Hanna


ハンナ  (2011年4月)

ハンナ (シアーシャ・ローナン) は北欧の山奥で、元CIAエージェントの父のエリック (エリック・バナ) から生き延びるための知恵、技術、格闘技を幼い頃から叩き込まれて育った。成長したハンナにエリックが教えられることはほとんどなくなり、ハンナは思春期を迎えて外の世界に憧れていた。さらにCIAのマリッサ (ケイト・ブランシェット) は特殊な出生の秘密を持つハンナの行方をいまだに追っていた。エリックはハンナを旅立たせる時が来たと判断、ヨーロッパでの再会を約束してCIAに居場所を教える信号を発信して脱出する。いったんはCIAに拿捕されてアフリカの秘密基地に連れられてきたハンナだったが、予定通りに脱出、追っ手の目をかいくぐりながらのヨーロッパでの逃避行が始まる‥‥


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数多いる英語圏のティーンエイジャーの女優の中でも、シアーシャ・ローナンはその演技力という点でトップ・クラスにいるのは間違いない。「つぐない (Atonement)」で彼女を起用したジョー・ライトがそう思ったのも間違いなく、再度ローナンを、今度は主演に抜擢して撮ったのが、「ハンナ」だ。


とはいえ「ハンナ」は「つぐない」のような文芸大作ではなく、スタイリッシュな、ほとんどSFに近いとすら言えるスタイリッシュなアクションだ。ライトがこれまでに撮ってきたのは、「プライドと偏見 (Pride and Prejudice)」、「つぐない」、「路上のソリスト (The Soloist)」といった文芸ドラマが占めている。そういう路線のスペシャリストとして印象が固まりそうだったところ、公開前まではかなり推されていたが公開直前から雲行きが怪しくなり、公開が延期された挙げ句、結局興行的にはぽしゃった「路上のソリスト」によって、本人もこの辺で少し別種の作品を撮りたくなったもののように思う。今回の「ハンナ」は、とにかくイメージ重視のアクションなのだ。


「ハンナ」でローナンが演じるのはタイトル・ロールのハンナで、元CIAエージェントの父エリックに幼い頃から生き延びるための英才教育を徹底的に施されて育った。しかしいつまでもそういう生活が続くはずもなく、なによりもハンナ自身が外の世界に対して興味を抱く年齢になっていた。CIAは出生の秘密と共に行方をくらませたハンナとエリックをいまだに追っており、ハンナはCIAに対して自分の居場所を知らせる発信装置のスイッチを入れ、自ら囚われの身となる。ハンナの脱出を確信しているエリックは、ハンナとの再会を約束して森の中に身を隠す。


物語はそれから、予定通りにアフリカの砂漠の地下に建設されていたCIAの秘密施設から脱出に成功したハンナの逃避行ものとなる。大まかなストーリー展開から真っ先に連想するのは「ニキータ (Nikita)」で、まだ幼いという印象の抜けないニキータと、こちらは実際に幼いハンナという違いこそあれ、殺人マシーンとなる訓練を受けた一人の女性の逃避行ものという構図は変わらない。もうちょっと歳が上がれば昨年の「ソルト (Salt)」という例もある。


これまでのライトの諸作品とは異なり、「ハンナ」は徹底してヴィジュアル重視で、正直言ってかなり整合性を欠いているというか、こんなのありかという展開が随所に挟まる。これが「ボーン (Bourne)」シリーズなら、それでも勢いで疑問を挟まずに見せ切るところを、「ハンナ」では間を置いて凝ったヴィジュアルを見せようとするので、逆に観客に、これ、なんかヘンだなと思う間を与えてしまう。


例えば、CIAチーフのマリッサのいるホテルをエリックが襲撃するシーンなんか、なんでわざわざここで間をとってしまうのか、撃てよ、とっととというアクションで、ほとんどカンフーの型を見せられているような気がしてしまう。実際、半分以上はそういう意識で作っているんじゃないかと思う。まずヴィジュアルありきなのだ。ハンナの出演シーンに限っても、アフリカのCIA基地からの脱出シーン、モロッコ (?) におけるホテルの親父とのやり取り、その後の一風変わった家族とのバス旅行、ドイツのグリム童話風の家での展開等、最近、これだけ、これ、あり得ないと思わせる映画ってなかったなあと思いながら見ていた。


エリックが絡むシーンでは、ヨーロッパの地下鉄構内での1シーン1ショットなんかも、緊張感絡むアクションというよりも、なぜここだけこんな長回し、という疑問の方が先に来てしまう。本当はローナンが絡むシーンでも長回しのアクションを撮りたかったのは確実だと思うが、しかし、演技はできてもアクションの切れではやはり今一つという印象を与えるローナンでは、さすがにそれは無理があったのだろう。そのため、クライマックス・シーンを除き、アクションという点ではローナンの活躍はそれほど印象には残らない。むしろ出番という点ではそれほどではない、エリックを演じるエリック・バナの方が、アクション・シーンは印象に残る。ローナン同様に実は運動神経はそれほどでもないんじゃないかという気がするが、アクションというよりも立ち姿や決めのポーズで格好いいと思わせるアンジェリーナ・ジョリーの方がやはり一枚上手だ。


結局、どんなに女性アサシンの情感を感じさせようとも、アクション映画であった「ニキータ」と、アクション映画のようでありながら、実はほとんど逃避行ロード・ムーヴィという感のある「ハンナ」は、やはり違う。ハンナは60年代ヒッピーがまだ生きてたんですかと思わせる家族と共に小型バスでヨーロッパを回るのだが、単なる脇というには描き込まれ過ぎ、助演級に昇格するにはちょっと足りない、オリヴィア・ウィリアムスとジェイソン・フレミングが演じる夫婦一家の描き方も、ほとんどアナクロで不思議。とはいえ似合ってないこともないのだ。


また、オーヴァー・アクションすれすれのブランシェット、同様にいったいどういう役柄なのかよくわからないトム・ホランダー扮するアイザックス等、いささか戯画化が強すぎる。しかし、だからといってでは作品がつまらないかというと、そんなこともない。正直言うと作品は破綻しているという印象の方が強いのだが、それはそれで悪くないと思わせるのは、皆それなりに持ち味を出しているからだろう。


個人的な意見を言わせてもらうと、どうせアクションより演技重視でローナンを起用したんだったら、もっとローナンに演技させればよかったのにと思う。特にこの時期でしかできない、淡い恋心を抱かせる相手をしっかりと出して描き込み、ヨーロッパ的ロード・ムーヴィ風ティーエイジャー・フィーメイル・アサシンを造型できたら、カルトを超える作品に仕上がったという気がしないでもない。たぶん、今のダコタ・ファニングがやりたかったことがこんなことじゃないかなあなどと、「プッシュ (Push)」をちょっと思い出しもした。









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