Team America: World Police   チーム・アメリカ: ワールド・ポリス  (2004年10月)

世界平和を守るという使命に燃え、世界各地でテロリストを相手に戦うチーム・アメリカの面々は、新しいメンバーとして、ブロードウェイに立っていたゲイリーをリクルートする。彼の演技力が是非ともチームに必要だったのだ。最初は勧誘を断るゲイリーだったが、チームの一人リサに一目惚れしてしまい、チーム・アメリカ入りを決心する。アラブのテロリストを壊滅させたチーム・アメリカだったが、しかし北朝鮮のキム・ジョン・イルが、世界征服を狙ってお膝元のアメリカのハリウッドの俳優たちと契約を交わしていた‥‥


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「サウス・パーク」のトレイ・パーカーとマット・ストーンのペアによる、全編パペットを使用して撮影した一大パペット・コメディ絵巻。「サンダーバード」のようなパペットなのだが、パペットを吊り下げているピアノ線をはっきり見せて、これがパペットであることを強調して逆にキッチュな効果を狙っている。この映画、予告編で見ると非常に面白そうに見える。パペットを使用したカンフー・アクションとか、真面目くさったパペット演技なんか、そのズレ具合がおかしく、ちょっと期待してしまう。


ところが劇場に行って一本の映画として見ると、これがかなりやばい。コメディなのだが、毒がきつすぎてちょっと笑えないのだ。まず冒頭、いきなりパリに現れたアラブ系テロリストを倒すため、チーム・アメリカの面々が活躍する、というよりも好き放題暴れ回った挙げ句、街を徹底的に破壊してしまう。エッフェル塔を倒し、よりにもよってルーブルにミサイルを撃ち込んでしまう。もうこれだけで全パリ市民から反感を買うのは避けられまい。ただでさえ険悪になっているフランスとの仲がさらにこじれるのは間違いないだろう。


その後エジプトでは、スフィンクスとピラミッドを破壊してしまう。元々このチーム・アメリカ、ほとんど自己満足的な正義の味方で、アメリカ国内からでも非難されているのだが、自分を客観的に見ることなんぞできはしないのだ。おかげでアメリカ自身、特にアレック・ボールドウィンを筆頭とするハリウッドの俳優連盟からも敵対視されており、当然マイケル・ムーアもアンチ・チーム・アメリカの強烈なアジテーション運動を展開している。


いや、それも別にいいんだが、これだけ特定の個人を攻撃してもいいんだろうかという気にさせられる。ゲイリーはチーム・アメリカ入りしたことで、これまで俳優の鑑として尊敬していたボールドウィンを敵に回すことになる。しかし、ゲイリーがボールドウィンのことを史上最高の俳優として誉めれば誉めるほど、これ、きっつぅーと思わざるを得ない。本物のボールドウィンも苦虫噛み潰していると思うが、ここで多少とも怒った素振りを見せてしまうと、自分で自分は大した俳優じゃないのを知っていることを自ら証明することになってしまうため、ここは黙って無視するしかないだろう。それ以外にも、ショーン・ペンやティム・ロビンス、スーザン・サランドン、マット・デイモン、ヘレン・ハントといった面々が実名で続々登場し、チーム・アメリカと血まみれの戦いを繰り広げる。


血まみれと書いたが、リアリティとは無縁、あるいは独自のリアリティで勝負するはずのパペット作品がここまでエログロなのにも驚かせられる。血飛沫は飛ぶわ酔ってそこら中に吐きまくるわ、この下劣さはさすが「サウス・パーク」のクリエイターの作品といった感じだ。しかし、切り貼りアニメーションの「サウス・パーク」だと、どこまでやろうともああいう絵柄でよたよたモーションだとご愛嬌で済むが、たとえパペットといえども時々生身の人間並みの微妙な表情を見せる「チーム・アメリカ」だと、あんまり笑えないどころか、気分がむかむかしてくる。


同様に強烈なのがパペット同士のセックス・シーンで、いきなりゲイリーとリサが裸になって69をしたりフェラチオしたり、ばんばん突きまくったりするシーンは、おかしくもないしイヤらしくもないし、ただただ悪趣味。FOXのTV番組じゃないんだからさ。やっぱりこういうのは金払ってまで見たかないな。もしかしたら堂々とこういうシーンを提出する度胸は誉めて然るべきなのかもしれないが、少なくともこの作品を見ている間中、場内から笑いの起こったシーンはほとんどなかった。


しかし、このなにかと話題のパペットのHシーンであるが、私が事前に得た情報では、このシーン、あまりにもどぎつすぎるのでMPAA (アメリカの映倫のようなものだ) から待ったがかかり、成人指定を避けるためにパーカーは一部カットを余儀なくされたと聞いていたんだが、これで本当にカットされているの? というエグさである。そしたらその後で、いったんチーム・アメリカを辞めてまた復帰しようとしたゲイリーが、親玉のスポッツウッドから俺のちんちんをくわえたら復帰を認めてやると言われる展開があり、そこでいきなり場面が飛んだ。ここをカットしていたのか。解禁国であり、成人指定を割り切るならばかなりのセックス描写も平気なアメリカであるが、一般客が見れるR指定の作品では、パペットであっても、どうしても男同士のブロウ・ジョブはご法度のようだ。


ま、私も別に見たいとも思わんが、しかし、これはあくまでもパペットであって、生身ではない。普通ならパペットのセックス・シーンで本当にみだらな気持ちになったり性欲が昂進したりはしまいと思うし、上にも書いたように、私は悪趣味という印象しか受けなかった。それが引っかかるというのは、いくらアメリカでも、ゲイや同性愛に対し、まだまだ根強い反感があるからだろう。だから待ったがかかる。


それ以外にもこの作品は、現在のアメリカの一般的通念上、どこまでなら認められ、何が禁忌となっているのかを知る、非常に有効なケース・スタディを提供してくれる。私はパペット同士のセックス・シーンや異性間のフェラチオが認められるなら、男同士のセックスやフェラチオも見せたって大差ないと思うし、それよりも傲慢なアメリカ人が世界遺産を破壊して回っているシーンの方がよけいやばいと思う。たぶんアメリカ人以外の人間は、そちらの方に恐怖を感じるのではないだろうか。しかしアメリカの中にいると、それが見えない。あるいは、知ってはいてもそれをおちょくってやろうと考えるその姿勢が、やはり傲慢であり、そのため世界中から反感を買っていることを、知ってて無視しているのか、それとも本当に気づいていないのか。


もちろん、ボールドウィンやムーアを筆頭とする、自分たちアメリカ人自身も大いにおちょくっており、権力におもねることなく誰であろうと肴にしないではいられないその姿勢に関しては、一部感心することも確かだ。アメリカ以外ではこういった作品は撮れないこともまた確実であり、ここまで能天気に反動に徹せられると、それはそれで得難いやつらだと思わざるを得ない。あんまり近づきにはなりたくないが。いずれにしても、もしキム・ジョン・イル、並びに北朝鮮国民が「チーム・アメリカ」を見たなら、烈火のごとく怒るのは間違いない。もしかしたら本当にアメリカに核を撃ち込んでくるかもしれない。しかし幸いなことに、北朝鮮国民がこの作品を見る機会は万に一つもないだろう。






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