アメリカン・アイドル: アメリカン・ドリーム   American Idol: American Dream

放送局: FOX

放送日: 4/5/2016 (Tue) 20:00-21:30

製作: 19TV、フリーマントル・メディア・ノース・アメリカ

製作総指揮: ナイジェル・リスゴー、サイモン・フラー


内容: 「アメリカン・アイドル」最終回放送に因んだ回顧特番。


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American Dream


アメリカン・ドリーム  ★★★

ついに長年アメリカのリアリティ・ショウ、いやTV業界全体を牽引してきたと言っても過言ではない、FOXの人気シンギング・コンペティション番組「アメリカン・アイドル (American Idol)」が最終回を迎えた。


「アイドル」は2002年から放送が始まり、ほぼ同時期に始まったCBSの「サヴァイヴァー (Survivor)」と共に、瞬く間に人気を獲得した。この2本に、僅かに時期と放送頻度等の放送形態は異なるが、ABCの「フー・ウォンツ・トゥ・ビー・ア・ミリオネア (Who Wants to Be a Millionaire)」を加えた3本のリアリティ・ショウが、2000年代の一時期、アメリカのTV界を席巻していた。これらの番組の登場は事件であり、一時代を画した。そしてその一角を担った「アイドル」も、ついにその幕を引く時が来た。


私たち夫婦は歌番組好きで、番組が始まった当初から「アイドル」ファンだった。特にゲーム・ショウ好きではないため、「ミリオネア」は当初から別によく見ていたわけではなく、「サヴァイヴァー」は最初の2シーズンで見なくなったが、「アイドル」は、基本的に全エピソードを見ている。見逃したエピソードももしかしたらあったかもしれないが、それでも3本を超えることはあるまい。少なくとも本選に入ってからのパフォーマンス・エピソードで見逃したものはない。1シーズンでだいたい40本のエピソードがあるとして、15シーズンでほぼ600本のエピソードをこれまでに見ている。


とはいえ毎回最初から最後まで放送時間に真面目に見ているわけではなく、録画しておいて後でパフォーマンスと結果発表のポイントだけ見る。「アイドル」は、1時間のパフォーマンス・エピソードが火曜にあって、翌日30分の結果発表エピソードを放送するという体裁をとっていた。私たちは番組が始まって当初は両方ともちゃんと全部見ていたが、「アイドル」は人気が出てきたのをいいことに、徒らに結果発表のエピソードを30分から1時間に引き延ばすようになった。こちらとしては知りたいのは結果だけで、30分ですら長いと思っていたのを、1時間もただつまらない馴れ合いのおしゃべりや寸評に付き合っている暇はない。


ほぼ時を同じくして、世の中にはDVRという非常に便利なものが登場した。ボタン一つで簡単に番組の早送り巻き戻しができるDVRの登場は、視聴者の、特にこの手のパフォーマンス系勝ち抜きリアリティ・ショウの見方を変えた。大方の視聴者は、番組参加者のパフォーマンスを見たいのであって、ジャッジのコメントはついでに見ているに過ぎない。特に「アイドル」における結果発表においては、1時間番組のうち、結果発表とゲスト・パフォーマンス以外の80%は不要に感じられた。そのため、私たちは段々番組を放送時間通りに見ることはせず、時間差で遅らせて見始め、不要と思える部分は飛ばして見るようになった。


「アイドル」人気に陰りが見え始めた時、プロデューサーが最初にしたのは結果発表エピソードをまた短くすることだったのは、当然と言える。それでも視聴者離れに歯止めがかからなかったため、結果発表は30分になったどころか、最後の数シーズンはパフォーマンス・エピソードに吸収される形で結果発表エピソード自体がなくなってしまった。しかし時は既に時遅く、いったん長過ぎる結果発表に業を煮やして番組から離れた視聴者は、もう二度と戻ってこなかった。人間、欲をかき過ぎるとよくないといういい見本だ。


ただし、通常、パフォーマンス60分、結果発表30分の番組構成が、最後の2シーズンはパフォーマンス+結果発表の1エピソードで2時間になっていたので、実質的に番組時間は増えこそすれ減ってなく、単に視聴者は騙されただけと言えるかもしれない。また、構成変更に伴い、結果発表の仕方もシーズン毎に微妙に異なっていったため、最後の方は追放者を決める方法もよくわからなかった。要するに番組プロデューサーもわかっているので、視聴者に飛ばし見させない方法を色々と考えていた。


しかし、私に言わせてもらえればそんなこと簡単だ。つまらない部分が多いから飛ばすのであって、要はパフォーマンスを増やし、結果発表は徒らに引き延ばさず、コンサイスにまとめてくれればいい。最後の2シーズンの悪足掻きは単に視聴者を混乱させただけで、さらに視聴者離れを加速させただけだった。


そんなこんなで「アイドル」は、4月7日に第15シーズンのアメリカン・アイドル発表と共に、最終回を迎えた。その2日前に放送されたのが、15年間の回顧総集編である「アメリカン・ドリーム」だ。因みに最後のアイドルに選ばれたのは、トレント・ハーモン。個人的には応援していたのはトリスタン・マッキントッシュとマッケンジー・ボーグだったが、まあ文句はない。


「アイドル」は国民的番組になって都合15人のアイドルを生み出したわけだが、その全員がプロ・シンガーとして成功したわけではない。現在、誰の目から見ても成功している「アイドル」優勝者は、初代ウィナーのケリー・クラークソンと、第4シーズン・チャンプのキャリー・アンダーウッドくらいで、他の歴代ウィナーは特に大きく活躍しているわけではない。あれだけの過酷なコンペティションを勝ち抜いても、成功を約束されているわけではないのだ。


一方、優勝しなくてもその後順調にキャリアを成功させた者もいる。その代表が「ドリームガールズ (Dreamgirls)」でオスカー女優となったジェニファー・ハドソン、それにNBCの「スマッシュ (Smash)」を経て現在CBSの「スコーピオン (Scorpion)」にレギュラー出演中のキャサリン・マクフィーだろう。その他にも現在バンド活動を行っていてそこそこヒットもあるクリス・ドウトリーや、シットコムやリアリティ・ショウに主演しているケリー・ピックラー、FOXの「グリー (Glee)」にも出ていたアダム・ランバート等がいる。ゲイの政治家になったクレイ・エイケンなんていう異色のキャリアを築いた者もいた。


番組で絵として最も印象的だったのは、第1シーズンから15年をかけてどんどん体重が増えていったケリー・クラークソンで、最初出てきた時から現在までに20kgくらい太ったのではなかろうか。まだすれてない田舎の気のよさそうな隣りのお姉ちゃんという印象から、現在では貫録充分のヴェテラン・シンガーになった。アレサ・フランクリンとかライザ・ミネリとかアナ・ネトレブコとか、太っていくシンガーって、例外なく歌がうまい。あるいは、太って歌えなくなったシンガーは消えて行っているだけなのだろうか。


ジャッジに目を転じると、ランディ・ジャクソンが番組開始から12シーズンにわたって最も長くジャッジを務めた、次いでサイモン・コーウェルの9シーズン、ポーラ・アブドゥルの8シーズンと続く。悪い意味で最も強く印象に残ったのが、第12シーズンのニッキ・ミナージとマライア・キャリーで、相性最悪の二人は番組の最中でもお互いを罵倒し合うなど、コンテスタントより彼女らのキャット・ファイトの方が注目を集めた。番組が下り坂であることを印象づけたシーズンだった。


とはいえ、その前後に登場したジェニファー・ロペスやキース・アーバンは、コンテスタント寄りのコメントでなかなか悪くなかった。ロペスは毎回どんな衣装や髪型で出てくるのか、こちらも楽しみだった。最後の3シーズンのロペス、アーバン、ハリー・コニックJr.のトリオは結構よかったと思う。これがミナージ+キャリー以前だったら、「アイドル」はもう少し寿命を伸ばせたかもしれない。


意外な人選で悪くなかったのが、途中2シーズンを務めたスティーヴン・タイラー。テニス解説のジョン・マッケンローが、アナウンサーとしての技術はなくてもプロの一線にいた経験からなるほどと思わせるコメントで感心させるように、こちらもプロとして長らく一線にいて培われた経験からのコメントで、意外に悪くないと思わせた。他にカーラ・ディオグアルディや、最も意外なところでエレン・デジェネレスも1シーズンだけだがジャッジを担当している。とはいえデジェネレスの場合は、ホスティング技術はともかく、歌に関しては門外漢だったことを露呈してしまっていたが。


そしてもちろん、ただ一人最初から最後まで番組を全うしたホストのライアン・シークレストも忘れてはならない。ある意味「アイドル」はシークレストの修業の場として機能しており、ホスティングの技術を磨きながら億万長者になったシークレストが、番組で最も実を得た人材と言うことができる。そして最も割りを食ったのが、第1シーズンにそのシークレストと共同ホストを担っていながら、合わないとして1シーズン限りで番組を去ったブライアン・ダンクルマン。辞めてなければあんたも今頃大金持ちだったのに。逃がした魚は大きかった。


最後に、個人的にこれまでの歴史の中で最も印象に残ったパフォーマンスを挙げると:


ファンテイジア・バリノ「サマータイム」第3シーズン

キャサリン・マクフィー「サムウェア・オーヴァー・ザ・レインボウ」第5シーズン

デイヴィッド・アーチュレッタ「イマジン」第7シーズン

アダム・ランバート「フィーリング・グッド」第8シーズン

ヘイリー・ラインハート「ザ・ハウス・オブ・ザ・ライジング・サン」第10シーズン

フィリップ・フィリップス「ヴォルケイノ」第11シーズン

トレント・ハーモン「シャンデリア」第15シーズン



未聴の方はYouTubeで是非。










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