日本でも「タイディング・アップ・ウィズ・マリエ・コンドー」、つまり「人生がときめく片づけの魔法」をNetflixが提供しているのは知っている。ので、最初はこの番組、わざわざ私が書くこともないかと思っていた。今、書かなくても、年末の「今年の10大ニューズ」辺りで書く機会があるだろう。
しかし、最近のアメリカにおけるコンマリ人気は常軌を逸しているというか、ほとんど神格化されている気がするくらい注目されている。ちょっとこれはただ事ではないと、その辺のことを書いておくのは意味のないことではないかと思い直した。
近藤麻理恵 -- コンマリ -- マリエ・コンドー -- は、これまでだってアメリカでも無名というわけではなかった。既に一昨年、ABCの深夜報道番組「ナイトライン (Nightline)」でコンマリがフィーチャーされていたし、朝のトーク・ショウ「レイチェル・レイ (Rachael Ray)」でもコンマリが登場して、他の出演者と片付け勝負をしているのを見たことがある。
とはいえ2019年初頭のコンマリ旋風は、明らかに社会現象化していた。オノ・ヨーコやMLBのイチローを超えて、今やアメリカで最も知られている日本人はコンマリなのではないかと思わせるほどだった。女性に限れば、たぶん、ではなく、間違いなく、今現在コンマリがアメリカで最も知名度のある日本人だと断言できる。
とにかく年初のコンマリのアメリカのメディアにおける露出度は、異常なくらいだった。もちろんNetflixでの「人生がときめく片づけの魔法」提供に合わせたプロモーションの意味が大きいだろうが、それだってメディアが興味を持たなければ、わざわざコンマリをステュディオに呼んだりしないだろう。元々注目されていたからこそ、さらに相乗効果で話題になった。
コンマリが特にアメリカで注目される理由としては、アメリカではホーダーという言葉が定着するほどモノを溜め込んでいる人が多いからということが、まず第一に挙げられる。日本と較べて明らかに広い家が、他人の目から見たらゴミにしか見えないものによって埋め尽くされる。まずこれをどうにかしないといけない。その時、このようなゴミ・モノの片付けの仕方を教えてくれるコンマリ・メソッドは、まさに渡りに船だった。 そして片付けに当たってそれが心をときめかすかどうかを指標とするコンマリ・メソッドの肝が、片付けられないアメリカ人に大きくアピールした。
コンマリ・メソッドにおいては、それが自分の心をときめかすかどうかを軸に、片付けを進める。この「ときめき」が、英語においては「spark joy」と訳される。最初この訳を聞いた時は、私ならなんて訳すかなと考えていたので、思わず、うまいと思った。喜びがスパークするのがときめきだ。そのときめきによって片付けを進めるというメソッドは前向き思考であり、アメリカ人の嗜好に合致した。
そして「人生がときめく片づけの魔法」は、一気にブレイクした。コンマリは朝晩のトーク・ショウに呼ばれまくった。HBOの時事報道番組の「ヴァイス (Vice)」でも特集されていた。コンマリが日本に見切りをつけ? アメリカに進出したのは英断だったと言える。英語ができなくとも、アメリカで成功できると判断したビジネスの才覚は、かなりのものだ。
そしてこれだけ話題になると、当然パロディの対象にもされる。それらのパロディで個人的に最も印象に残ったのが、CBSの深夜トーク「ザ・レイト・レイト・ショウ・ウィズ・ジェイムズ・コーデン (The Late Late Show with James Corden)」だ。
「タイディング・アップ・ウィズ・ジェイムズ・コーデン」と題された番組中のギャグ・スキットで、片付けられないカップルが登場し、捨てきれないモノにときめくかどうかを確認する。カップルが迷った末、これはときめかないと判断すると、なぜだかそばにいるジャン・クロード・ヴァン・ダムが、雄叫びを上げながらそのモノを叩き壊す。とにかくヴァン・ダムというのがまずおかしい。今では彼自身、スターダムからずり落ち、たぶんときめかないスターと目されるであろう過去のセレブの代表みたいな人物が、カップルが脅え、コーデンも慌てている中を、ぜんまいが壊れた機械みたいにときめかないモノを破壊して回る。最後には頭にきたカップルが、何がときめかないかといって、ジェイムズ・コーデンが一番ときめかないと宣言、これを聞いたヴァン・ダムがコーデンに向かって行くというオチになっており、これには腹がよじれるほど笑った。
こういう風にギャグになると、それはもう市民権を得ていると言える。パロディは、ほとんどの人々が知っていることが前提だからだ。コンマリ旋風はまだまだ続きそうだ。