Train to Busan


新感染 ファイナル・エクスプレス  (2021年6月)

ついにニューヨークの一回目のコロナウイルス・ワクチン接種率が70%に達し、基本的にバスやサブウェイ等の公共輸送機関、並びにまだマスク着用を維持したい一部の個人商店等を除き、ほぼすべての規制は解除された。スポーツ観戦や音楽コンサートも、ワクチン接種の有無にかかわらず、フル観客開催だ。 

 

とはいえそれでも100%安心とは言えず、アメリカでも変異種がはびこり始めている。こちらとしてはむしろ、屋内ではまだマスク着用にしてくれていた方が安心できる。ワクチンは接種済みだが、やはりマスク未着用でフル観客の映画館に足を運ぼうという気にはまだなれないのだった。この感じだと、秋口くらいまではストリーミング視聴という感触が濃厚だ。 

 

さて、「新感染 ファイナル・エクスプレス」は、先週見た「ロングデイズ・ジャーニー (Long Day's Journey Into Night)」同様、Huluで推薦されていたもので、これまた「ロングデイズ・ジャーニー」よろしく、数年前にロングランしていた。ただしこちらの方は、まったく内容を知らなかった「ロング・デイズ・ジャーニー」とは異なり、ゾンビ・ホラーという内容を事前に把握していた。 

 

しかしアメリカにはAMCの「ザ・ウォーキング・デッド (The Walking Dead)」および「フィアー・ザ・ウォーキング・デッド (Fear the Walking Dead)」という2強ゾンビ・ホラーがあるので、近年特にわざわざ他のゾンビものを見る気になれず、パスしていた。韓国や日本、アジアのホラーは、ゾンビ系以外の湿ったホラーの方が向いていると思っていたせいもある。 

 

そのため今回も特には惹かれているわけではなかったのだが、実はこの日は2021年最初の熱波が到来した日で、いきなり暑くなった。そのため今年初めてスイカを買って冷やして食べた。ついでに頭の中に、こういう暑い日は「納涼ホラー」という考えが浮かんで頭を去らず、そういえばHuluで「新感染 ファイナル・エクスプレス」があったと思い出した。内容も、移動する列車内という閉じ込められた空間でゾンビ感染者が蔓延するという、ある意味時宜にぴたりと合ったものと言える。これは今見るしかないだろう。 

 

実はゾンビ・ホラーは、意外なことにホラーが盛んなアジアではあまり作られていない。一時期ジャパニーズ・ホラー、コリアン・ホラー、さらには東南アジア・ホラーが世界中を席巻し、それなりにゾンビが登場するホラーもあったはずなのだが、それでも、特にアジアン・ホラーとゾンビは良好な関係を築いているとは言えない。これはたぶん、遺体を火葬するため死者が復活するという発想がなかったアジアと、遺体を埋葬する欧米の習慣の差によるものだと思える。さすがにゾンビといえども灰からは復活できない。 

 

さらにゾンビは、そもそもの嚆矢であるジョージ・A・ロメロの「ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド (Night of the Living Dead)」を初めとして、階級社会の比喩、台頭する黒人への不安、閉塞する社会の鬱屈を現すものとして生まれたジャンルだ。ゾンビが発生する死体も、社会的基盤もなかったアジアでは、ゾンビは誕生発展しなかった。 

 

ゾンビはそれ自体は感情を持たず、単純に目の前にある者に対して反応、攻撃する。その無感情で無機的な行動、コミュニケイションが成立しないという点こそゾンビ・ホラーの怖さだが、アジアン・ホラーでは、実体を持たない霊や物の怪が怨念と共に復讐するというのが、だいたい根本にある。一方、「ゲゲゲの鬼太郎」的な妖怪ものだったりすると、今度は生活に密着し過ぎたりして、地道に怖くない。アジアでゾンビ・ホラーが確立しなかったのも当然と言える。 

 

一方、走る列車の中での生存競争という視点から見ると、「新感染」から最も連想するのは、同じ韓国人監督のポン・ジュノが撮った、「スノーピアサー (Snowpiercer)」だ。相手が階級の違う人間かゾンビかという違いこそあれ、登場人物が生き残りをかけて列車の中を前進していくという構造は一緒だ。同じ韓国人監督のヨン・サンホが、「スノーピアサー」からなんらかのインスピレイションを受けてないわけがないだろう。 

 

そして韓国ではかなり階級意識が強いのは、つとに知られているところだ。そのため、アジアン・ホラーにはあまりそぐわないゾンビ・ホラーが、「新感染」ではうまくはまった。階級社会にずぶりと浸かっている主人公は、ゾンビに追いかけられる対象となるのだ。プラス、男のまだ幼い子供を持ってきたことでいかにもアジア的なウエットさも加味し、西洋的ゾンビと東洋的ホラーのテイストのバランスをうまくとることに成功した。さらに現在では、パンデミックという意図しなかった状況がプラスに働いた「新感染」は、時流に乗っていまだに新たなファンを獲得し続けている、パンデミック時代の数少ない成功作となった。 


 











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韓国各地でゾンビが大量に出現する謎のパンデミックが発生する。そんな中、仕事一筋のビジネスマン、ソグ (コン・ユ) はまだ幼い娘とうまく行ってなく、娘との関係を良好に保つため、忙しい中を休みをとって釜山にいる別居中の妻の元に娘と共に列車で小旅行する。その列車にゾンビに感染した女が人知れず乗り込んでいたため、やがてゾンビに襲われる人たちで列車内はパニックに陥る。果たしてソグたちは無事釜山に到着できるのか‥‥ 


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