放送局: MTV

プレミア放送日: 3/13/2005 (Sun) 23:30-0:00

製作: MTV

クリエイター: ジョン・リー、ヴァーノン・チャットマン


内容: 「セサミ・ストリート」のパロディ。


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時々、アメリカのTV界ではよくこんな企画が通ったなと思える常識外れの番組が放送されることがあるが、「ワンダー・ショウゼン」もその類いの番組である。「ワンダー・ショウゼン」の何が常識外れかと言うと、この番組、一見した体裁はまるでPBSの「セサミ・ストリート」なのだが、その実体は、子供番組の衣を被った、きついブラック・ジョーク満載のパロディ番組なのだ。しかもかなり危ないギャグがてんこ盛りだ。


「ワンダー・ショウゼン」は最初、ケーブル・チャンネル最大手のUSA用として2000年に企画された。しかし、でき上がったパイロットを見たUSAのトップであるバリー・ディラーの鶴の一声によってお蔵入りになった。その後しばらくしてお鉢が回ってきたのが、今ではティーンご用達のカルチャー・チャンネルと化しているMTVである。とはいえMTVの編成担当も、これはちょっとやばいからできるだけ静かに、あまり注目されない時間帯で放送しようと思ったのだろう、新番組のくせしてあまり宣伝もせず、しかも日曜夜11時半からプレミア放送という、またたいそう人目につきにくい時間帯で始まった。


ところが、それでも口コミでMTVで日曜深夜にかなりやばい番組をやっているという話が広まったらしい。それで、昨年のスーパーボウルでのジャネットのおっぱいポロリ事件以来口やかましくなっている、アメリカの放送業界を監視するFCC (連邦通信委員会) とか、市民団体とかから突き上げを食うのが怖くなったんだろう、MTVは基幹チャンネルのMTVでの放送を諦め、チャンネル規模としてはかなり小さくなる姉妹チャンネルのMTV2に放送チャンネルを移して、そこで今度は金曜深夜に放送するようになった。


実際の話、その時点までは、MTVがほとんど番宣しなかった「ワンダー・ショウゼン」という番組を、私は実はまったく知らなかった。それが私の耳に入ってきたのは、MTVがこの番組がかなり注目を浴び始めたことに青くなって、苦情が殺到する前に放送チャンネルを替えるという、逆に目立つことをして業界の噂になったからだ。当然、業界からは意気地なしMTVと冷笑を浴びせられたのだが、これはもちろん外野だから言えることであって、今の、お互いの腹を探り合っているようなアメリカの放送業界においては、誰だってリスクの少ない方をとるに違いない。


いずれにしても、こういう経緯が逆に注目度を高めたことは間違いなく、それまではどこでも見たことのなかった番組レヴュウとかを、マスコミ媒体とかでぼちぼちと見かけるようになった。そういうわけで私もいそいそと既に第4回目になっていた、MTV2に鞍替えした直後の「ワンダー・ショウゼン」を見てみたわけだが、いや、こいつは確かになかなか危ない。


だいたい、頭の固い人間なら、歴史的教育番組である「セサミ・ストリート」のパロディと聞いただけで烈火の如く怒り出す可能性もなきにしもあらずなものを、それをサカナにほとんど放送コードすれすれのブラックなジョークが炸裂する。番組クリエイターは、お上に挑戦するというよりも、ただただ何も考えずに頭に浮かんだアイディアを形にしてしまったんではないかと思えるようなスキットが満載だ。


私が見た回で中心となっていたスキットが、仲の悪いアルファベット vs 数字というやつで、いかにも「セサミ・ストリート」のパペットを模した姿形をしたアルファベットたちと数字たちがいがみ合い、全面対決にまで発展する。しかし、「ウエスト・サイド・ストーリー」や「ロミオとジュリエット」じゃないが、当然その憎み合う両チームのメンバーから愛し合ってしまう者が現れる。それが数字の8とアルファベットのJで、二人はどうしてもお互いに惹かれあうものを感じてしまうのだった。


これが笑わせてくれるのは、この8が外見はアラブのおっさんとして造型されていることで (顔の真ん中に穴が開いている)、一方のJは、大文字のJの横棒のところにもみ上げが垂れ下がっているという、要するに、オーソドックス派のがちがちのユダヤ人として造型されている。しかも見たところ、二人共男で、国家/宗教どころか性別も超えた禁断の愛に発展してしまうのだ。そしてもちろん大いにそれをおちょくっているわけで、パペットのくせにその後がんがん下半身を突き出してセックスまでしている。もちろんこれはTV番組であり、「チーム・アメリカ: ワールド・ポリス」ほどお下劣さに徹底しているわけではないが、それでもかなりやばいと感じさせるには充分である。今、TVでこれ以上の描写はできないだろう。


結局二人はこの世では認められることのない愛を天国で成就させようと、共に毒を飲む決心をする。しかし、実際に毒を飲んだのはJだけで、Jは、最初からJを騙すつもりだった8の姦計に陥ってしまったのであったというオチになっていた。いや、もう、こちこちのアラブやユダヤ人が見たら即座に番組排斥運動を起こされてもしょうがないと思えるくらいで、もちろん、だからこそMTVもそういう事態を怖れてわざわざあまり人が見ないチャンネルで放送しているのだ。


その他で笑ったのが、6、7歳くらいの可愛い黒人の女の子をウォール街の街頭に立たせ、そばを通り過ぎる、たぶんウォール街の証券マンに突撃インタヴュウをするというものだ。いきなりマイクを突き出され、戸惑う証券マンであるが、そこは相手がまだ物心もつくかつかないかという可愛い女のこということで、多少は驚きながらも立ち止まってインタヴュウを受ける。そうするとその子が、「今日はいったい何人くらい搾取しましたか」と訊く寸法になっていた。


そうするとマイクを向けられたおっさんたちは、いや、まだ、今日は誰も搾取してないよ、とか、私は搾取なんかしない、とかむにゃむにゃ言ってごまかしたりして、ちっちゃな女の子の前から逃げ出したりする。一見して不機嫌になる奴もいるのだが、いくらなんでも相手が幼い女の子であるためむげに怒った顔をすることもできず、せいぜいふてくされたような顔をして足早にその場を去ったりするのだが、こいつもなかなかにやりとさせてくれた。いいぞ、もっとやってやれ。


その他では、歩きながら携帯で電話している者たちに、いきなり、それは態度悪いんじゃないですか (どっちが)、とやはりマイクを突きつけて怒らせるスキットや、可愛いアニメーションのキャラクターがお互いに食い殺し合いをするものとか、要するになんでもありで、常識や予定調和に反しさえするならばなんでもいいと思って作っているように見える。むろん私もこういう毒のある番組は嫌いではないので、どんどん回を重ねていって欲しいと思っているのだが、どうやらこの番組、8話放送しただけで、その後の放送/製作予定はないみたいだ。たぶん、MTVは本気で心配しているんだろう。残念だ。こういう奴らが思い切り日本人をバカにするスキットを作ったらいったいどんなのになったか、結構怖いもの見たさがあったんだが。「バンザイ」を軽く超えたような気がする。






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Wonder Showzen

ワンダー・ショウゼン   ★★1/2

 
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