Vice   ヴァイス 

放送局: HBO 

プレミア放送日: 4/5/2013 (Fri) 23:00-23:30 

福島第一原発エピソード放送日: 5/23/2014 (Fri) 23:00-23:30 

製作: ヴァイス・メディア 

製作総指揮: シェイン・スミス、ジョナ・キャプラン、ダニ・ドラシン、ブラッドリー・レヴィン、ビル・マー 

ホスト: シェイン・スミス、ライアン・ダフィ、ヴィクラム・ガンディー 

  

内容: アンダーグラウンド・ドキュメンタリー・マガジンの「ヴァイス」が、福島第一原発跡地を訪れる。


_______________________________________________________________

Vice


ヴァイス  ★★★

ドキュメンタリーというのは、事実を紡ぐというその性質上、シリーズ化しにくい。毎度毎度定期的になにかしら興味を惹く対象や事件があるとは限らないし、逆にテーマを絞って対象を追おうとすると、マンネリ化する可能性が高い。 

  

テーマを絞らないで、異なるフィルムメイカーによる異なる作品を寄せ集めてTVシリーズ化したものの代表としては、PBSの「P.O.V. (Point of View)」と、「インディペンデント・レンズ (Independent Lens)」の2番組が双璧だ。「インディペンデント・レンズ」は放送15年、「P.O.V.」に至っては放送30年になんなんとする、アメリカを代表するドキュメンタリー・シリーズだ。それに自然動物界を扱った「ネイチャー (Nature)」、科学テーマの「ノヴァ (Nova)」、社会テーマの「フロントライン (Frontline)」等、さすが公共放送という番組が揃う。 

  

ネットワークでは、ドキュメンタリーとジャンル分けされるわけではないが、時事報道系のABCの「トウェンティ/トウェンティ (20/20)」、NBCの「デイトライン (Dateline)」、CBSの「シックスティ・ミニッツ (60 Minutes)」等が、その辺を賄っていると言える。そしてペイTVのHBOは、毎年夏を中心に、よくドキュメンタリーを編成している。それらの番組は、一本限りの、いわば「P.O.V.」的な編成だが、昨年から編成されているドキュメンタリー・シリーズの「ヴァイス (Vice)」が、現在注目されている。 

  

「ヴァイス」は、元々は、世界中の今を紹介するポリティクス寄りのアンダーグラウンドのカルチャー雑誌で、1994年にカナダのケベックで創刊され、その後ニューヨークに拠点を移した。扱っているテーマがテーマだからメインストリームとなるほど知名度があるわけではないが、それでもこの種の媒体としては広く知られている方だ。 

  

それらのテーマは、一枚の写真よりもヴィデオの方が相性がいい。そのため2010年にTV番組「ザ・ヴァイス・ガイド・トゥ・エヴリシング (The Vice Guide to Everything)」が製作され、MTVで放送された。その時の内容も、今回のHBOシリーズ同様かなり来ていてなかなか度肝を抜かされたが、あまりにテーマがとんがり過ぎていたためか、特に話題を集めるには至らず、1シーズンの放送でキャンセルされた。内容が人々や時代の半歩先ではなく一歩先を行っているため、人々がついてこれなかったという印象の方が大きかった。 

 

そして今回のHBO版「ヴァイス」だ。知っての通りペイTVのHBOには、放送基準コードがない。そのためネットワークやベイシックのケーブル・チャンネルではご法度の、ヌードも放送禁止用語も残酷描写も気にする必要がない。元々雑誌としてのヴァイスも、そういうコードに頑強に抵抗してきた口だ。 

 

つまり、ヴァイスをHBOでシリーズ化するというのは、かなり的を得ていると言える。MTVで 放送された時は、内容の先進さのわりにはそれを補強するイメージを放送コードのために提供できなかったものが、今回は、これでもかとばかりに映像と音で提 供する。だいたい、セックス、ドラッグ、ロックンロールが裏テーマであるような番組で、ヌードやヴァイオレンスの映像がないという方がおかしかったのだ。 

 

そのことを端的に示したのが第1シーズン第1回のタリバンの自爆キッズをとらえたエピソードで、幼いころから洗脳されてきたタリバンの子供たちは、自ら爆弾を抱えて目的地で自爆する。その爆発の直後をとらえた映像では、吹っ飛んだ人間の生首が映る。こんなの、YouTubeやそういうサイトでは探せばあるかもしれないが、たとえ倫理コードがないとはいえ、TVで見たのは初めてだ。例えばケン・バーンズの「ザ・ウォー (The War)」でも、これでもかというくらい死体の山を見せられはしたが、大量の戦死体の山よりも、一個だけそこに目を開けたまま転がっている生首の方がインパクトが大きい。それはまだ生きている人間を連想させるからだ。 

 

その他、北朝鮮やアフリカ、中南米、東南アジア、中国等、世界各地に赴き、人里離れた奥地で栽培されているけしやドラッグ製造工場、武器密輸や人身売買の現在等、よくこんなの撮れたよなと思う映像を満載して番組を作る。だいたい30分の1エピソードに2本か3本のセグメントが入る。 

 

その「ヴァイス」が今回調査するのが、被災後3年目を迎える福島の現在だ。東日本大震災の復興が遅れている最大の原因が、福島第一原発事故の後処理にあるのは論を俟たない。津波だけなら水が引けばとにかくなにかしら手をつけられる。やることはある。しかし放射能が残ってたらダメだ。住むことすらかなわない。 

 

ヴァイスのガンディーは、防護服を着て、一時的に帰宅を許された者たちのクルマに同乗して原発のそばを通る。家は荒れ放題で、たぶん何度かは家に戻って必要な ものをとってきたり整理しようとしてはいると思うが、当然数回帰宅したくらいで整理が追いつくわけがない。廃屋も同然だ。 

 

琉球大学で蝶の生態を研究している教授は、福島産の汚染された食物を蝶に与えてその結果を研究している。すると汚染された餌を食った蝶は、やがて、元の形がわからないくらい変質して死ぬ。その死骸を見ると、それが蝶だとは一見しただけでは到底わからない。他の普通に死んだ蝶は、死んだ後も美しい形を留めているのに。 

 

福島県内の保育所でガイガー・カウンターを持ってその辺を計測して回ると、ある場所では許容範囲ではあるが、そこから3m離れた場所ではその2倍の数値が出る。さらに離れた場所では、いきなりカウンターの数値が20倍近くに跳ね上がった。明らかにやばいレヴェルだ。いくら除染したからといっても完璧な除染は不可能だし、処理済みの土壌は溜まる一方だ。汚染水も溜まる一方だ。その汚染水も漏れている。ガンディーが東京の東電本社でインタヴュウを行うと、質問が汚染水問題になった途端、横からセキュリティがしゃしゃり出て、もう時間だとインタヴュウを切り上げる。 

 

福島安全をアピールする政府職員に現地を案内された時は、その男だけ防護服を着てないのがむしろ異様で、しかも原発内を見せるはずだったと思うのだが、連絡の不備でもあったのか、ガンディーは男共々原発の敷地への入り口で防護服を着た東電職員に追い返される。男もわからないと不自然に笑う。たぶんその前に東電本社でガンディーが行ったインタヴュウのためにブラックリストに載ってしまい、彼は通すなという通達が来たに違いない。 

 

このセグメントを見ての印象を言うと、福島がチェルノブイリと同じ道を歩むのはほとんど避けられないんじゃないだろうかというものだ。いまだに福島第一原発の処理が済む道筋はついているとは言えないし、今後あと何年かかるか、東電の発表にはほとんど信頼が置けない。要するに誰も何も保証できないし、結局50年後にどうなっているかなんて、関係者にもわからない。せめて東電は情報公開だけはちゃんとやって欲しい。それとも、そうすると福島には今後人が住めなくなることを認めてしまうことにしかならないのだろうか。 










< previous                                    HOME

 
 
inserted by FC2 system