放送局: ブラヴォー

プレミア放送日: 9/27/2006 (Thu) 20:00-22:00

クリエイター/監督: ダニエル・フィンジ・パスカ


内容: シルク・ドゥ・ソレイユの新パフォーマンス中継。


_______________________________________________________________


今や世界的知名度を誇る新世紀サーカス/パフォーマンス集団シルク・ドゥ・ソレイユは、かなり高い頻度で新作を披露する。その時、それまでの演目がお蔵入りになるかというとそういうことはなく、それらの旧パフォーマンスは各国巡業に出たり、あるいは半恒久的施設でずっと上演されているものもある。そのため、今では世界のどこかでシルクが公演していない日はないと言ってもいいくらいだ。


私はかなり昔からのシルク・ファンで、アメリカではほとんどブラヴォーが放送しているシルクのパフォーマンスはすべて欠かさず見ている。その新作「コルテオ」のニューヨーク公演は、今夏、今ではお馴染みとなったランドール・アイランドの特設テントで開催。もちろん生でも見たいことには変わりないが、今ではチケット代は100ドルと、人気があって非常に高くなってしまった。そんな遠くない昔にその半額以下で「キダム」を見たことを覚えている身としては、なんとなくボラレている気がして払いたくない。


それにまた近々のうちにケーブルTVのブラヴォーが中継してくれるんだろう、前回の「ヴァレカイ」の時なんて、まだ本公演中にTV放送していたくらいだ。と思っていたら、今回はさすがに公演中ではなく、それが終わって放送は秋まで待った。やはり公演中のTV中継はあまり効果的じゃなかったようだ。いずれにしても調べてみたら、「コルテオ」以外にも、ビートルズ・テーマの「ラヴ (LOVE)」と、「KA」という既に私の知らないパフォーマンスがラスヴェガスで公演中だった。それ以外にも、ニューヨークではつい最近、なんと次の新作「デリリウム (Delirium)」が公演されており、本当に近年のシルクの派手な活動振りには驚かされる。人気あるんだなあ。


その新作「コルテオ」とは、道化師の先導による行進、パレード、特に葬式の行列のことを言うのだそうだ。ステージでは冒頭、臨終の間際と思われる男のベッドの周りを近親者が取り囲む中、お召しのエンジェルが降臨してくる。そしたらこの慌て者のエンジェル、間違えてベッドのそばにいた子供を連れて昇天しようとしたため、周りの者たちが慌てふためくという出だしになっている。初っ端からシルク得意の宙吊り技で、本当に空間芸が好きだ。


その後に繰り広げられるパフォーマンスは、シャンデリア宙吊り、ホイール乗り、シーソー・ジャンプ、人間空中ブランコ、新体操、ジャグリング、綱渡り、ベッド・ジャンプ、口笛オーケストラ、小人の力技、シンクロナイズド鉄棒等で、それに必ず何か芸を見せる道化師/ホスト役は、今回ははしご芸を見せる。因みにこれらの技にはみな名前がつけられているのだが、シルクのサイトを見てみると、シンクロ鉄棒はツアーニク (Tournik) だが、新体操はリズミック・ジムナスティックスとまんまだった。


とにかくシルクの手にかかると、単なる口笛や綱渡り、ジャグリングといった古来からの芸が、まったく新しい芸として生まれ変わるのはさすがだ。綱渡りは特に面白いとは感じなかったが、シルクが演出するジャグリングには毎回唸らされる。「ヴァレカイ」でジャグリングを見た時は、これぞジャグリングの最高峰と思ったものだが、今回の複数人によるジャグリングも堪能させる。コンマ何秒で連続して投げられるわっかの首かけなんて、早過ぎて腕の動きが見えない。


むろんシルクの真骨頂とも言える空間芸はここでも何度もフィーチャーされており、シーソー・ジャンプはお見事。人間がブランコ役もかねて相方の人間を投げ飛ばす空中ブランコ (とまだ言えるのか?) は、本来なら安全のために下に据えつけられているネットをトランポリンに換え、わざとジャンパーを下に落とし、反動で再び上に跳ね上がってくるのをつかまえる。本来ならば長いロープで大きく揺らすところを人間の腕だけで代用しているから負担はかなりのもののはずで、見ているだけで自分の肩が脱臼しそうな気になった。


しかし、私の意見では今回のクライマックスは、番組でも最後にフィーチャーされているシンクロ鉄棒だろう。ハイ・バーは男子体操でも花形種目であり、大車輪や離れ技は、単独で見ても当然面白いのだが、それを鉄棒で四角を作り、並行、交差、さらには隣りで車輪する人間の腕の間にまでもう一人が腕を差し込んで時間差車輪を行ったり、離れ技を繰り出したりする。最後は10人くらいが一斉に大車輪で、タイミングがずれてぶつかったりしたらどこへ飛んでいくかわからない危険っちゃあ危険な芸だが、もちろん見てる分には文句なしに面白い。


今回、「コルテオ」がこれまでのシルクと視覚的に最も異なるのは、いわゆる小人がかなり重要な役をあてがわれていることが挙げられる。むろんそれがいい悪いという話ではないが、小人が出てくると、どうしても家族揃って見ることのできる健全なファンタジーというよりは、気持ち比重が見世物的サイド・ショウ寄りに傾く。実際、気球で浮かんでしまう小人というのは、かなりそういう印象を強調するし、小人のパフォーマンス自体もそうだし、その他のパフォーマンスの合間合間の寸劇に現れる小人もそうだ。デイヴィッド・リンチが見たら喜びそうだなんて思ってしまうのだ。


シルクのパフォーマンスは、これで恒久的施設で公演されているか、最新巡業中のもの以外は、だいたいほとんどTV放送されている。これだけ完成しているパフォーマンスなのに、最初の方の「ドラリオン」のTV中継ではスロウ・モーションを多用して芸の一瞬の興奮を殺してしまうという、シルクとしては信じられないほど杜撰な演出で世界中のシルク・ファンの不評をかこった。しかし、たぶん非難が集中したんだろう、その次の「ヴァレカイ」ではかなり改善し、「ソルストロム」からは安心して見ることができるようになった。「コルテオ」もむろんその点は細心の注意を払い、視聴者が興を削がずに見ることができるよう腐心しているのが見てとれる。シーソーの時に時折り、なぜだか意味もなくかなり端を空けた構図だけは何をしようとしているか意図をつかみかねたが、あれはもしかしたら横長のHDTV画面ではしっくり収まっているのかもしれない。


いずれにしても今回の「コルテオ」中継は、そういったTVの技術面だけでなく、パフォーマンスの質の高さもあって、かなり満足できる番組として仕上がっている。シンクロ鉄棒の時なんて、見ていて本当に手に汗をかいていたくらいだ。あれで最後のクライマックスで全員で大車輪をした時に、もしかして全員が2回転だか月面だかでフィニッシュ?、なんてどきどきもんで見ていたのだが、さすがにそれはなかった。考えたらいくらなんでも危険すぎるか。しかし、無責任な一視聴者の夢想は膨らむのであった。次のシルク中継も期待大だな、これは。






< previous                                    HOME

 

Cirque Du Soleil: Corteo


シルク・ドゥ・ソレイユ: コルテオ   ★★★1/2

 
inserted by FC2 system