300: Rise of an Empire


300 (スリーハンドレッド): 帝国の進撃  (2014年3月)

オリジナルは予想外の大ヒットとなった「300 (スリーハンドレッド)」、当然のことながら続編が製作された。しかし前作はほとんどの主要登場人物が死んでしまった「300」、しかも映画とはいえ史実を元にしている。この後、なんか映画にできそうな展開があったろうか。


と思っていたら、今回は時間軸的には前回の続き、「シークエル (Sequel)」なのではなく、基本的に時間を遡る前日譚「プリクエル (Prequel)」だ。クライマックスとしてのスパルタ壊滅を先に描いてしまったため、こういう方便になったのだろう。「スター・ウォーズ (Star Wars)」でルーク・スカイウォーカーがダース・ベイダーを倒した後に、そもそもの発端であるアナキンの転倒を描いたようなものか。


今回の原作となるグラフィック・ノヴェル「クセルクセス (Xerxes)」は、前回同様フランク・ミラーが描いてはいるが、しかし、現時点ではまだ発表されていない。たぶん同時進行で製作されたのだと思うが、基本個人作業のグラフィック・ノヴェルは、映画公開より後になった。意図的なものか。前回「300」が公開された時は、その後グラフィック・ノヴェルの売り上げが伸びたらしいから、また柳の下の二匹目のどじょうを狙っているのかもしれない。


一方、今回は、常識として誰でも知っているスパルタ壊滅のような話にはならず、クセルクセスの生い立ちや、ギリシア軍を率いるテミストクレス、そしてアテネと敵対するペルシアの女性闘将アルテミシアを中心に描く、フィクショナルなものになった。それもわからなくはない話だ。


アルテミシアを演じるのがエヴァ・グリーンで、TVのスターズの「キャメロット - 禁断の王城 (Camelot)」、ティム・バートンの「ダーク・シャドウ (Dark Shadows)」と、共に妖術を操る魔性の女を演じており、近年は魔女化している。「カジノ・ロワイヤル (Casino Royale)」でのヴェスパー・リンドからは違う路線になったようだ。今春ショウタイムで放送される「ペニー・ドレッドフル (Penny Dreadful)」でも、演じているのはやはり正体不明の女だ。でも、なんかわかる。


一方、グリーンの怪演のため、ギリシア軍を率いるテミストクレスを演じるサリヴァン・ステイプルトンの印象は霞んでしまった。その他、クセルクセスを演じるロドリゴ・サントロや、ゴルゴのレナ・へディ、アイスキュロスを演じるハンス・マシソンらは前作から変わらず。演出は「賢く生きる恋のレシピ (Smart People)」のノーム・ムーロ。


「300」は、何はともあれその斬新なヴィジュアルが第一のセールス・ポイントだった。確かに凄いなと思わされたが、しかしそういうヴィジュアルには、人はすぐ慣れる。「300」の余波を受けて製作されたスターズの「スパルタカス: ブラッド・アンド・サンド (Spartacus: Blood and Sand)」で、私はこれ、既に古いなと思いながら見ていた。


そして今回の「帝国の進撃」も、その轍の誹りを免れていない。元々オリジナルのザック・スナイダーは特にシリーズ化を考えてはいなかったと思う。さもなければいくら原作があり、史実を元にしているとはいえ、登場人物皆殺しを実践するとは考え難い。残された女子供が復讐のために生きるというその後の展開も考えられなくはないが、既にクライマックスは終わっているという印象はいかんともし難い。


それが今回の話は、アルテミシアの、世界に対する復讐譚という乗りで、面白くないこともないのだが、しかしオリジナルを凌ぐヴィジュアルの製作は、たとえスナイダーが製作に携わっていても無理だったようで、前作ほどのインパクトはない。もちろん前知識なしに「帝国の進撃」だけを見れば、そこそこエキサイティングなアクションだろうとは思うが、しかしこちらは当然前作と比較する。おかげで前日充分な休養をとってアクションものを見に来ているのに、見ながらあくびが止まらず、スクリーンが涙で滲む。お涙頂戴映画でもないのに。


実際、今話を思い出してこの項を書こうとしても、頭の中に明滅するのは前作の方のアクション・シーンばかりで、今回はグリーンの顔ばかりが思い出され、印象に残ったアクションはほとんどない。特に前作では、ジェラルド・バトラー演じるレオニダスが、「ディス・イズ・スパルタ!」と叫ぶのが、誰でも真似するほど流行った。これをパロらないコメディアンはいなかった。そういうイメージが今でも強く記憶に残っているのだが、映画が公開されたのは2007年、既に6年も前の話だ。それなのに、2週間前に見た「帝国の進撃」より、「300」の方がいまだに強く記憶に焼きついている。


それを考えると、やはり「帝国の進撃」のインパクトは落ちると言わざるを得ない。「マトリックス (Matix)」を超えるマトリックス的なものの創造は、製作者のウォシャウスキー兄弟 (現兄妹) すら不可能だった。新しいヴィジュアルの創造は、だいたい発現した途端完成するもののようで、その上を行くのはかなり難しい相談のようだ。









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クセルクセスは少年の頃、目の前で父ダリウス1世がギリシア軍のテミストクレス (サリヴァン・ステイプルトン) の放った矢によって殺されるところを目撃していた。ダリウス1世はクセルクセスにギリシア軍を戦うことはないと告げて世を去る。しかしペルシア軍を率いる アルテミシア (エヴァ・グリーン) は逆にクセルクセスを、自分の力を試す旅へと旅立たせる。アルテミシアはギリシア人だったが、幼い頃にギリシア人によってレイプされた上に家族を皆殺しに され、ギリシアを憎んでいた。そして死線を彷徨いながら力強くなって帰ってきたクセルクセスは、ギリシア壊滅を誓う。勢力に勝るペルシア軍との戦闘は避け られないと見たテミストクレスは、スパルタに助力を求めるが、ゴルゴ (レナ・ヘディ) はあまり好意的ではなく、ギリシアは独力でペルシアとの海戦に挑む‥‥


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