「リザヴェイション・ドッグス」は最初、FXでもhuluでもなく、FX on huluという、あくまでもhuluが提供するFX番組という体裁で配信されていた。ディズニー傘下のFXを同様にディズニーが大株主であるhuluで提供するという構図はよくわかるが、しかし、わざわざ別プラットフォームである必要があるのか。
当初の腹案としては、近年流行りの有料課金型サーヴィスに移行するための布石だったと思う。アレックス・ガーランド製作のSF「デヴス (Devs)」、著名女優共演のミニシリーズ「ミセス・アメリカ (Mrs. America)」、人気ホラー・シリーズを移行した「アメリカン・ホラー・ストーリーズ (American Horror Stories)」等が当初のラインナップで、確かにそれなりに見栄えのするものであったが、それだけでは物足りなかったのも事実で、先頃ディズニーはこのプランを白紙に戻し、FX on hulu、FX、および姉妹チャンネルのFXXをFXとして統合すると発表した。
「リザヴェイション・ドッグス」は、そのFX on huluとして始まった番組の一つだ。オクラホマに住む、鬱屈した気分の4人のネイティヴ・アメリカンのティーンエイジャーを描くコメディだ。
ネイティヴ・アメリカンを描く作品・番組というと、近年ではなにはともあれテイラー・シェリダンの「ウインド・リバー (Wind River)」、それにスコット・クーパーの「荒野の誓い (Hostitles)」もあった。TVではパラマウント・ネットワークの「イエローストーン (Yellowstone)」なんてのもある。
最近ネイティヴ・アメリカンを特に連想させたのが、事件の内容自体はまったく関係ないのだが、ギャビー・ペティートの殺害事件だ。白人女性のペティートが婚約者の男と共にアメリカ横断旅行中に行方不明となり、後に婚約者に殺されていた事実が判明した事件は、今夏、なぜここまでというくらい全米から注目される事件となった。
一方、「ウインド・リバー」を見ている者は、ネイティヴ・アメリカンには毎年多くの行方不明の女性がいるのに、それがほとんどニューズにならないという事実を知らされている。いったい何人、何十人かわからないくらいの行方不明者が毎年出ているのに、マスコミは話題にしない。
黒人だって似たようなもので、ABCのプライムタイムのニューズを見ていると、毎回必ずコマーシャル明けに行方不明者の告知が出る。多くの場合、黒人かラテン系だ。しかし彼らだって、それ以上のニューズ・ネタになるわけではない。それなのに、婚約者からたぶん殺されたと思われる若い白人女性の消息が途絶えると、全米を挙げての過熱報道合戦となる。この差はいったい何なんだと思った者も多いだろう。
「リザヴェイション・ドッグス」は、リザヴェイション、つまりネイティヴ・アメリカンが暮らす居住区に暮らす4人の煮詰まったティーンエイジャーを描くコメディ・ドラマだ。番組タイトルは、もちろんクエンティン・タランティーノの「レザボア・ドッグス (Reservoir Dogs)」を借用している。プレミア・エピソードでは、彼らがいかにもそれらしい格好をするシーンもある。
「ウインド・リバー」の項でも書いたが、ネイティヴ・アメリカンの居住区は、政府から保護されているだけに逆に働かない若者も多く、それがドラッグを蔓延させる理由の一つとなっている。さらに誘拐されたか自分の意志でかはわからないが、行方不明者も多い。若者が煮詰まりやすいだろうというのも頷ける。
そういう環境で、エロラ、ベア、チーズ、ウィリーの4人は、些細な悪事に手を染めながら、いつかこんなところ脱出してカリフォルニアに行きたいという、いかにも若者らしい根拠のない夢を持っている。
この設定で思い出すのは、同じくFXが放送している「アトランタ (Atlanta)」だ。こちらの方は黒人が主人公の、やはりドラッグ絡みの煮詰まった若者を描くコメディ・ドラマだ。実際の話、かなりテイストも近い。その上パンデミックだ。若者は煮詰まってんだろうなと思わせる。
話は逸れるが、「アトランタ」は、第2シーズンを終了した2018年から3年以上経って、先頃第3シーズンの放送が発表された。2022年春放送予定で、第2シーズンから第3シーズンまで4年空く。この気の長さというか気だるさがまた、いかにも今風だ。