放送局: FOX

プレミア放送日: 7/20/2005 (Wed) 20-22

製作: 19TV、ディック・クラーク・プロダクションズ

製作総指揮: サイモン・フラー、ナイジェル・リスゴー、アラン・シャピロ

ホスト: ローレン・サンチェス

ジャッジ/振付: ナイジェル・リスゴー、アレックス・ダ・シルヴァ、ミア・マイケルズ、ブライアン・フリードマン、メアリ・マーフィ、ダン・カラティ


内容: 勝ち抜きダンス・コンテスト。


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「アメリカン・アイドル」が現在アメリカのネットワークにおいてほとんど向かうところ敵なしの人気を誇っている現在、FOXが二匹目のどじょうを狙うのはまったく当然のことだった。とはいえ既にその最初のスピンオフである「アメリカン・ジュニアス」は、最初だけちょっと話題を提供しただけですぐにこけてしまうなど、だからといってその二番煎じまで必ず成功するという保証はどこにもなかった。今回、FOXが改めて編成する「ソー・ユー・シンク・ユー・キャン・ダンス (アメリカン・ダンスアイドル)」は、今度は歌の勝ち抜きではなく、ダンスの勝ち抜きリアリティ・ショウで、また新たな人気番組の確立を目指す。


広大なアメリカには、どのジャンルにも玄人はだしという人間が存在する。なんでこういう人がその道のプロじゃないわけ、という人間が在野にごろごろいたりするのだ。だからこそのど自慢勝ち抜きだろうがなんだろうが、いきなりプロ級の人間が出てきて高いレヴェルで争ったりするから面白くなる。そしてそれは、むろんダンスだろうと例外ではない。


「ダンス」は、「アイドル」とまったく同じ人間、製作会社が製作している。だからその進行は「アイドル」とほとんど同じだ。まず全米の各地で予選オーディションを行い、その中から選ばれた上位50人がLAの本選会場へと進む。それからさらに男女8人ずつ上位16人を選抜し、その後、毎回くじ引きでペアとダンスのジャンルを決め、生舞台でダンスを披露した後、まずジャッジがその回できの悪かったペアを何組か選択する。視聴者はそれを見て電話投票、翌週、投票で最下位だった者が追放される。ダンス自体は毎回ペアで踊ってはいるが、投票は個人に対して行うため、必ずしもペアで踊った者同士が追放されるわけではない。


「アイドル」同様「ダンス」でも本選前の全米各地でのオーディションの模様をとらえるエピソードが放送されるのだが、これまた「アイドル」同様、このオーディションの風景がかなり面白い。完全にカン違いしたにーちゃんねーちゃんたちが、何を血迷ったのかオーディションに参加していたりするからだ。何かを錯覚しているとしか思えないカン違いにーちゃんから、なぜこいつがプロじゃないのかよくわからないとしか思えないハイ・レヴェルなダンサーまで、ピンきりで様々なダンサーがいる。アメリカって広い。


実際、こないだ「ライズ」を見て、こんなダンサーが巷にごろごろしているのかと感心させられたのだが、それは今回も同じだ。「ライズ」の場合はクランピングのダンサーだけしか登場してこなかったが、「ダンス」ではヒップ・ホップでもクラシックでもモダンでもタップでもソーシャルでもラテンでも自己流でもなんでも来いで、とにかく自信のあるものが大挙してオーディション会場に押しかけてくる。これらを篩いにかけるのだけでも大変だ。


ただしここで一言苦情を言っておくと、この番組、プロデューサーの一人であるナイジェル・リスゴーがジャッジの一人としても番組に参加している。それはいいのだが、基本的に本選に進むまでは、彼一人の独断で次のステージへの当落が決まる。ナイジェル以外にも彼の妻を含め何人かジャッジがいるのだが、番組プロデューサー当人が出張ってきてあれがいいこれがいいこいつはダメだ、なんてコメントを挟む時、それに異議を唱えたり文句を挟むことのできる者なんかいるわけがない。それでほとんどナイジェル一人の判断でダンサーの運命が決まってしまうのだが、特に新体操的な振付のダンスを見せた、どこからどう見てもゲイの彼は、明らかにゲイが嫌いと思えるナイジェルの、「男性的ではない」というコメントによって落とされた。


これには大いに異議ありである。はっきり言って、彼のダンスのレヴェルは非常に高く、この回の誰と比較しても見劣りのするものではなかった。それがナイジェル一人の偏見によって落とされるのは可哀想だ。だいたい、男性的ではないダンスのいったいどこが悪いのだ。むろんこの種の番組は多かれ少なかれジャッジの個人的嗜好が判断に反映してくるのは避けられないが、こういうあからさまな偏向はかなり不愉快である。「アメリカン・アイドル」も時々ジャッジのサイモン・コーウェルのコメントが論議を醸したりしているが、彼の場合、ポイントを抑えた上での発言であるため、同意することはなくても納得できたりする。しかしナイジェルの発言はただの嗜好の問題でしかなく、説得力に乏しい。私はよほどFOXの「ダンス」のサイトに、ナイジェルを下ろせと書き込もうかと思ったくらいだ。大人げないと思って辞めたが、きっと誰かが既にそう思って書き込んでいるのは間違いないだろう。


ただしその時点では、私はまだ番組がその後どう進行していくかは知らなかったというのはある。「アイドル」のように、単純に躍らせて視聴者に投票させてダンサーの当落を決め、番組は進んでいくものと思っていた。そしたら「ダンス」は、基本的にペアでダンスを踊らせる。考えたらボールルーム・ダンスやラテン・ダンスのようなものはペアであることが大前提であり、その点、ヒップ・ホップやブレイク・ダンスとは種類が違う。クラシックだってソロもあるだろうが、ペアで踊れないと話にならないのはもちろんだ。そのため、男性は当然この種のダンスの男性のパートを踊れなくてはならない。確かにゲイの男性がクラシックの男性のパートを踊っていてなよなよしていたら、リフトなんか到底かなわず、ちょっと見られたもんではないだろう。とはいえ、あのゲイの彼がどういう風にその種のダンスをこなすのか、ちょっと見たかったような気がする。


番組は参加者が絞られてから、コレオグラファーによる振付を覚えさせ、それをどれだけうまくこなせるかという段階に入る。そしたら、これまでは自己流でも実にうまいと思わせていたくせに、とたんにぎこちなくなるダンサーが出てくる。自分のダンスを躍らせると抜群にうまいのだが、基礎を教わっているわけではないため、それ以外は踊れないのだ。あれだけリズムに乗っていたのに、踊る種類が多少異なっただけでまったく踊れなくなるのには驚いた。特にこの傾向は、ほとんど自分一人で踊っている、ヒップ・ホップやブレイク系のストリート・ダンサーに顕著だった。やはり何事にも基礎的な習練というのは必要なのだな、じゃないと応用が利かないのだと、思わず納得することしきりなのであった。


ダンサーが50人に絞られてからは舞台をハリウッドに移し、そこでダンサーは何グループかに分かれて、コレオグラファーがつきっきりでボールルーム、ヒップ・ホップ、ラテン等のダンスを徹底的に叩き込む。そうすると、さらに各々のダンサーの得意不得意の差が明瞭に現れてくる。ここで最もわりを食ったのは、アイリッシュの伝統的タップ・ダンスを踊る彼女だろう。大柄な彼女はいつでも相手の男性よりも大きく、男性の方が彼女をリフトできない。小刻みに男性が女性を回したりするラテン・ダンスではこれは致命的で、彼女自身がどれだけダンスのセンスに恵まれていようと、こればかりはいかんともし難いのだった。結局、彼女は自分にチャンスがないことを途中で既に自覚していたが、どうしようもあるまい。


それにしても一口にダンスというが、番組を見ていると色々なジャンルがあるんだなと思う。特にボールルーム・ダンスは様々な小口に枝分かれしており、ワルツ、タンゴ、サルサ、マンボ、ルンバ、チャチャチャ等、色々ある。さらにリリカル・ジャズ、パソ・ドブレ、ロックン・ロール等、番組でフィーチャーされるジャンルだけでも、こんなにあったかと思うほどだ。これではやはり、ダンスの基礎ができていないと、付け焼き刃で新しいダンスを踊るのは難しかろう。


さて、そうやって16人まで絞られたダンサーたちは、晴れて観客を入れた舞台で踊り、視聴者投票によって当落を決めるという勝ち抜きの段階に入る。これから先はジャッジやナイジェルの判断ではなく、すべては視聴者の胸先三寸である。まずくじ引きによってペアが決められた後、さらにくじ引きで何を踊るかが決められる。その後一週間、本番まで新しいコレオグラファーがつきっきりでそのダンスを教え込むのだが、自分の得意でないダンスを踊らざるを得ないくじを引いてしまった者が不利なのはもちろんだ。


そして本番でダンサーたちが踊り終えた後は、ジャッジができのよくなかったペアを数組選び出す。これに選ばれてしまったダンサーは、今度はソロで、それぞれ得意のダンスを踊る。視聴者はそれを見て電話投票し、最も得票数の少なかった者が落とされるという仕組みだ。


現在、既にメンツは12人まで絞られている。この中では、男子の本命はずばりブレイクだ。ブレイクは誰の目から見ても他より頭一つ抜きん出ている。本選に入る前の練習中には、完全に自分自身の世界に没入してしまい、踊りながら涙を流し始め、それを見た他の女性ダンサーまでぼろぼろ泣き始めてしまうなど、ほとんどニジンスキーの世界を構築していた。はっきり言って彼は、ボールルーム・ダンス以外なら、教える立場のコレオグラファー/ジャッジよりうまい。ただし、自分でもそれを自覚して天狗になりがちなのが玉に瑕で、平気でジャッジのダンを中傷した挙げ句、恨まれて落とされそうになっていた。ま、あれで本当に落とされるとジャッジが私事を挟んだということでまたスキャンダルになったろうが、しかし、少しはあの高い鼻を折ってやるのも悪くはあるまい。


しかしブレイクを見ていると、「アメリカン・アイドル」の第1シーズンのタマイラを思い出す。タマイラも別格にうまかったが、たった一回失敗しただけで落とされた。ブレイクだって頭一つ抜け出ているとはいえ、自分の苦手とするダンスやパートナーに当たってしまったら、どう転ぶかわからない。とはいえ、それでもやはりブレイクの実力が一枚上であることは誰も否定のしようがなく、女性ダンサーも皆ブレイクと一緒に踊りたがっているようだ。相手がうまいとつられて自分も実力以上のものが発揮できたりするし、こちらのミスもカヴァーしてくれる。もちろん、逆に自分のレヴェルがそれほどではないのがばれるのが嫌というふうに感じる者がいないでもないだろうが、まあ、そこまで考える余裕のある者はいないだろう。


その下は横一線という感じで、皆ツボにはまると決まるが、苦手種目では四苦八苦しているという感じだ。元々ボールルーム・ダンサーのアーテムのパソ・ドブレなんて玄人はだしだったし、ジャマイルのブレイク・ダンスなんてマイケル・ジャクソンよりうまいんじゃないかと思えるし、ライアンのストリート・ダンスは圧倒的に面白く、ソロだけを躍らせるとブレイクより見映えがする。ところが、自分の得手じゃないダンスを踊る段になると、とたんに皆借りてきたネコみたいになっちまうのだった。それでも、今回落とされるのはアレンということだけは間違いないだろうなあ。アレンはこれまた「アメリカン・アイドル」の、第2シーズン優勝のルーベンそっくりの体格で、ダンスに特に向いている体格とはまったく言えないが、それを持ち味の愛嬌でカヴァーしていたが、それもここら辺までという感じがする。


一方の女性陣は、特にイチ押しがいるわけではない。ブレイクのように抜きん出た逸材がいるわけではないが、私個人では、キャラクター絡みでメロディを最も応援していたんだが、もしかしたら今回落とされるかもしれない。身体の柔らかさと線の綺麗さは随一という感じがするが、今回一緒に最後の二人となったもう一方のスノウのような派手派手しさはないため、かなりやばそうだ。いずれにしても女性ダンサーの方は、時の運で誰が来てもおかしくない。


とまあ、今夏のネットワークのリアリティ・ショウとしては、私がは最も面白いと感じている「ダンス」であるが、実はこの「ダンス」よりも先に放送して既に最終回を迎えているABCの勝ち抜きダンス・リアリティ「ダンシング・ウィズ・ザ・スターズ (Dancing with the Stars)」の方が、実は圧倒的に人気が高かった。こちらの方はまったくの素人のセレブリティにボールルーム・ダンスをやらせて勝負を決めるというもので、元ボクシング世界チャンピオンのエヴァンダー・ホリフィールドや、アメリカのリアリティ・ショウ好きにはお馴染みのトリスタ・サター (レーンという旧姓でなく、TV結婚した相手のサター姓をちゃんと名乗っているところがおかしい) という面々が出ていた。


この番組ではペアのもう一方がプロなのだが、片方のセレブリティ側の方は当然まったくの素人である。私は、こんなずぶの素人のダンスなんか到底見る気になぞならなかったのだが、一般的な視聴者はそうでもなかったと見えて、実はこの番組、今夏最も高い視聴率を獲得したリアリティ・ショウとなった。それに較べると「ダンス」の視聴率なんて微々たるものである。素人でも玄人はだしの熟練したダンスを見せる「ダンス」と、素人が苦労して練習している「スターズ」と、どちらを見るか、私としては考えるまでもないとしか思えないんだが、一般視聴者って、やはりセレブリティが好き、あるいは、セレブリティが苦労してるのを見るのが好きなようだ。そんなもんかねえ。



追記 (2005年9月)

ついに番組最終回、最後まで残ったのはニック、ジャマイル、メロディ、アシュリーの4人。結局ブレイクはその前の週に踊ったダンスが2曲ともボールルーム・ダンスで、特に得意とする分野ではなかったことが災いし、ついに落ちた。とはいえ、それだって積極的に貶すほどのものではなく、あそこまでまとめられたのはむしろブレイクだからこそという感じが濃厚にしたんだが、このあたりまで来るとファンは自分のひいきのダンサーを持っており、別にダンスのでき自体がどうこうというよりも、最初から誰に投票するか決めていたという感じがする。ちょっと天狗気味のブレイクは、現在では謙虚なところを見せているとはいえ、最初の印象でかちんと来たファンが多かったのは間違いないところだろう。


というわけで上記4人で最後の勝負を争った結果、優勝はニック、次点がメロディという結果になった。確かに彼らは悪くなく、しかも、回が進むに連れてうまくなって行ったというのがはっきりわかったところもよかった。しかもこの二人は番組収録以前からの友人同士で、ずっと一緒に踊っていたという、なんか少女マンガの題材にでもなりそうな背景つき。二人ともいつもにこにこと愛想がよく、性格もよさそうなところもファンが多かった理由の一つだろう。






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So You Think You Can Dance

ソー・ユー・シンク・ユー・キャン・ダンス (アメリカン・ダンスアイドル (American Dance Idol))   ★★★

 
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