Knives Out


ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密  (2019年12月)

最初予告編を見た時はどうも微妙だなと思ったが、演出が「ルーパー (Looper)」のライアン・ジョンソンであることもあり、今回は「ナイブズ・アウト」に決める。「ルーパー」みたいな頭がこんぐらがるようなセンスあるミステリを期待する。 

 

大金持ちのベストセラーのミステリ作家ハーランが、自身の誕生バーティを迎えたその夜、首を切って謎の死を遂げる。85歳という高齢ではあるが、まだまだ矍鑠としており、自殺か他殺か判然としなかった。 

 

ハーランには長男の嫁ジョニと娘のメグ、長女リンダと夫のリチャード、息子ランサム、次男ウォルトと妻のドナ、息子のジェイコブがおり、それぞれ素行が悪く、それぞれ金を必要としていた。さらに通いのナースである移民の子のマルタもいた。エリオット警部とワグナー巡査が派遣されてくるが、さらに何者かに要請された探偵のブランまでが姿を現す。 

 

この、ほとんどガラみたいな出演者のメンツがすごい。ハーランに扮するのはクリストファー・プラマー、ジョニにトニ・コレット、リンダにジェイミー・リー・カーティス、リチャードにドン・ジョンソン、ウォルトにマイケル・シャノン、ランサムにクリス・エヴァンス、ブランにダニエル・クレイグという布陣。みんなうさんくせー。 

 

さらに、知名度では上記に一歩譲るだろうが、ドナに扮するリキ・リンドホームはIFCの「ガーファンクル・アンド・オーツ (Garfunkel and Oates)」のガーファンクル役で個人的に強く印象に残っている。事実上の主役というか狂言回し役のマルタに扮するアナ・デ・アルマスが最も知らないなと思っていたら、実は彼女は「ブレードランナー2049 (Blade Runner 2049)」で、KのAI恋人ジョイを演じた彼女だった。次作はなんとクレイグが主演の007シリーズの最新作「ノー・タイム・トゥ・ダイ (No Time to Die)」だ。 

 

そのアルマス、「ブレードランナー2049」ではむちゃくちゃ可愛いな、この子と思っていたのだが、今回は普通の子という感じで特にそうでもない。「ブレードランナー」ではヴァーチャルの子なので可愛く見せてたんだなと思っていたら、先頃ゴールデン・グローブ賞のプレゼンターとしてクレイグと一緒にステージに登場、そしたら、やっぱりむちゃくちゃ可愛い。要するに「ナイブズ・アウト」では金のない移民の子という役なので、わざと鈍くさく見せていた。しかし印象が天と地ほど違う。いずれにしても、これだけのメンツが集まってハーランの死が単なる自殺や他殺で終わるわけがない。 

 

ブランはこれらの癖のある面々を集め、一人一人ハーランが死んだ時のアリバイを確かめる。いかにも正統本格のミステリの常套展開で、こういう登場人物のアリバイの確認なんかやられると、本格ミステリ好きとしては、それだけでもうツボだ。 

 

実はハーランが自殺か他殺かは、映画の中ほどで明らかになる。とはいえ、それが本当に本当の死の理由かどうかは、まだわからない。ハーランの死の描写はこのことを語った人物の目から見た事実であって、それが客観的な事件の本質かどうかの確証はまだない。あるいは、語られたことは実際に起こったことかもしれないが、そうなった理由、経緯はまた別ものであるかもしれない。上映時間はまだまだあり、つまりこれからまだ二転三転あることは明らかだ。 

 

「ナイブズ・アウト」はゴールデン・グローブ賞でコメディ部門でノミネートされているように、コメディ・ミステリだ。とはいえ、話自体に特にコメディの要素はあまりない。その中で目につく数少ないギャグ的なものが、ブランの外国? アクセントを強調した英語の節回し、およびマルタが嘘をつく時には吐いてしまうという視覚ギャグで、特に後者はいかにも唯一のギャグらしいギャグであり、彼女のこの体質が後で真相の解明に一役買うことは明らかだ。この解明にこそジョンソンのセンスを期待する。 

 

実際、ハーランが死んだ時の状況がわかって後からの展開は、なるほどそう来たかと思わせる。「オリエント急行殺人事件 (Murder on the Orient Express)」を思い起こさせるガラ・ミステリ・コメディ。こういうテイストの作品って、定期的に見てもいいよなと思う。 











< previous                                      HOME

世界的な人気ミステリ作家ハーラン・スロンビー (クリストファー・プラマー) の85歳の誕生日を一族で盛大に祝った翌日、ハーランが遺体で発見される。ハーランは咽喉を一気に掻き切られており、自殺とも他殺とも断定しかねた。エリオット警部 (キース・スタンフィールド) とワグナー巡査 (ノア・セガン) が調査に当たり、匿名の依頼により、探偵のブノワ・ブラン (ダニエル・クレイグ) もやってくる。一族の者すべてに殺害の動機があり、しかも完全なアリバイがあるとは言い難かった。果たして自殺か他殺か、他殺とすれば犯人は誰か‥‥ 


___________________________________________________________

 
inserted by FC2 system