First Man


ファースト・マン  (2018年10月)

先週「ファースト・マン」の主人公であるニール・アームストロングの遺品が競売にかけられ、合計750万ドルの値がついたとニューズで報道されていた。最も高い値がついたのがアポロ11号のIDプレイトで、47万ドルで競り落とされた。その他にもアームストロングがジェミニ計画できた宇宙服も10万ドル以上で落札されたそうだ。 

 

宇宙服というと、印象に残っているのがフェリックス・バウムガートナーによる「スペース・ダイヴ (Space Dive)」で、バウムガードナーも着ていたあの宇宙服だ。技術の粋を極めた宇宙ロケット打ち上げで、その中に乗り込む宇宙船乗組員が装着する宇宙服が、手縫いだ。もちろん素材自体は時代の先端素材だろうが、一着一着がオーダーメイドの宇宙服では、気密性保持という最も重要な点で、職人の経験とカンが決め手となる。 

 

ところで私がアメリカに来た時、英語を母国語としない者たちのためのESL授業で、これをなんと言っているか聞き取れるかと聞かされたのが、かの有名なアームストロングが月面に降りた時の、「That's one small step for [a] man, one giant leap for mankind. (これは一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっての偉大な飛躍だ)」だ。 

 

英語に慣れてなくてこれを確実に聞き取れる者は、まずいないんじゃないかと思う。かくいう私は、本当に、まったく、これっぽっちも、なんと言っているかわからなかった。That's... 何? ってなもんで、まるっきり聞き取れなかった。私以外のクラスの者も完璧に聞き取れたのは誰もいなかったので、オレの耳が悪いだけじゃないんだとほっとしたことを覚えている。 

 

そのアームストロングが月に到達した時、私はまだ小学生だった。打ち上げ時か帰還時かは覚えてないがアポロが日本上空を通過するというので、夜中に親に叩き起こされ、あれがアポロだと夜空を指し示された。確かに流れ星のようなものが見えたのだが、睡眠を邪魔された子供にとってはそんなことはどうでもよく、わかったから眠らせてくれと憤っていた。人類月面着陸より、眠かったのだ。 

 

ところが、どうやらアポロ11号が日本から肉眼で見えたというのは、眉唾、というか、どうもガセネタのようなのだ。だとしたらあれは何だったのだろう、私は親にかつがれたのか。それともアポロ11号ではなく、他のロケットだったのか。もしプラクティカル・ジョークとして親に起こされたのだとしたら、ジョークのわかる親として偉いと誉めるべきかそれともこのバカ親と憤るべきか。 

 

アポロ計画は、その他でもいくつかの記憶がごっちゃになっている。「ファースト・マン」を見ながら、私は月に降りた乗組員が、ゴルフ・クラブを振ってボールを何kmも先まで飛ばしたシーンが出てくるのを今か今かと待っていたが、いっかな出てこない。必要ないとカットされたかと思っていたが、実はあれはアポロ14号のアラン・シェパードだった。月面を歩く宇宙船乗組員はほとんど同じに見えるので、ゴルフしたのもアームストロングかオルドリンだとばかり思っていた。 

 

一方、実際に意図的にカットされた、というか撮らなかったシーンもある。アームストロングとオルドリンが月面に星条旗を立てるというシーンがそれで、その行為自体の描写はなくても星条旗が立っているシーンはある。しかし、それが愛国的なアメリカ人には我慢ならないことだったようで、ドナルド・トランプはそのためにこの映画は見ないと公言しているくらいだ。だからお前はダメなんだよとしか思えないが、かのMTVが放送を始めた時、そのそもそものオープニングが月面で星条旗と共に映る宇宙船乗組員だったことを思えば、月面の星条旗を国の誇りと思っているアメリカ国民はわりと多そうだとは思える。いずれにしても「ファースト・マン」が、そういう様々な記憶を呼び起こす作品であることには変わりない。 

 

意外なのが演出がデミアン・チャゼルで、「セッション (Whiplash)」「ラ・ラ・ランド (La La Land)」と音楽作品が続いた監督の新作が、宇宙船乗組員を描くドラマだった。最初、これをどうやってミュージカル化するのかと思った。「ラ・ラ・ランド」で、主演のライアン・ゴズリングとエマ・ストーンが宙に浮かぶダンスを演出したチャゼルだ、今度の本物の無重力空間でのミュージック・パフォーマンスは面白そうだと思っていたくらいだ。その、私服で宙に浮いていたゴズリングが、今度は重そうな宇宙服を着て、しかし月面で浮かぶように歩く。 

 

今、NASAの目は月よりも火星を向いていて、この程探査機が火星着陸に成功した。今回は火星の表面ではなく、地中に探査プローブを打ち込んで内部を調査し、火星ができた仕組みや歴史を明らかにするそうだ。かつて「オデッセイ (The Martian)」が公開された時、火星表面に水の痕跡が見つかって話題になったが、今回はさらに地下深くまで調査を進める。月面の最初の一歩から半世紀経ち、将来人類が火星に移住する可能性がまた一つ膨らんだ。











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1961年、NASAのテスト・パイロット、ニール・アームストロング (ライアン・ゴズリング) は飛行の失敗が続き地上勤務を命ぜられた上、まだ幼い娘のカレンが治療不能の疾患に侵されていて、幼くしてこの世を去る。傷心のままニールはNASAのジェミニ計画に応募してヒューストンに居を移す。近所の宇宙パイロット仲間のエド・ホワイト (ジェイソン・クラーク) らの知己を得、仲間と共に宇宙を目指して切磋琢磨するが、そのホワイトも訓練中に事故を起こし死亡する。最終的にニールはアポロ11号の船長に選ばれ、バズ・オルドリン (コーリー・ストール)、マイケル・コリンズ (ルーカス・ハース) と共に人類史上初めての月面着陸を果たすために宇宙に飛び立つ‥‥ 


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