。これでオゾン作品は2本連続で見逃しか。 

  










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19世紀末。エフレイム・ウィンズロウ (ロバート・パティンソン) は、ニューイングランド地方の離れ小島で灯台守りの臨時の仕事に雇われる。灯台を一人で世話していたのは、癖のある老人のトマス・ウェイク (ウィレム・デフォー) で、細かいことにいちいち口を出すが、灯台の最上階だけは自分一人で仕切り、決してウィンズロウに足を踏み入れさせなかった。鬱々とした日常に、ウィンズロウは悶々とした日々を送る。さらに島を嵐が襲い、蓄えていた食料が底をつく。ウィンズロウは夢か現かわからない幻覚を見るようになる‥‥ 


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