Gemini Man


ジェミニマン  (2019年10月)

最初「ジェミニマン」の予告編を見た時は、あまり惹かれなかった。ウィル・スミスのモーターサイクル・アクションがメインだったが、どうもそのアクションが今イチで、CGがずれているというか、あるいはコマ落としが効果を発揮していないとでもいうような印象を受ける。要するに、今一つエキサイトメントに欠ける。 

 

一方、演出がアン・リーと知ったことで、そうか、この違和感は意図的なものかと思う。進取の気性に富むリーは、とにかく先端技術を用いて作品を撮りたがる。おかげで前作の「ビリー・リンの永遠の一日 (Billy Lynn’s Long Halftime Walk)」は、リーの意図通りに上映できる施設が世界に数館しかなく、どうしよう、わざわざマンハッタンまで出張ってまで見る価値があるかと考えているうちに、あっという間に上映打ち切りになった。 

 

「ジェミニマン」は、「ビリー・リン」ほど上映施設が限られているわけではないが、それでもやはり3Dがメインだ。つまり予告編の違和感もその辺りに帰しているものと思われる。たぶん最初から3Dで見た場合に最も効果が出ることを意識して演出しているため、2Dだと逆効果になる。これは3Dで見るっきゃなさそうだ。と思ったはいいものの、実は私は個人的には3Dがあまり好きではない。「ビリー・リン」だってそれで迷ったのに、今回も3Dか。これがリーじゃなかったら最初からパスするところだ。 

 

とはいうものの、やはり腰は重く、後回しにしているうちにどんどん3D上映館が少なくなってきた。これは今週辺り見とかないとやばいと本気で上映館を探し始めたが、時遅く、既にニュージャージーでは2Dでしか上映していない。こうやってもたついているうちに「ビリー・リン」も見逃したんだよなと思いながら、やはり「ジェミニマン」も3Dで見るチャンスを逸したのだった。どうしてもねえ、やっぱり3Dは積極的に見る気になれない。 

 

映画は冒頭、スナイパーのヘンリー (ウィル・スミス) が、ベルギーで高速走行中の列車に乗ったターゲットを狙うというシーンで幕を開ける。その列車が、なんか魚眼レンズで撮ったかのようなイメージでスクリーンを横切っていく。近年魚眼というと、なんといってもヨルゴス・ランティモスの「女王陛下のお気に入り (The Favourite)」を思い出させるが、「ジェミニマン」のイメージは、魚眼レンズということよりも、これが3Dだった場合、列車がまるでこちらにせり出してくるかのような効果があるはずと予想される。しかし2Dだと、魚眼っぽいヘンなイメージ、で終わってしまう。3Dで見た場合に最大の効果があるイメージであればあるほど、2Dでは鼻につくというか、ストーリーのリズムを乱すという印象の方が強い。 

 

一方、明らかに先端の技術を駆使した効果があるのが、ヘンリーに扮するウィル・スミスの一人二役、いや三役で、しかも年代の違う本人を演じてまったく違和感がない。微妙に体重まで違うようだ。こないだ、かつてのニクソン大統領が、アポロが月面着陸に失敗した場合の声明を事前に収録してあって、それが公けになった、というシチュエイションのまったく嘘八百のディープ・フェイク・ニューズのヴィデオが公開されていたが、これは作り物だと最初から知らされて見ていても、本物のようにしか見えない。こうやってドナルド・トランプはアメリカの大統領になったんだなという思いを禁じ得ない。 

 

スミスは、自分自身で自分を相手に戦うという二重三重のアイデンティティ崩壊アクションを演じたわけで、ある意味クリント・イーストウッドの「15時17分、パリ行き (The 15:17 to Paris)」のような、虚構と現実、リアルとアンリアルの世界を行き来する。この場合、誰が勝っても自分が勝ったと威張れ、あるいは誰が勝っても自分の負けを認めざるを得ないのか。なぜこれが一応ハッピーエンドのように見えるのか。納得していいのか、悪いのか。 

 

ところで「ジェミニマン」、アメリカでは「ジェミナイマン」と発音される。家具ブランドのイケアがアメリカではアイケアと呼ばれ、ヴィタミンがヴァイタミンと発音されるのと同じだ。とはいえ、こんぐらがることには、100%ジェミナイかというと、そうでもない。 

 

昨年公開の「ファースト・マン (First Man)」では、ジェミニ・プロジェクトはジェミニ・プロジェクトであって、ジェミナイ・プロジェクトではなかった。これはNASAという特殊な機構が関与していることが大きいらしく、要するにある種のエリート内での符牒というか、内輪だけの言い回し、業界用語として、ジェミナイではなく、ジェミニと発音する。わざと思わせぶった言い方なのだ。 

 

いずれにしても、少なくとも映画に関しては、どこに行っても誰が言うのを聞いても、「ジェミナイマン」だ。それで私としては、かなりジェミニに慣れ親しんでいたわけだが、チケットを買う時に、「ジェミナイマン一枚」と、生まれて初めて「ジェミナイ」と言った。自分の口じゃないようなヘンな気分だった。以前「イーダ (Ida)」を見た時は、なんの気にもせずに「アイダ一枚」と言ってチケットを買ったのを思い出した。 

 











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プロのスナイパーであるヘンリー (ウィル・スミス) はベルギーで、高速走行中の列車に乗っていたターゲットの首に弾丸を命中させて仕留めるが、しかしヘンリーが狙ったのは頭であり、ヘンリーはそろそろ潮時とリタイアを決意する。ヘンリーは旧友のジャックと会って旧交を温めるが、そこでヘンリーが撃ったターゲットは実は罪はなかったことを知らされる。このままヘンリーをリタイアさせるとまずいDIAのクレイ (クライヴ・オーウェン) はヘンリーと、そして貸しボート屋でヘンリーを監視する役を請け負っていたダニ (メアリ・エリザベス・ウィンステッド) の抹殺を指示する。間一髪で難を逃れたヘンリーとダニはコロンビアに脱出し、旧友のパイロットのバロン (ベネディクト・ウォン) と合流して今後の行動を練る。しかしそこにも追っ手が現れる。しかもその男は、少なくともヘンリー並みの暗殺や格闘の技術を持ち、さらにヘンリーの若い頃に瓜二つだった‥‥ 


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