1917


1917 命をかけた伝令  (2020年1月)

「1917」というタイトルを聞いた瞬間から、ああこれは第一次大戦時を舞台とする映画だなとすぐわかる。英国人のサム・メンデスが演出していることもあり、印象としては、たぶん「戦場からのラブレター (Testament of Youth)」みたいなものかと想像を逞しくする。 

 

一方、だからといって興味を惹かれたかというと、特にそういうこともなかった。ゴールデン・グローブ賞の作品賞を獲っても、特に見たいと思っていたわけではない。それが気になり始めたのは、たまたまついていたTVで、近づいてきたアカデミー賞の紹介をしていて、それで「1917」って、全編1テイクで撮った作品だということを言っていたからだ。 

 

1シーン1ショット、これは気になる。戦争アクションを全編カットなしの1シーン1ショットで撮ったってか。そうか、そういう高難度に挑戦しているから、評価が高いのか。と、今度はいきなり俄然興味が湧いてきた。 

 

演出のサム・メンデスは「007 スペクター (Spectre)」で、冒頭で印象的な1シーン1ショットを撮っている。今回がその延長線上にあるのは確実と思われる。あれを全編でやってみたらどうなるか。この誘惑には到底抗えなかった。 

 

ほぼ全編1シーン1ショットで撮った作品というと、近年ではやはり「バードマン あるいは (無知がもたらす予期せぬ奇跡) (Birdman)」がある。あれもそのチャレンジ精神が高く評価された。しかし、戦闘のモブ・シーン、アクション・シーンが多発するだろう戦争映画では、その難度はさらに上がる。本当に戦争映画を1シーン1ショットで撮ったのか。 

 

撮影が超難しいのは考えるまでもないので、実は「1917」が1シーン1ショット作品ということを、本気で信じていたわけではない。TVで見た時は紹介者も実際に見ているわけではなかったようだし、映画の多くの部分を1シーン1ショットで撮って繋げた作品という可能性もあるなと思っていた。要するに、私の意見では戦争映画を全編1シーン1ショットで撮るのは不可能だと思っていた。 

 

実際に上映が始まり、主人公をとらえたカメラが後退し出し、彼らが司令部に呼ばれるまでを実際に1ショットで撮っているのを見て、なるほど、確かに1シーン1ショット撮影のようだと思う。しかも司令部に続く塹壕、そしてさらにその先の最前線に至るまでの塹壕内でのカットなしの移動撮影で、多くの兵士たちとすれ違う。このタイミングで兵士とすれ違ってカメラが寄ってパンして360度旋回して、なんて、当然決めてやってんだろ? 戦闘が始まっているわけでもないのに、既に超高難度撮影という印象強し。この後も、え、これ、どうやって撮ったのというウルトラ級のショットが続く。こりゃすごいわ。 

 

一方で、途中で主人公が爆発に巻き込まれ、一瞬スクリーンが飛んで真っ白になる。そこでカメラが切り替わるのは明らかだ。さらに後半、撃たれたウィルは気を失い、そこでは一瞬どころか何時間か時間が飛ぶ。もちろんここでもカメラが切り替わる。揚げ足をとるようだが、リアルタイムで撮った作品以外で、本当に1シーン1ショットで撮った作品などあり得ない。 

 

等々、重箱の隅を突付くような粗探しをしてしまいたくなるほど、実際映画はよく撮れている。正直言って、ここまで本気で1シーン1ショットを意識して撮っているとは思わなかった。近年、CGの発達でかなり技術的にデジタルの力を借りているのは間違いなく、さもなければああいうタイミングで戦闘機を飛ばし、しかもこちらにぎりぎりに墜落させるなんて無理だろうと言わざるを得ないが、しかしやろうとした心意気は買うし、称賛を惜しむものではない。 

 

ではあるが、この長大な1シーン1ショット作品が、「バードマン」と同じく、やはり緊張の糸を最初から最後まで途切れなく紡いでいるかというと、それは首を傾げざるを得ないのもまた事実だ。要するに、明らかに実際に起こり得ず、CGの助けを借りているという認識が、100%の緊張感、作品への没入を阻害する。 

 

正直言うと、あまりアクションの起こらないテオ・アンゲロプロス作品や、相米慎二作品のせいぜい10分程度の1シーン1ショットの方が、見ていてより緊張する。これは本当の1シーン1ショットということを見る方が知っているからなのか、あるいは演じている者演出している者の緊張感がスクリーンを通してこちらに伝わってくるからなのか。もしかしたら単純に、人が、あるいは私自身が一つのことに集中できる時間が10分くらいしかないだけで、それを超えたらすべて一緒くたになるということだけなのかもしれない。 

 

いずれにしても、こないだマーティン・スコセッシの「アイリッシュマン (The Irishman)」を見ていて、登場人物を自由自在に歳をとらせることのできる近年のCG技術に感心したものだが、今回は、CGが正確にどこでどう使われているかよくわからないだけに、よけいに感心させられた。テクノロジーの進歩が、新たな可能性を生み出すということだけは確かだ。 

 











< previous                                      HOME

1917年4月、第一次大戦時ドイツ西部前線。膠着状態の戦局が続く中、ドイツ軍が後退したのを見て、英軍は勝負をかけて相手陣地に攻め入る計画を立てる。しかしこれはドイツ軍の作戦で、英軍をおびき出して叩くつもりだった。これを知ったエリンモア将軍 (コリン・ファース) は、兄が前線にいるトム (ディーン-チャールズ・チャップマン) とウィル (ジョージ・マッケイ) の二人を呼び、前線で指揮をとるマッケンジー大佐 (ベネディクト・カンバーバッチ) に、進軍を止めさせるよう伝令を託す。限られた時間の中、トムとウィルは必死で前線を目指すが‥‥ 


___________________________________________________________

 
inserted by FC2 system