放送局: FOX

プレミア放送日: 7/13/2003 (Sun) 20:30-21:00

製作: レイダー・プロダクション

製作総指揮: ゲイリー・モナガン

製作: アンディ・スコット、リー・ハップフィールド、ネイサン・イーストウッド、ティム・ブレディン


内容: 日本のヴァラエティ・ショウを手本にした? パロディ集。


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「風雲! たけし城」のアメリカでの成功を見るまでもなく、一般参加者に過激なことをさせる日本のヴァラエティ・ショウは、アメリカでも一部では既に知られていた。HBOが毎年末に放送する、世界中で放送されているTV番組から最も驚くべきシーンを集めた特番なんて、日本のヴァラエティ番組からのシーンが挿入されるのが恒例になっているし、思えば、参加者に虫やげじげじみたいなのを食べさせるCBSの「サバイバー」や、NBCの「フィア・ファクター (Fear Factor)」は、そもそものアイディアを日本のTVから盗んできたのかもしれない。


こういう、日本製ヴァラエティ番組のさわりを再構成、あるいは、日本のヴァラエティに似ていると製作者が思い込んでいる番組、「バンザイ (Banzai)」が、イギリスの放送局、チャンネル4で放送されて人気を博しているという話は聞いていた。要はただ、参加者にナンセンスなことをさせ、それを見て楽しもうという趣旨の番組のようであるが、実物を見たことがないので何ともコメントのしようがない。これがBBCが放送している番組なら、アメリカでもBBCアメリカで放送してくれるんだろうが、民放のチャンネル4だからな。ちょっと見るチャンスはないか。


その「バンザイ」を、アメリカにおいてはFOXが再製作を試みたのは、まあ、妥当な線だと言える。FOX以外のABC、CBS、NBCの3大ネットワークでは、こういうポリシーのない番組を製作することには躊躇いを覚えるだろうし、規模の小さいUPNやWBですら、「バンザイ」を放送することを考えるかは、ひたすら疑わしい。どう考えても、この番組がアメリカで、少なくともネットワークで放送されるとするならば、ゲテモノリアリティ・ショウ路線で名を売ったFOX以外あり得ないだろう。まあ、ケーブル・チャンネルを見るなら、最近「風雲! たけし城」の吹き替え版を放送しているスパイクTV (旧TNN) あたりならやりかねんと思うが、いずれにしたって、そうそうは見当たらない。


そして案の定というか、「バンザイ」製作発表に際し、すぐさまアジア系の団体が、偏見に根ざした番組であり、差別を助長するとして、番組製作反対運動を起こした。そんな、こんな冗談番組に真面目に反応したら、それだけよけいにアジア人は偏狭だと思われるだけだから、ほっときゃいいのにと思うのだが、真面目な人たちというのは、真面目に反応してしまうのだよねえ。私の考えでは、そうやって反対運動を起こせば起こすほど、逆に面白がられてギャグの種にされるだけだと思うんだが。


しかし、実際にFOXで「バンザイ」の番宣が始まると、やっぱり、アジア人、というか、日本人が見ると、これ、多少は憂鬱になるよなと思ってしまった。いかにもアメリカ人の目から見た日本人的なやつらが、ただ奇声を発しているだけ (にしか見えない) の番宣コマーシャルで、いくらなんでも、これが典型的な日本人だと思われるのは癪に障る。確かに、アジア系があまりいないアメリカ中西部でこの番組をいきなり見せられたら、間違った先入観を植え付けられてしまう子供たちが跡を絶たなくなりそうだ。


だいたい、番組の冒頭シーンで富士山と新幹線が映るのだが、それに合わせて被さる、あの、アジアの文字のように見えて、実は意味のないただの意匠をどうにかしてくれと思う。知らないやつが見たら日本語だと思うのは間違いないが、あれはただのデザインで、文字でもなんでもない。しかし、いかにも日本語で何か書かれているような演出なので、こちらも、つい、釣られて思わず読もうとしてしまうのだ。結構腹が立つ。本当の日本語が使えないのなら、最初から日本語を使う振りなどするな。


番組は、様々な短いセグメントから成り、その結果を視聴者が予想して、投票するという体裁をとっている。実際にネットから投票ができたようだが、予想が当たったからといって別に何か貰えるというものでもなく、ただ投票者全員にウォール・ペーパーをプレゼント (こんなのプレゼントと言うのか) しただけと聞いた。要するに、ただこれもゲーム番組の体裁を模しただけで、別に本気で視聴者に問題を提出しようとしているわけではない。


その栄えあるプレミアの最初のセグメントは、ニワトリのラリーに風船をつけ、いったいいくつつけたら実際にラリーは空を飛ぶことができるかというもの。A: 30、B: 60、C: 90、D: 120から正しい答えを選ぶ。一応ジョークであり、本当にラリーを飛ばしてしまってはジョークにならないから、ちゃんとラリーにはピアノ線が結び付けられて、飛んでいってしまわないようにしているのがはっきりと見てとれる。とはいえ獣権無視のアイディアで、動物養護団体から抗議の声が上がったというのも頷ける。因みに答えはC: 90だった。


その他のセグメントは、(1) ミスター・シェイクハンズ・マンというのが登場し、セレブリティに握手を求め、どこまで長い間握手を続けていられるか、その時間を予想する (因みのこのギャグの犠牲になったのは、「フレイジャー」ことケルシー・グラマー)、(2) 厚化粧の着物 (らしきもの) を着た3人の女性のうち、一人が赤いパンティを穿いており、その3人が矢継ぎ早にお互いの位置を替え、さて、赤いパンティのキモノ女性はどれでしょうというもの。要するに厚化粧のアジア人は、西洋人には皆同じ顔に見えるのだ。(3) 電動車椅子に乗った老女二人を向かい合わせに対置し、お互いに向かって車椅子を走らせ、最初に怖がって激突を避けた方が負けというチキン・レースの勝者を当てる。(4) レイディ・ワン・クエスチョンという女性が、やはりセレブリティに一つだけ質問、あとは相槌も打たずただセレブリティに喋らせ続け、いったいどのくらいセレブリティがその場から離れないで喋り続けるかを予想する (因みにプレミアで引っかかったのは、「アメリカン・アイドル」のサイモン・コーウェル)、等々である。


老人同士のチキン・レースというのもかなり趣味悪いが、それよりも最も趣味が悪かったのが、何あろう身障者のペナルティ・キック勝負だ。片足しかないキッカーが、片手しかないゴール・キーパー相手にペナルティ・キックの勝負を行い、どちらが勝つかを予想するのだが、うーん、趣味悪いーっ。この手のやつでは、登場する者たちは結構真剣だったりするし、パラリンピックなんてものもあるから、身障者にサッカーをやらせるということ自体に関しては、とりたてて異議を挟むものではない。むしろ応援しようという気にもなる。


しかし、それがギャグ番組の中で放送されると、途端になにやら胡散臭いものとなり、居心地の悪いものになってしまうのだ。実際の話、彼らはかなり練習しているプレイヤーと見えて、片足で走ってきてきっちりシュートを打つし (もちろん軸足がないから、片足で跳んで着地する瞬間にボールを弾き飛ばすという形になる)、片手のキーパーも右へ左へ飛んで、3回のうちの一回は止めた。私よりうまい。それなのに見せ方が変わっただけで、見る方の意識も変わってくる。少なくとも、これを見てギャグとして笑える奴はほとんどいないんじゃないのか。


「バンザイ」は基本的にイギリスで放送されたものをアメリカでも放送しているだけだが、時に、イギリス版に登場するセレブリティ等は、アメリカでは馴染みがない者も多い。それで、シェイクハンズ・マンとレイディ・ワン・クエスチョンのコーナーは、改めてアメリカの視聴者でも誰だかわかるセレブリティを相手に撮り直したそうだ。それでもレイディ・ワン・クエスチョンの餌食となったサイモンはイギリス人で、アメリカでも著名であるし、もしかしたら彼のセグメントはそのまま流用しているかもしれない。また、オリジナルでは、ヌード・シーンが登場するセグメントや、ちと常識に照らし合わせてこれはまずいんじゃないのというセグメントも多々あったようで、それらはカットされているそうだ。身障者サッカーよりもさらに過激なセグメントがあったということか。それならば是非見てみたかったような気もする。


いくら平等を謳うアメリカという国においても、人種差別がないかといえば、それはまだまだ根強く残っているとしか言いようがない。もちろん日本人だって、実は白人から見れば差別される側なのだが、アンチ・ジャパニーズ的番組「バンザイ」は、そのことを改めて認識させた感がある。なんとなれば、FOXの「バンザイ」サイトのBBSでは、ここを先途とばかりにジャパン・バッシングが起こっていたそうだ。しかし、この話を聞いた私がFOXサイトにアクセスしてみたら、既にこの時には番組は8回放送予定のところ、6回放送されただけで視聴率低迷を理由にキャンセルされており、番組サイトそのものがなくなっていた。


私はTVは、スポーツ、ニュース、エンタテインメントが3本柱であると思っており、特にドラマやシットコム、リアリティ・ショウを中心とするエンタテインメントでは、いたずらに視聴者を啓蒙しようとするようなおこがましいことなぞしないで、エンタテインメントに徹して欲しいと思っている。その伝で言えば、「バンザイ」にだって別に文句をつける筋合いなぞないのだが、しかし、これに限って言えば、番組がスケジュールから消えて、ほっと安堵の胸を撫で下ろしたというのが正直なところである。







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バンザイ   ★★

 
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