Snowpiercer


スノーピアサー  (2014年7月)

この映画、何やらやたらと評判がいい。エンタテインメント・ウィークリー誌に載っている各媒体評価でもほぼストレートAに近い評価で、最近公開された作品では図抜けて評価が高い。一方で 原作がジャック・ロブらの共著によるフランス産のグラフィック・ノヴェルで製作がヨーロッパ中心、演出がコリアンのポン・ジュノということもあるのだろう、ほとんど予告編を見たことがない。印象としてはいきなり現れたという感じだ。


「スノーピアサー」は、氷に閉ざされた世界というシチュエイションを描くSFらしい。調べてみると日本では昨冬既に公開済みなのにアメリカでは公開が夏になったのは、意図的なものだろう。冷房が効き過ぎて凍えながら真夏に「フローズン・リバー (Frozen River)」を見せられたのと同じマーケティング効果を狙ったものと思われる。頼むから冷房を効かせ過ぎるのだけはやめてくれ。


さらに見てみると、出演の一人であるこのオールド・ミスみたいなババアは、これはティルダ・スウィントンではないか。先頃ジム・ジャームッシュのヴァンパイア・ムーヴィ「オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ (Only Lovers Left Alive)」で不死のヴァンパイアを演じていたかと思えば、ウェス・アンダーソンの「ザ・グランド・ブダペスト・ホテル (The Grand Budapest Hotel)」では今にも死にそうな富豪のババアと、ますます妖怪じみていくスウィントンがさらに異怪さを発揮して弾けている。これはもう見るっきゃあるまい。


SFは奇抜な設定をまず受け入れないと先に進めなかったりする。死人が生き返るゾンビものなどはその典型だが、「スノーピアサー」も例外ではない。温暖化に対する科学物質を世界中に撒き散らした挙げ句、反動で氷河期に入ってしまったという近未来、生き残った少数の者は、富豪ウィルフォードが開発した、永久機関によって休みなく動き続け、1年で地球を一周する列車スノーピアサーの中にいるのみだった。


スノーピアサーの中では完全な階級社会が維持されており、ウィルフォードがいる最前部車両を頂点に、最後部はほとんどアンタッチャブルな賎民が、支給されるプロテイン・バーのみを食糧として生き延びていた。過去、劣悪な環境から脱しようとした賎民たちによって反乱が企てられたことがあったが、鎮圧されていた。そして今、カーティスをリーダーとする最後部の者が、子供たちが前部の者たちに拉致されたことによって再び叛旗を翻す。革命か、さもなくば死か。


普通じゃない設定といえば、これだけ奇を衒っている設定も珍しい。そりゃ例えば、近い未来に知能を持ったサルが武器を持って人間と戦うという設定のSFのシークエルが公開されてたりもするが、それでも、ヒトがサルから進化してきた以上、納得できないほど奇想天外というわけではない。しかし、ほぼ死滅した人類の残された者たちが、すべて連結された、止まらない列車の中だけに生きているという設定は、考えるとおかしい。


スノーピアサーはかなりの部分を鉄橋のようなところを走っている。この保守点検は、いったい誰がやっているのだろうか。一年で地球を一周するというスケジュールである以上、一度走った場所は来年までそのままだ。氷に閉ざされた世界だと、レールは凍りつくだろう。氷を溶かさなければ列車は脱線する。しかし外にいる人間はいない。氷の自動溶解装置があるようにも見えない。


止まらない列車は閉じられた階級社会の比喩なんだ、それが誰にも停められずに走り続けている、だからこそ誰かが立ち上がらなければならないんだという意図は重々わかってはいるけれども、それでも、でも、なんで列車なの? 船やそれこそ宇宙船にしたらもっと明確に意図は伝わり、もっとスムーズに感情移入できるのにと感じるのは、既にSF的なものから離れつつある、現世的なものの見方から飛べないおっさんの意見なのだった。


一方、そういう無理めの展開を飲み込んだ上で話に入り込むと、それはそれで結構面白いのは事実だ。最後部の車両から前へ前へと進む蜂起した者たち、それに当然止まらずに前進するスノーピアサーの運動が重なって、かなり手に汗握らせる。


船でも宇宙船でもなく、列車が舞台である意味がここにある。この前進するスピード感、躍動感、カタルシスは、時速何百キロで進む列車じゃないと出せないだろう。船はもっての他だし、宇宙船も現実には猛スピードで動いていたとしても、この運動感は出せまい。


演出のポンは、よりよい視覚効果を上げるために、現実をストーリーに追随させる。「母なる証明 (Mother)」でもそうだった。女子高生がコメ袋以上の重さがありそうなコンクリートの塊を持ち上げて投げるというどうしても無理めの展開を、真面目な話に平気で織り込んでいた。今回原作を気に入ったのも、そういうポンの資質と原作がマッチしたからだろう。ポンがすぐさま映画化を決意したというのは、非常によく理解できる。


今回気づいたのだが、ポンは日本ではポン、Pongと表記されているが、アメリカではBongと書かれる。ボンだ。これはいったいどっちが正しいのかと思ってWikiをチェックしてみると、


ハングル: 봉준호

漢字: 奉俊昊

発音: ポン・ジュノ

英語表記: Bong Joon-ho


となっていた。ハングルは読めないし漢字は知らない文字だし、なぜそうなるのか、やはりよくわからない。


ところでこの映画、いつもとは違うちょっと離れた場所のモールの中にあるマルチプレックスで見たのだが、たぶんぎんぎんに寒いに違いないと、ロング・パンツにジャケットまで用意して出かけたのだが、案に反して適度に涼しい快適温度だった。たぶん十何館かが入っているマルチプレックスであり、一館毎の温度調整ができなかったからではないかと想像するのだが、実はちょっと恐れながらも期待していたのに。










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ほとんどの人間が死に絶え、氷に閉ざされた近未来。生き延びた少数の人々は、スノーピアサーと呼ばれる、永久機関を備え、止まることなく動き続ける列車の中に暮らしていた。その中では最前部に居住する、スノーピアサーの創造主であるウィルフォード (エド・ハリス) を頂点とするヒエラルキーが確立し、その序列を乱すことは許されなかった。序列の最下位に位置し、列車の最後部に住む賎民たちは、武器を持つ支配する側から常に虐げられる存在だった。ある時、彼らは仲間の子供たちが拉致されたことにより、ついに蜂起を決意する。リーダー格のカーティス (クリス・エヴァンズ) を立て、メイソン (ティルダ・スウィントン) を人質にとり、彼らの誰もが経験したことのない前部車両に足を踏み入れるが‥‥


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