放送局: ナショナル・ジオグラフィック・チャンネル

プレミア放送日: 9/13/2004 (Mon) 18:30-19:00

第2シーズン・プチ・プレミア放送日: 7/28/2006 (Fri) 21:00-21:30

製作: MPHエンタテインメント・プロダクションズ

製作総指揮: マーク・ハフネイル、メリッサ・ジョー-ペルティエ、ジム・ミリオ

出演/ホスト: シーザー・ミラン


内容: 素行の悪い犬を躾け直すリアリティ・ショウ。


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自然や動物、および世界の動静をとらえ、世界中に愛読者を持つ雑誌、ナショナル・ジオグラフィック誌が母体のナショナル・ジオグラフィック・チャンネル (NGC) は、当然、同様に自然/動物/人間界のドキュメンタリー主体で構成されるケーブル・チャンネルだ。アメリカでは2001年からサーヴィスが始まっているが、ヨーロッパやアジアではそれ以前から既に放送が始まっており、アメリカはどちらかといえば世界では後発の方だ。


そのNGCで現在最も人気がある番組といえば、実はその手のドキュメンタリー番組ではなく、リアリティ・ショウの「ドッグ・ウィスパラー」である。どちらかといえば真面目な、いかにもドキュメンタリーという感じの番組が多いNGCにおいて、エンタテインメント色の濃い「ドッグ・ウィスパラー」はやや異質であるが、とにかくこれが面白い。


実は「ドッグ・ウィスパラー」は、一昨年から番組は始まっている。私はその時もプレミア・エピソードとかは見ているのだが、今回、NGCは番組を新エピソードを毎日放送するプチ・マラソンで「ドッグ・ウィスパラー」を放送、これに我々夫婦は見事にはまってしまった。というか、私の女房が完全につかまれた。元々私の女房はネコ好きで、どちらかというとイヌは、世話して構ってやる必要があるため、面倒くさくて好きじゃない、という意見の持ち主だった。それが今では「ドッグ・ウィスパラー」の影響で、イヌもいいねと平気でのたまうようになった。


「ドッグ・ウィスパラー」は、最初見た時からそれなりに面白いとは思っていたのだが、あまり定期的なシリーズ番組を持たないNGCにおいて、ほとんど不定期に放送される「ドッグ・ウィスパラー」は、いつ放送されるかよくわからず、いちいちチェックするのが面倒だったため、そのうち、自然に見なくなった。


だいたい、ケーブル・チャンネル、それもNGCのようなマイナーなケーブル・チャンネルは、シリーズ番組にしても、シーズンという概念を持たない。それで自分たちで勝手に、何話か撮り溜まったから放送する、みたいなスタンスで放送している。「ドッグ・ウィスパラー」の場合、プレミア放送は2004年の9月だが、いきなり一と月ほどにわたって集中的に10本ほど放送された後、まったく音沙汰なくなった。私もそれきり忘れてしまった。そしたら、今回調べてみたら、翌年7月にまた新エピソードが15本くらいまとめて放送されている。そしてその後また今年1月まで、ふっつりと新エピソードの供給が途絶えているといった具合だ。


こういう放送の仕方は、視聴者の立場から言うと、非常に番組を追いにくい。たぶんNGC自身そう思ったんだろう、今年一月放送分くらいからは、それまでは放送する時は集中してほとんど毎日か一日おきで、何本かまとめて放送した後、時間が空くというやり方を改め、だいたい週一のペースで決まった時間に放送するようになった。絶対視聴者から苦情が来たに決まっている。まあ、NGCだけじゃなく、あまり力のないケーブル・チャンネルはだいたいどこでもこんな感じで放送しているのだが、番組に人気が出てくると、決まった時間に決まった番組を見たいという固定視聴者が出てくるので、こういう問題が起こる。編成で文句を言われるのは番組が人気のある証拠であり、NGCとしても文句はあるまい。


いずれにしてもそのため「ドッグ・ウィスパラー」は、この7月にまた新エピソードが毎週放送され始めたのだが、それが何シーズン目に当たるのかがまったくわからなかった。私は最初、番組が始まった2004年9月放送の約10本が第1シーズン、2005年7月が第2シーズン、2006年1月が第3シーズン、そして今回が第4シーズンだろうと単純に思っていたのだが、NGCのサイトにアクセスしてみると、2004年9月と翌7月に放送したエピソードを合わせた計26本が昨シーズンとして記されている。実際に発売されている第1シーズンのDVDでは、この26本が収録されているようだ。今年7月の最新エピソードは、1月から4月まで放送された分と合わせて、今シーズン、つまり第2シーズンという扱いだ。


要するに私が新シーズンと思っていたのはまったくそうではなく、単に3か月のブランクを置いた今シーズンの残り半分ということになる。めちゃわかりにくい。やはり同じシーズン内に3か月のブランクを置いて視聴者泣かせだったFOXの「プリズン・ブレイク」が、やたらと視聴者フレンドリーに感じてしまう。因みにケーブルでは、やはりコメディ・セントラルのドル箱番組「サウス・パーク」が同様に不定期シーズンで番組を放送しており、近年は春に新作7本、秋に新作7本ずつ、合わせて14本で1シーズンとするという仕方が定着しており、つまりケーブル・チャンネルでは、人気次第でどのような編成のやり方でも許される。


さて、「ドッグ・ウィスパラー」がそれなりに面白いのは知っていたが、上述の理由等もあり、最近はほとんど見ていなかった。畢竟、イヌのしつけ番組である。そりゃ世の中にイヌ好きはかなりいるだろうとは思うが、それでも世の中の人口の半分くらいは既に想定視聴者の対象外と言っても過言ではあるまい。面白いは面白いが、カルト番組としての人気以上のものを獲得するとは到底思えなかった。


ところが今年の春先くらいから、そういう私の予想を覆すことが連続して起こるようになった。まず、このくらいマイナーな番組が載ることはほとんどない、TVガイド関係の雑誌や記事の特集で、「ドッグ・ウィスパラー」がとり上げられているのを散見するようになった。さらに、今春の「サウス・パーク」で、番組ホストのシーザー・ミランが登場してパロられているのを見た時には、ほとんど私の意見が間違っていたことを知った。


パロディというのは、オリジナルを誰もが知っていることがまず第一の前提条件だ。誰も知らなければパロディにする意味がない。つまり、私の予想を覆して、実は「ドッグ・ウィスパラー」は、かなり既に世間に流布していたらしい。極めつけが今夏のプライムタイム・エミー賞のノミネート番組発表で、「ドッグ・ウィスパラー」がリアリティ部門でノミネートされているのを見た時だ。「ドッグ・ウィスパラー」がエミー賞か。なんだ、みんなこの番組見てんじゃないか。


というわけで、こっちもまた番組を見たいという意欲がふつふつと沸いてきた。それで次の新シーズンはいつからかとチェックしていて、7月のプチ・プレミアを発見したわけだ。さらにNGCは今回、そのシーズン内の再プチ・プレミアに合わせ、日曜から金曜まで毎日夜9時から11時まで、再放送分も含め、すべて「ドッグ・ウィスパラー」を編成してきた。エミー賞にノミネートされたのを見て、これは毎日編成でも行けると判断したに違いない。ちょうど時期はネットワークのオフ・シーズンで、私が定期的に見ている番組は、水、木のFOXの勝ち抜きダンス・リアリティの「ソー・ユー・シンク・ユー・キャン・ダンス」の第2シーズンしかない。それで我々夫婦は本当に毎日「ドッグ・ウィスパラー」を見て、それではまってしまったわけなのだった。


さて、その「ドッグ・ウィスパラー」であるが、要するにFOXの「ナニー911」やABCの「スーパーナニー」を思い浮かべてもらえばわかりやすい。つまり、態度や行儀の悪いイヌのいる家庭に、ドッグ・ウィスパラーことシーザー・ミランがお邪魔して、イヌをしつけ直して帰っていくという寸法だ。だいたい一話につき3つの異なる家庭にお邪魔する。ハリウッド・スターのデニス・リチャーズの飼い犬をしつけ直したエピソードもあった。


一言でイヌというが、当然血統も氏も育ちも大きさも違えば性格も違う。甘やかされて育ったイヌは自然わがままなイヌになる。飼い主がはっと気がついた時には、既に手に負えないほどのわがままイヌが完成しているのだった。そこでしつけに手を焼き、ほとんど諦めた飼い主の要請によって、ミランの出番となる。


これらのイヌの問題は、大半が甘やかされすぎてハイパーになっていることだったりする。道行く先々で他のイヌを見つけるとわれ先に唸り声を上げてケンカを仕かけようとするため、満足に散歩もしてやれない。時には人間にだって咬みつこうとする。小さなイヌですらそうなのだが、やはり問題は、イヌが大型で飼い主の手に余る時だ。あるエピソードでは、10歳くらいのまだ幼い女の子が既に成犬となった、体重で2倍はあると思われる、マスティフかロットワイラーのようなイヌを散歩に連れ出すのだが、当然の如く自分が引きずられていた。本人にとっては笑いごとではない。


だいたい、これらの飼い主は、それまでにいろいろな方法を試してみたりして、二進も三進も行かなくなったからこそ、最後の手段としてミランを頼ってみたりしているのだが、本心はそのほとんどが、ミランの実力に対して半信半疑だ。それも当然だろう。なんてったってこちらはそのイヌが生まれた時から、あるいは子イヌの時からずっと一緒に面倒を見てきている。性格を知り尽くしているが、それでも矯正できなかったのだ。それが、たとえイヌのしつけのプロであろうと、一朝一夕で性格が変わるわけがない。


TV番組としての「ドッグ・ウィスパラー」の面白さは、そういう、わがままで手に負えなかったイヌが、ミランがリーシュを手にした途端に、借りてきたネコみたいにおとなしくなってしまうという劇的な変化にある。もちろんごくたまにミランに咬みつこうとしたり楯突いたりするイヌもいるが、大半のイヌは、ミランがリーシュを握り、得意のシッ、シッという矯正語を発しながら軽く足で蹴られたりすると、それだけでこれまでのハイパー振りが嘘のようにまったくおとなしくなってしまい、ミランに服従の姿勢を見せるのだ。これはもう劇的で、それまでしつけに手を焼いていた飼い主も、だいたいが唖然として、信じられないという言葉を口にすることになる。あまりのことに感極まって涙を見せる飼い主も一人や二人ではない。ドッグ・ウィスパラーは本物だったのだ。


ミランがイヌをしつけ直す時によく口にするキー・ワードとして、「リハビリテーション (Rehabilitation)」と「パック・リーダー (Pack Leader)」という二つの単語が挙げられる。どうやらだいたいこの二つが彼がイヌをしつけ直す時の最重要ポイントとなっているようだ。要するに、イヌに対しては、本来の己の姿と、飼い主に対する忠誠をとり戻させることを主眼とする。


パック・リーダーという単語はイヌに対しても飼い主に対しても用いる。本質的に群れるイヌという種族は、リーダーを必要としている。もし飼い主がいる場合は、当然飼い主がそのイヌのリーダーとなることが求められる。つまり、飼い主はイヌを甘やかすことが愛情の表現になるわけではない。イヌをしつけ、甘やかすことなく行動を律することがまず先に来るのであって、じゃれ合うのはその次だ。その逆ではイヌはつけ上がり、飼い主を対等かそれ以下としてなめるようになる。


また、同じイヌの群れに入った時、彼らは本能的に自分より強いやつや弱いやつを見極めるために距離を置き、そこから段々付き合いを始める。なんのことはない、人間と同じだ。ところが甘やかされて自分を人間と対等とカン違いし、イヌづきあいができていないイヌの場合、他のイヌに対していきなり威嚇的な行動に出る。弱いイヌほどよく吠えるを地で行ってしまうわけだ。ミランが経営しているイヌのトレーニング・センターには常時何十頭ものイヌがいるのだが、そこに連れてこられた素行の悪いイヌは、それまでの自分の甘やかされた態度ではまずいことにすぐに本能的に気づく。当然だろう。自分より体格のよい他のイヌに囲まれて威嚇行動に出るのがほとんど自殺行為であるというのは、ほんの僅かでも生存本能が残っていれば、誰に教えられなくてもわかる。


そういうイヌを連れて飼い主が群れの中に入っていく時、意外なことだがミランは、絶対に他のイヌと視線を合わせるなと忠告する。視線を合わせることは、ほとんどガンをつけるのと同様の行為であり、群れに動揺を与えてしまうのだ。目を合わせて可愛い可愛いとイヌの頭を撫でる行為は、ここではご法度だ。見てみると、確かに初対面のイヌ同士も、最初はお互いになんとなく遠巻きにして、それから近寄っておしりの匂いを嗅いでいたりする。イヌはそうやって自分がイヌであることを再認識するのだ。


そして一方では、飼い主の方も、イヌを甘やかすのではなく、イヌはイヌとして付き合わなければならない。愛情を与えるのはそれからだ。単に甘やかすのはイヌが自分を人間と対等とカン違いさせるだけで、誰にとってもなんの得にもならない。そしてそうなるのは、たいていが人間側の方に非がある。そのためミランは、問題のあるイヌをしつけ直す時に、イヌを訓練するのではなく、リハビリテイトさせ、人間の方をちゃんと目的意識を持った飼い主として訓練するのだと言っている。ほとんどのイヌのあれだけの劇的な変化を目の当たりに見せつけられると、納得せざるを得ない。


ミランは、本人もかなりイヌ好きなのは当然だろうが、それよりも、本人自身がイヌみたいだ。番組内では時々、イヌがどういう風な行動に出るかをミラン自身が手真似足真似して見せたりするのだが、そういう時のミランって、本当にイヌそっくりだ。イヌになりきっているんだろう。イヌの気持ちが完全にわかっていなければ、ああもいかにもイヌ然としたパントマイムなんてできるまいと思わせる。ミランの前世がイヌだったのは100%確実だ。しかも今でもどうやら人間にはなりきっていないような気配すら感じさせる。だからこそ人間の気持ちもイヌの気持ちもわかるのだな。





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さすらいのドッグトレーナー (ドッグ・ウィスパラー)   ★★★

 
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