放送局: ブラヴォー

プレミア放送日: 4/11/2004 (Sun) 19:00-20:00

製作: プロダクションズ・コンテ11、シルク・ド・ソレイユ・イメージス、レイディオ-カナダ、CBC、ブラヴォーUSA

製作総指揮: マリー・コテ、ヴィンセント・ギャネ、マーティン・ボルダック

製作: ヨランデ・リシオリ

監督: ピエール・ギャノン、マリオ・ルロー、ピエール・セグイン

セット・デザイン: ガイ・ラジョテ

出演: シルク・ドゥ・ソレイユ


内容: シルク・ドゥ・ソレイユのパフォーマンスをストーリー仕立てにしてスタジオ収録した13回TVシリーズ。


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サーカスの概念を一新したカナダ生まれのパフォーマンス集団シルク・ドゥ・ソレイユは、アメリカでも人気が高い。しかし、既にアメリカだけでも、ラスヴェガスの「オー (O)」、フロリダの「ラ・ヌーバ (La Nouba)」が半恒久的に公演を続けており、その上、昨年、「ヴァレカイ (Varekai)」、「ズーマニティ (Zumanity)」と、ニューヨークでも立て続けに新作2本が上演された。


あまり新作を次から次へと発表すると、ありがたみが薄れるなあと思っていたが、そしたら今年ニューヨークでは、「アレグリア (Alegria)」の再公演を行うそうだ。それでも客は入るみたいで、シルクは、今では、ニューヨーカーの毎年の風物詩となっていた、リング・リング・サーカスを凌ぐ人気と知名度を持つようになったと言っていいだろう。


そのシルクの、過去の様々なパフォーマンスから選りすぐった演目を集め、TV用にスタジオで改めて収録したものが、この「ソルストロム」だ。番組は、とある展望台で働く天文学者が、太陽からやってきた異星人が地球に降り立つのを目撃、彼らが地球上で織りなす様々な行動を記録するという体裁になっている。もちろんその異星人とはシルクのメンバーで、「ソルストロム」は、彼ら、および、彼らと共に地球に達した太陽風の影響を受けた地球人が、ありとあらゆるところで奇矯でアクロバティックなパフォーマンスを行うのを記録する。


番組は主としてシルクのレパートリー技の紹介であるわけだが、過去のシルクの公演には含まれていなかった新作のパフォーマンスもあり、これはファンには嬉しい。また、シルク芸だけに限らず、元々はシルクとは関係のない大道芸やその他のパフォーマンスでも、シルク的な印象をもたらす芸ならば、この期を幸いとばかりに呼び寄せてその妙技を披露させている。なかにはヤマカシもフィーチャーされてたりして、さすがにその時はスタジオ内のセットだけでの撮影は無理で、外に出てロケーション撮影をしている。


番組の第一回は「ロマンス (Romance)」と題され、イタリアのとある町が舞台となる。パフォーマンスは、「ラ・ヌーバ」から、綱渡り、椅子を積み上げてのバランス芸、そして集団トランポリン。「オー」から人間たいまつ、「ヴァレカイ」で観客を爆笑に誘ったピエロ役の彼と彼女の寸劇、「ドラリオン (Dralion)」の、頭上から垂らされたリボンにくるまっての空中バレエ等がフィーチャーされる。一輪車のバランス妙技なんてのはいろんなところで見たことがあるが、男女一体になってのお手玉 (ジャグリング) や、水を入れたグラスを各種揃え、その縁をこすって奏でる「エリーゼのために」なんかは、いかにも芸という感じでお見事。


しかし「ロマンス」で私が最も面白いと感じたのは、最後の集団トランポリンで、3階建て (実際には2階建てくらいの高さしかないが) のビルの周りを囲むように設置されたトランポリンに、窓や屋上から次々に人が飛び降り、飛び上がって、めくるめく妙技を披露する。高校の時、体育の授業でトランポリンをやったことがあるが、あれって、結構難しい。ただ、まっすぐ、垂直に高く飛び上がるだけというのが、かなり高度な技術を要する。それを、空中2回転なんて技を挟みながら、他のパフォーマーとの呼吸を揃えて次々に跳んだりはねたりする。さらに飛び上がる時に、ビルの壁に対して横になって、上に向かって歩くような感じで足を進ませるところなんか絶妙で、こういう、重力を忘れさせる空間芸こそがシルクの真骨頂だ。


このパフォーマンスは「ラ・ヌーバ」の演目の一つなのだが、ほとんどすべての公演が既にTV放映/ヴィデオ化されているシルクにおいて、「ラ・ヌーバ」と「オー」だけが、いまだにTV放映されていない。たぶん、この2公演のみが、特殊な施設、器具を必要とし、さらに世界巡業せず、ラスヴェガスとディズニー・ワールドという特殊な遊興地区で、半恒久的舞台で上演されているということと関係あるだろう。つまり、そこに行かなければ見れないわけだ。まあ、とはいっても、今回、たぶん、そのほとんどのパフォーマンスを見ることができるわけだが。


全体を見渡した場合、自分の気に入ったパフォーマンスがあるかないかで、人によってエピソードによって、かなり好き好きが分かれるだろう。私は、第2回の「ダブル」は、ちょっと地味かなと感じた。それでも、二人三脚的お手玉なんてのは、実に見事。「ダブル」はタイトル通り、主として双子、あるいはそれらしきペアをフィーチャーした芸が主体で、各種のパフォーマンスを繋ぐ幕間のコントもそれがテーマとなっている。鏡を覗き込むとまったく別の顔が見返していたという、何度も見たことのあるようなギャグなのだが、そこはシルク、彼らがやると、捻りが利いてて、次どうなるかとやはり見てしまう。それにしても片方の男は、ロベルト・ベニーニそっくり。


実は私は、シルクで多用される、リボンやロープに吊り下がってのパフォーマンスは、あまり好きではない。シルクの芸としてはちょっと興趣に乏しいと感じてしまう。空中に浮かんで、リボンにくるまりながらアクロバティックにくるくる回転したり、バレエみたいにポーズを決めたりと、見かけの上では派手なのだが、何度も見ていると、技としてはこれはそれほど難しくないのがわかってくる。たぶん、シルクのメンバーなら、これくらい誰でもできるのではないか。


こういう風に思っていたのだが、つい最近、リング・リング・サーカスで、同様の芸をしていた団員の一人が、パフォーマンスの途中で失敗して空中から墜落、死亡するという事故があった。私がどう思おうとも、空中に高く吊り上げられる芸が、一歩間違うと命にかかわるほど危険であるというのは、空中ブランコと変わらない。しかも下にネットが張ってある空中ブランコと違って、リボン芸では地上にも降り立つため、ネットを利用するわけには行かず、基本的に安全装置はない。やっぱり演じる側からすれば、命かけているわけだし、第三者に面白くないなんて言われたら腹立つだろうな。ここは黙って拍手していよう。






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Cirque du Soleil: Solstrom

シルク・ドゥ・ソレイユ: ソルストロム   ★★★

 
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