Birds of Passage


夏の鳥 (バーズ・オブ・パッセージ)  (2020年5月)

まずは最近見そびれたものから見るという前提で、思い出した作品の一つが、4年前に「彷徨える河 (Embrace of the Serpent)」で印象を残したシロ・ゲーラの新作「バーズ・オブ・パッセージ」だ。昨夏、わりと長い間公開していたんだが、それでもタイミングが合わず、見逃していた。外国語映画はまず単館上映的に遠くでひっそりと上映される場合が多いので、こちらのスケジュールと合わないことが往々にしてある。 

  

それでそろそろケーブルに降りてきてもいい頃なんじゃないかと、加入しているFiosでサーチしてみたところ、英語タイトルの「Birds of Passage」ではなく、オリジナルのスペイン語タイトルの、「Pajaros de verano」で引っかかってきた。HBOのスペイン語チャンネルのHBO Latinoで放送するからだな。いずれにしても、もう少しで見過ごすところだった。 

  

と、胸を撫で下ろして録画予約し、後日、見始めたところ、愕然とした。スペイン語の会話でスペイン語の字幕が出ている。そんなのありか。なんで英語字幕が出ないんだ。しかもよくよく聞いてみると、耳にする言葉と字幕がなんか違う。いくら知らない言葉とはいえ、字幕はアルファベットだ。書かれている言葉と話されている言葉が同じか違うかくらいはわかる。しかしどうやらこれは違う。 

  

調べてみるとなんでもコロンビアは多くの先住民族がおり、50以上の方言、というか先住民族の言葉が今も話されているそうだ。そのため、画面に共通語としてのスペイン語の字幕が出る。いっそ英語にしてくれた方がありがたかったのに。というか、なんでLatinoチャンネルだけじゃなくて、基幹チャンネルのHBOでも英語字幕で放送してくれないんだ。 

 

いずれにしてもこちらはスペイン語はまったくなため、これではやっぱり見れない。どうしたものかと思って、今度はストリーミングで見れないかとググってみた。そしたら、HBOが独自に展開しているストリーミング・サーヴィスのHBO Go、もしくはHBO Nowで見れるらしい。 

 

HBO GoとHBO Nowは現実問題としてほとんど同じもので、サーヴィス開始の早いHBO Goは、HBO加入者への付加サーヴィスとして始まったため、ケーブルでHBOに加入していれば、HBO Goも見ることができる。一方、HBO Nowは、HBO未加入者がストリーミングでもHBOを見れるようにしたサーヴィスだ。これだけを見ようとすると当然月々の視聴料がかかるが、hulu等に加入していると割り引きサーヴィスが受けられたりする。これらは今年さらにHBO Maxとして一つのサーヴィスに統合される予定だが、コロナ禍のせいで今後どうなるかわからない。 

 

私はHBOに加入しているため、HBO Nowをトライしてみると、確かに提供している。それだけでなく、再生してみると、今度はちゃんと英語字幕版の「バーズ・オブ・パッセージ」が見れた。しかし、なんでこんな回りくどい道筋でしか見れん? 

  

などという憤懣はさておき、「バーズ・オブ・パッセージ」だ。ゲーラだからな、「彷徨える河」なんて作ったやつだからな、と最初わりと身構えて見始めたのだが、実はこれが結構ストレート・フォワードな作りの、真っ当なドラマ、それもクライム・ドラマだ。 

 

コロンビアを舞台にした作品というと、反射的に麻薬王パブロ・エスコバルを連想する。だいたい、時代の違う「彷徨える河」を別にすると、コロンビアが関係してエスコバルが絡まないわけがないというくらいの実力者だ。今回も麻薬が重要なプロットであり、場所が合えば当然エスコバルも関係してきたに違いない。実際、画面を見て思い出すのは「バリー・シール (American Made)」「エスコバル 楽園の掟 (Escobar: Paradise Lost)」であり、きっと「バーズ・オブ・パッセージ」でも、マリファナ取り引きのあっち側でエスコバルが関係してないわけがなかろうと思う。 

 

一方でジャングルやいかにも南米の市街地といった世界が目に入る「エスコバル」や「バリー・シール」と、「バーズ・オブ・パッセージ」が最も異なるのは、コロンビア最北部、グアヒーラ半島の砂漠とも言える荒野の背景で、無論近くにはジャングルもあるが、主人公たちワユー族はその砂漠に掘っ立て小屋のような家を建てて住んでいる。どうやらハンモックは午睡のためというより、夜間の就寝のためにも使われているようだ。 

 

そういう簡素な暮らしが、マリファナ取り引きによって得た金で、豪奢なものにとって代わる。砂漠の真ん中の、これまでは風通しのよい、というか吹き曝しのあばら家だったような家の代わりに、鉄筋コンクリートの白壁の豪邸が建つ。その中で、ハンモックではなく、ベッドで寝る。それでも周りが砂漠ということに代わりはなく、いかにも砂漠のバベルの塔的な違和感を出しまくり、見た瞬間から滅びを予感させる。 

 

そして一旦不信と裏切りと虐殺が始まると、誰にもそれを止められない。たとえ自分の全財産や命がかかっても、復讐するためなら厭わない。こういうメンタリティだから、非合法ビジネスには向いていると言えるかもしれない。いずれにしても、ほとんど国の財力を凌ぐエスコバルのメデリン・カルテルが結局は瓦解したように、やはりラパエットのマリファナ・ビジネスも瓦解せざるを得ない。それにしても10年をかけて成長してきたビジネスが、滅びる時は一気だ。 

 

出演者は当然全員初見、だと思っていたが、調べてみると、ザイダに扮するナタリア・レイエスは、昨年「ターミネーター: ニュー・フェイト (Terminator: Dark Fate)」に事実上主演していた。そうかあの子だったのか。どうやら時間軸的にはこちらの方が撮影時期は早かったようだが、既にハリウッド・デビューを果たしていた。思わずターミネーターがコロンビアの砂漠を彼女を追ってやってくるシーンを想像してしまう。それはそれで絵になりそうだ。 











< previous                                      HOME

1968年コロンビア最北部、グアヒーラ半島に住むワユー族のラパエット (ホゼ・アコスタ) は、部族の実力者一家の娘であるザイダ (ナタリア・レイエス) を見初め、ぜひ嫁にしたいと思うが、彼を快く思っていない母のアーシュラ (カルミナ・マルティネス) は、無理難題の貢ぎ物を吹っかける。近くには白人の海外協力隊がいたが、彼らは現地で獲れるマリファナに大いに興味を持っていた。ラパエットは彼らと取り引きすることで金を得、無事貢ぎ物を納めてザイダを妻に迎える。マリファナが大きな富をもたらすことを知ったラパエットは、仲間のモイゼス (ジョン・ナルバエス) と共にビジネスを拡大するが、アーシュラは部族の者ではないモイゼスは信用できず、やがて部族に災いをもたらすと宣言する。実際、欲の出たモイゼスは予想外の行動をとるようになり、ラパエットはモイゼスを持て余すようになる‥‥ 


___________________________________________________________

 
inserted by FC2 system