The New Girlfriend (Une Nouvelle Amie)


彼は秘密の女ともだち  (2015年10月)

ふと目に留まった「The New Girlfriend」というタイトルは、ティーンエイジャーの青春もの、もしくは恋愛ものかと、実は最初はまったく惹かれなかったのだが、付随して一瞬目にしたフランソワ・オゾンという監督名に、おっと思う。オゾンか、これはヨーロッパ映画だったのか、そういえば最近彼の作品は見てないな、いずれにしてもオゾンのことだ、単純な恋愛や青春ものを作るわけはあるまいと、今回はとっととこれに決める。


ローラとクレールは幼い頃からこれからもずっと一緒にいようと誓い合ったベストフレンズだった。どちらかというと対等の友人同士というよりも、女王蜂的なローラに対し、クレールが献身的な働き蜂のように奉仕するという構図に近かった。それでも、それで二人が満足し、二人共愛する伴侶を得、幸せな家庭を築いており、それですべてはうまく行っていた。ローラが不治の病によって帰らぬ人となるまでは。


最初、私はこの作品が、幼い頃からずっと大輪の花の陰で目立たず、鬱屈とした思いを抱えていた女性が、成人してから弾ける復讐譚だとばかり思っていた。映画のそもそものオープニングはローラの死体から始まるのであり、要するにクレールが復讐を遂げたのだろう。幼い頃から描かれるローラとクレールの関係は、友情というよりは女王と家臣の関係のようで、クレールがローラにかしずいているようにしか見えない。クレールは、いつかこの関係を清算するために長い間計画を練っていたに違いない。その完全犯罪を描くのが、「彼は秘密の女ともだち」なのだ。


という私の予想は、いとも簡単に覆される。どうやらローラが死んだのは本当に病気のせいで、クレールは本気でローラのことを最大の友人だと思っていたらしい。別にそういう人間関係があってもいいのではあるが、しかし、それでは物語にならない。もしかして復讐譚は復讐譚でも、忘れ形見の娘に間違ったことを吹き込んでモンスター化させ自滅させるという新手か、という予想も見事に覆される。


ある時寡夫となったダヴィドの元を訪ねたクレールは、そこで女装して赤ん坊に哺乳瓶でミルクを与えているダヴィドに遭遇して、驚愕する。クレールも驚愕したろうが、私も驚いた。こういう展開か! さすがオゾン、一筋縄では行かない。New girlfriendとは、そういうことだったのか。


この「The New Girlfriend」という英題は、原題の「Une Nouvelle Amie」の直訳だろうから別に不親切というわけでもなく、知ってしまうとなるほどと思う。一方、邦題の「彼は秘密の女ともだち」は、最初うまく内容を表しているなと思ったが、しかし話を知った後だと、今度は逆にばらし過ぎという気もしないでもない。しかし何も知らずにただ「New Girlfriend」だと、私が最初したように、タイトルを聞いただけでパスする輩もいるだろう。女友達は難しい。


だいたい、話の上では女王蜂然としているローラが、少女時代はともかく成長してからは、実は特に美しくも気高くも見えず、私の目からは断然クレールの方が美人に見える。そのクレールがローラにかしずくという構図がどうも納得できなかったのだが、ローラは捨てキャラなので、実はあまり注意が払われていなかったのか。というのも自分で言うのもなんだが、あまり納得できない。たぶんローラはオゾンにとっては美人なんだろう。とはいえ、世間に訊けば十中八九、ローラよりクレールの方が美人と言うと思う。


というか、クレールだって超美人というわけではないが、その着こなしが、いかにもパリっ子という感じでいい。特にファッションに目ざといわけではない私の目から見ても、センスいいなと思わせる。ベッド・シーンではちょっと小振りな乳房がまたよく、おっぱいはでかいほどよいと思っている者が多いアメリカの男女に、これを見て勉強しろと言いたくなる。プロポーションがいいとはバランスのよさをいうのであって、おっぱいやケツがでかけりゃいいってもんじゃない。



(注) 以下、結末に触れてます。


女装癖のあるダヴィド/ヴィルジニアに最初は距離を置きつつも、段々ヴィルジニアと娘のためになんとか力になろうとするクレールは、その過程で自分も変化していく。そして最終的に、夫のジルを捨て、新しいガールフレンドのヴィルジニアと一緒になる道を選ぶ。


しかし、それはあんまりと思ってしまった。それではジルがあまりにも可哀想過ぎる。ジルはそれまで常にローラの陰に隠れていたクレールに気づき、彼女を陽の当たるところに連れ出し、愛し、結婚し、彼女に対して何の疑惑も持たない。それを裏切ってもいいのか。いくら自分の気持ちに正直でいることが肯定されるといっても、これじゃなんだかなあと思うのだった。


オゾン作品にモラル云々を持ち込んでも詮ないことだが、他にやりようはなかったのか。それまでは副主人公くらいの位置にいたと思っていたジルは、実は使い捨てのサブ・キャラ以上のものではなかった。ラスト・シーンでは、その後ジルがどうなったかという説明すらない。


ところでそのジルに扮するラファエル・ペルソナーズは、見ている間中ずっと、ジョン・ステイモスそっくりだ、本当にステイモスじゃないのかと思っていた。フランス語、上手だな。実はステイモスは今シーズン、あの若さで実は孫がいたという設定のFOXのコメディ「グランドファーザード (Grandfathered)」に主演している。それで何度か目にしていたので、ペルソナーズを見た途端ステイモスを思い出したというのはある。ちょい前にはステイモスがアルコール中毒でリハブ入りしたというニューズもあった。


しかし本当にステイモスが記憶に残っているのは、最近かつての人気シットコム「フルハウス (Fullhouse)」の舞台 (という設定) となったサンフランシスコのタウンハウスを暫くぶりに訪れたステイモスに、同じくその場所を観光に来ていたTVファンの観光客がまったく気づかなかった、というそのことがニューズになっていて、それが印象的でよく覚えていたからだ。同じように、というわけでもないが、映画でもペルソナーズも妻に気にかけてもらえず、クレールは去って行く。あっちでもこっちでも、なんかステイモス、可哀想と思ったのだった。









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ローラ (イジルド・ル・ベスコ) とクレール (アナイス・ドゥムースティエ) は、幼い頃から永遠の友情を誓い合った女友達同士だ。成人してローラはダヴィド (ロマン・デュリス)、クレールはジル (ラファエル・ペルソナーズ) という伴侶を見つけて結婚しても、それでも厚い友情は変わらなかった。しかしローラが病魔に倒れ、帰らぬ人になる。忘れ形見の娘は日毎にローラに似てくるため、クレールは辛くてダヴィドの家を訪れる気にならない。しかし、ある時意を決してダヴィドの家を訪ねたクレールは、ダヴィドが女装して娘にミルクを与えているシーンに遭遇する。実はダヴィドは女装癖があり、ローラにだけは打ち明けていた。娘がミルクを飲まないのでローラの服を着て試したところまた娘がミルクを飲み始め、それと共にダヴィドの女装癖もまた復活したのだった。戸惑うクレールだったが、ダヴィドの頼みもあり、ローラはジルに内緒で、ダヴィドを女友達のヴィルジニアということにするのだが‥‥


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