Charlie's Angels

チャーリーズ・エンジェル  (2000年11月)

70年代に一世を風靡したTVシリーズ、「チャーリーズ・エンジェル」のリメイク。ファラ・フォーセットらのオリジナル・メンバーに代わって今回チャーリーズ・エンジェルスに扮するのは、キャメロン・ディアス、ドリュー・バリモア、ルーシー・リューの3人。ディアスとバリモアの2人は別に説明の要もないだろうが、リューは、TVシリーズ「アリーmyラブ」で人気の出た女優。世界的知名度の点ではまだディアスとバリモアには及ばないだろうが、アメリカ国内に限って言えば、アジア系女優では「ER」のミン-ナー・ウェンと共に、1、2の知名度を誇ると言ってもいい。


人前には姿を現さない秘密の司令官、チャーリーの命令のもと、悪漢退治に奔走するチャーリース・エンジェルスの活躍を描くこの映画、見所はアクション・シーンやちょっとしたずっこけシーンにあるので、わざわざストーリーを紹介することは省く。まず冒頭、いきなり空中でのアクションになるのだが、これはもう、完全に女性版007だな。007シリーズ同様、観客サーヴィスで最初に本筋とはまったく関係のないアクションを展開して、ついでに主人公を紹介し、コメディ・タッチの作品のトーンを決定づける。シャンプーのコマーシャルまがいにスロウ・モーションで頭を振って髪をばさっていうのを何度も繰り返すとこなんか、ちょっと苦笑させられるけどね。しかしこれだけアクション満載で、90分ちょいで終わってくれる潔さはいい。


監督はミュージック・ヴィデオ出身のマックG。最近アメリカの映画界は「マルコヴィッチの穴」のスパイク・ジョーンズといい、「ザ・セル」のターセムといい、ミュージック・ヴィデオ出身の、視覚的効果を重視するタイプの監督が続々と登場している。もちろんマックGもその例外ではない。というか、その視覚的に興奮させるアクションなくしては、この「チャーリーズ・エンジェル」の存在価値はまったくないというに等しい。今、ハリウッドのアクション映画の監督でカンフー映画の影響を受けていないものはないと言ってもいいが、マックGもその一人であり、「リーサル・ウェポン4」や「マトリックス」同様、決めのアクション・シーンは主要登場人物の1対1のカンフー対決で決着がつく。ジョン・ウーばりにスロウ・モーションを多用したアクション・シークエンスは、ほとんどやり過ぎるくらいで、お笑い寸前になっているのだが、映画自体のノリがそうだから、思わず笑って許してしまう。それにしてもターセムといい、マックGといい、監督の名前が1ワードだったり、ニックネームめいてたりするのも流行りなんだろうか。


リューの出演のせいもあるのか、作品内に変に日本や中国の東洋趣味が横溢しているのもおかしい。パーティ会場では後ろでピッチカート5の曲がかかっているし、余興で着ぐるみを着て相撲レスラーに扮したティム・カリーとビル・マーレイが相撲をとったりする。しかし、一昔前の映画では、こういうシーンが何がなんだかよくわからない欧米人の目から見た東洋趣味になっていたのに対し、最近は、どうせあの国はよくわからないんだから、だったらギャグにしてしまおう的な開き直りが感じられて、私にはそっちの方がよっぽど好感が持てる。片言ながらディアスが日本語を喋るシーンもある。


しかしディアスは、私の嘘偽りない印象を述べると、既に可愛さのピークを過ぎたという感じがする。時々、角度によってはひどくおばさんヅラに見える。意外にも、ちょっと小太りという印象で、可愛いとはこれまでまったく思ったことのなかったバリモアが、今回溌剌としてて小気味よくはまっている。彼女は以前、深夜トーク・ショウの「レイト・ショウ」でホストのデイヴィッド・レターマン相手にシャツをおっぴろげておっぱいを見せたことがあったが、もともと脱ぎたがり屋なのだろうか、今回もやたら派手な脱ぎっぷりを見せている。バリモアは今回プロデューサーの一人としても名を連ねているから、その点でおいしいところをいただいているとも言える。リューも、TVの「チャーリーズ・エンジェル」ファンから見ると違和感があるかも知れないが、オリジナルをほとんど知らない私としては悪くないと思った。これでミシェル・ヨウのような国際的アクション・スターへの道も夢ではないかも。


現実のバリモアの旦那であるトム・グリーンが、バリモアに振られるちょっとピントのずれてるボーイ・フレンド役として出演している。グリーンは現在、MTVで「トム・グリーン・ショウ」という、「ジャックアス」に近い悪ふざけのノリの自分のトーク番組を持っている。私は、やり過ぎで、時々まったく面白くないどころか不愉快になる彼の番組は好きではないのだが、結構人気番組で、ついにグリーンは「ロード・トリップ(Road Trip)」という映画に主演までしてしまった。脇ではその他に、「フレンズ」のマット・ルブランクがリューのボーイ・フレンド役として出演している。しかし彼もビッグ・スターにはなりきれないなあ。


それにしてもびっくりしたのが、この映画の人気である。「X-メン」もそうだったが、こちらも切符を買う列が劇場の外まではみ出している。いや、これは「X-メン」の比ではない。よく見ると、並んでいるのはアジア系の顔が多い。私が行った映画館がフラッシングというクイーンズのチャイナ・タウンに近いという場所柄もあるだろうが、普段はここまでアジア系なんか見ないから、やはりリューの出演が大きくアピールしているのだろう。いずれにしても配給のソニーは最近ヒット作に恵まれなかったから、ここらでほっと一息といったところに違いない。去年はヒット作がアダム・サンドラーの「ビッグ・ダディ」1本しかなく、メイジャー・スタジオの興行成績では最下位の6位だったし。


しかし思うのだが、なぜ「チャーリーズ・エンジェル」は原題通りの「チャーリーズ・エンジェルス」じゃ駄目なのか。チャーリーのエンジェルは一人じゃない、3人なのだ。エンジェルじゃなくてエンジェルスである。「チャーリーズ・エンジェル」だと、どうしても一人しか思い浮かべることはできない。TVシリーズを日本で放送した時が「チャーリーズ・エンジェル」だったから、なんかじゃなくてさ、今の時代にそういう古い考えはよくないんじゃないの? たとえば野球で言えば、読売ジャイアンツはやっぱり読売ジャイアントじゃなくてジャイアンツって言うでしょ。阪神タイガースは阪神タイガーなんて言わないじゃないか。そういうとこだけちゃんとしてるくせに、「チャーリーズ・エンジェルス」が「チャーリーズ・エンジェル」なのは、えらい違和感がある。


それだけじゃない。クリント・イーストウッドの「スペース・カウボーイズ」が「スペース・カウボーイ」になっているのも、頼むからやめてくれよとしか思えない。宇宙飛行士はイーストウッドだけじゃなくて、他にまだ3人いるのに。なんというか、こういうタイトルの変更は、はっきり言って不愉快である。オリジナル・タイトルのカタカナ読みを邦題として採用するなら、勝手に読み方を変えてもらいたくなんかない。観客をなめてんのか。日本人に複数形が馴染みがないというのなら、「X-メン」は「X-マン」にしろ。この分だと「ワンダー・ボーイズ」だって「ワンダー・ボーイ」になるんだろ? この映画で「ボーイズ」と複数形になっているのは、トビー・マグワイヤ以外に、今は才能が枯れて普通のおっさんになっているマイケル・ダグラスも昔は神童だったという含みがあるからだ。「ワンダー・ボーイ」ってタイトルにしたら、そういう微妙なニュアンスなんて吹き飛んでしまう。


「チャーリース・エンジェル」に戻ると、複数形のsはとるくせに、所有形のsは残したままというのも合点が行かない。語幹に固執するなら「チャーリース」も「チャーリー」にして、いっそ「チャーリー・エンジェル」にしてしまえ。あるいは「チャーリーのエンジェルたち」と完全に日本語化してしまうというのも一つの手かも知れない。この手のやつは、言い出せば切りがない。「ペイ・イット・フォワード」が、「ペイ・フォワード」になっているのにも愕然とする。どうして「イット」をとっちゃうの? わからん。「イット」があるだけで言いにくかったり覚えにくかったりするのだろうか。この手の無能なタイトルのつけ方にはいい加減うんざりしていたのだが、最近臨界点に達してきたようだ。


そうそう、実は、こういうバカな邦題にいきなり頭に来たのも、先週見てそれなりにいい気持ちになって帰ってきた「ビリー・エリオット」が、「リトル・ダンサー」という邦題で東京映画祭で上映されたというのを聞いたからだ。「リトル・ダンサー」? なんだ、それ。2流のディスコ映画かなんかか? なぜ「ビリー・エリオット」じゃいけない。そっちの方がよっぽどいいタイトルだ。この邦題を聞いた瞬間、最近たまっていた私の鬱憤がいきなり破裂したのであった。その上、この「チャーリーズ・エンジェル」である。


私ははっきり言って、英語圏の映画に関する限り、カタカナ読みにする理由すらないんじゃないかと思っている。英語タイトルをアルファベットのままそのまま使ってもいいんじゃないの? それとも、そんなんじゃどんな映画かわからなくなって興行成績が落ちる? でも、「Godzilla」だって英語タイトルのまま公開したんでしょ? 英題のまま公開したからこそ、「Godzilla」の中に「God」がいるという含みも伝わったんじゃないの? 最近のポップ・シンガーなんて、日本人でも平気で英語でグループ名綴っているじゃない。なぜ映画もそうじゃいけないの? ‥‥‥‥うーん、感情的になって思っていることを吐露してしまったが、「チャーリーズ・エンジェル」は、内容よりもそういうところで私に色々考えさせてくれたのであった。







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