Embrace of the Serpent (El abrazo de la serpiente)


彷徨える河 (エンブレイス・オブ・ザ・サーペント)  (2016年3月)

「エンブレイス・オブ・ザ・サーペント」は、今年のアカデミー賞の外国語映画賞部門にノミネートされた作品だ。ノミネートされなかったらたぶん一生知らないままで終わりそうな、しかし見てみると滅法面白い作品があるのがこの部門の特徴で、私はある意味作品賞よりこの部門の方が気にかかったりする。


特に、それでもまだアメリカ公開の可能性のあるヨーロッパ語圏の作品ならまだしも、東南アジアや中南米、アフリカ産の映画がアメリカで公開されるには、アカデミー賞外国語映画賞部門にノミネートされるのが、最も近道だ。唯一の道と言っていいかもしれない。


とはいえ運よく公開の運びとなっても、単館公開で、近くの劇場で公開してくれるとは限らず、しかも長くやってくれるわけではない。今週はあれ見る予定だから、こいつは来週と思ってたら、一週間限りの公開で見逃した作品も多々ある。外国語映画の鑑賞は、結構ギャンブルだ。


「エンブレイス・オブ・ザ・サーペント」はコロンビア産の映画で、もしアカデミー賞にノミネートされなかったら、見るチャンスがなかったのは確かだろう。さらにジャングルと半裸の原住民の男が白黒のイメージで描かれる「エンブレイス・オブ・ザ・サーペント」は、今年の外国語作品賞の中で最も異質で、おかげで最も気にかかっていた。


正直言って、ちょっとこれは弾け過ぎているかな、これだけ見る者を選びそうな作品だと、うちの近くでの公開の可能性は限りなく低そうだと思っていた。それが、もしかして一週間限りにせよ、クルマを走らせれば見に行ける範囲内で公開される。これは今見ないでいつ見るんだ、今でしょ、と勇んで出かけたのだった。


「エンブレイス・オブ・ザ・サーペント」は、幻の植物ヤクルナを求めてジャングルの奥深くへと進むドイツ人の男テオ、現地人ガイド、そして森の主的なシャーマン、カラマカテの3人の道行きを描く。そしてさらにその何十年か後に、今度はテオの書いた書物に影響されたもう一人の若い白人エヴァンがやって来て、また同じことを繰り返す。しかし目的は同じでも、彼らが体験することは同じではなかった。


ジャングルでの彷徨、文明に馴染まない原住民、それでも奥地に立ち入るカソリック宣教師、等々からすぐに連想する作品はいくつかある。たとえば、ジャングルの奥地に行くというのに、邪魔になるので他の荷物を全部捨ててもこれだけはどれだけ荷物になっても捨てないという蓄音機で夜オペラを聴くエヴァンを見ると、これはアマゾンにオペラ・ハウスを建立することに生涯をかけた男を描いた、ウェルナー・ヘルツォークの「フィッツカラルド (Fitzcarraldo)」を思い出さずにはいられない。エヴァンもヘルツォークもやはりドイツ人だ。


その他にもメル・ギブソンの「アポカリプト (Apocalypto)」、フランシス・フォード・コッポラの「地獄の黙示録 (Apocalypse Now)」、ローランド・ジョフィの「ミッション (The Mission)」、ダーレン・アロノフスキーの「ファウンテン 永遠につづく愛 (The Fountain)」等々、アマゾンに限らずジャングルに足を踏み入れたり古の文明を想起させるその種の作品は、数はそれほど多くないが視覚的に強烈な印象を残すからよく覚えており、すぐ脳裏に甦る。


一方、「エンブレイス・オブ・ザ・サーペント」がこれらの作品と決定的に異なる点が、この映画、原色が散乱してほとんど毒々しいくらいであるはずのアマゾンを描いているのに、モノクロ映像で撮られているという点にある。「ネブラスカ (Nebraska)」について書いた時、ロード・ムーヴィはすべからくモノクロ映画にならざるを得ないというようなことを書いた。「エンブレイス・オブ・ザ・サーペント」も、はっきり言ってアマゾンの奥地への旅を描くロード・ムーヴィと言えなくもない。ただクルマを使ったロード・ムーヴィではなく、リヴァー・ムーヴィになり、クルマが小舟に代わっただけに過ぎない‥‥とは、やはり断言しかねるよな、この作品。


熱帯のコントラストの強い世界は、モノクロで撮っても印象的な絵になるのは確かだ。しかし、写真としての一枚の映像でならともかく、映画でアマゾンを全編モノクロで撮るのは、やはりもったいない、モノクロか、と思っていたら、この映画、最後に一部ではあるがカラーになるシーンもある。思わずあっ気にとられる使い方で、それまで描いてきたストーリーなぞぶっ飛んで、いきなり世界観、宇宙観を描く展開になる。これは見る者を選ぶな。












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おおよそ100年前、アマゾンの奥地の川を瀕死の白人テオ (ヤン・ベイヴート) とガイドの現地人が、秘薬となる植物ヤクルナを手に入れようと小舟で上っていく。ジャングルの主的存在のカラマカテ (ニルビオ・トレス) は案内を乞われ、このまま男たちをほっておいてジャングルの秩序を乱すよりはと、渋々了承する。彼らはさらに奥地に向かって船を進める。このような奥地にも、白人のカソリックの神父が教会を開いていたりした。彼らは様々な寄り道をしながらも、ジャングルの奥深くに舟を進める‥‥

時が経ち、また一人の白人の男エヴァン (ブリオン・デイヴィス) がアマゾンに姿を現す。エヴァンはテオがドイツで出版した手記を頼りに、自分もヤクルナを手に入れたいと考えていた。エヴァンは年老いたカラマカテ (アントニオ・ボリバー) と出会い、テオと同じように道案内を乞うのだった‥‥


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