The Whistlers


ザ・ホイッスラーズ  (2020年12月)

この作品、年末だし、アクションかスリラー系の作品でも、と思って探していて見つけたのだが、ルーマニア産アクション映画という、東欧の作品であることがまず興味を惹いた。 

 

ルーマニア映画というと、知っているのはクリスティアン・ムンジウくらいかなと思いながら調べたところ、主演のヴラド・イヴァノフは、そのムンジウの「4ヶ月、3週と2日 (4 Months, 3 Weeks and 2 Days)」や「エリザのために (Graduation)」等、ほとんどの作品に出ている。 

 

特に「4ヶ月、3週と2日」における、あの忘れようもない悪徳中絶医に扮していたのがイヴァノフだ。さらにイヴァノフはハンガリー映画の「サンセット (Sunset)」にも出ている。東欧映画の顔みたいな存在みたいだ。かと思えばボン・ジュノの「スノウピアサー (Snowpiercer)」にも出ている。当然列車の後ろの方の下層階級だ。そのおっさんが主演のアクション・スリラーか。 

 

映画のタイトルである「ホイッスラー」とは、指笛を吹く者のことだ。この指笛が話の重要なプロットになる。アフリカ沿岸のカナリー諸島では、山の中の遠くにいる者とコミュニケイションをとるために、大声で叫ぶよりよほど効率のいい、シルボと呼ばれる指笛言語で会話するという手法が長年の間に確立した。知らない者が聞くと、単に普通とは違う鳥の鳴き声くらいにしか聞こえない。しかしそれを知っている者にとっては、衆人環視の中で堂々と秘密の会話ができることに他ならない。 

 

主人公のクリスティはギャングと裏で通じている刑事で、ギャング仲間との連絡を確実にとることができるように、カナリー諸島に送られ、指笛をマスターさせられる。ブカレストに戻ってきたクリスティは、街中で堂々と指笛を使ってギャングに現状を報告する。 

 

都会の真ん中を、部外秘の情報が音としてまったく堂々と行き交っているのに、誰もそれに気づかないという描写は、非常に興奮させる。何百人、何千人もの人間が耳にしているはずなのに、誰もその内容を理解できない。というか、たぶんそれは毎日耳にするその他多くの雑音の一つに過ぎない。それにしても街中をほとんど人が歩いているようにも見えないのは、意図的な演出か。 

 

彼らの指笛は、片手の人差し指を鉤形に曲げ、唇の片側に差し込むような形で吹く。ちょっと真似てみたが元々私は指笛が吹けないので、風切り音がするだけでまったく音にならない。あれはあれで練習も必要だが、持って生まれた才能というのも多少はある。というのも、私は指笛はできないが口笛は吹ける。それも唇をすぼめるのではなく、いーっという唇の形でかなり大きな高音が出せる。それも、ガキの頃ある時、唇を色々な形にして口笛が吹けないかと試していて、いきなりできた。 

 

だからクリスティも、それは練習をしてだんだん上手くなっていったようだが、それでもある段階から上というのは、ある日いきなり気がついたらできるようになっている。そしてそれができたら、もうずっぽりとギャングの世界にはまっていて抜け出せない。 

 

ところでこれを書いているのは既に年も明けて2021年を迎えているのだが、アメリカでは未だに大統領選に負けたことを認めようとしないドナルド・トランプが、民衆を煽って首都に人を集結させて抗議活動を扇動している。一部はほとんど暴徒化してもう少しで国会を占拠しかねない不穏な匂いがぷんぷんしていた。 

 

中南米や数十年前の東欧ならともかく、こういう事態を率先して招くトランプって、本当に人間のクズだが、そのクズを信望する者たちのものの考え方も理解しかねる。トランプに較べれば、元々後ろ暗い金をギャングからくすねるクリスティなんて可愛いものだ、むしろ賞賛してもいいくらいだと思えてしまう。 












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ルーマニア、ブカレスト。刑事のクリスティ (ヴラド・イヴァノフ) は裏でマフィアの情報屋として活動していた。警察に捕らえられているゾルトのみが組織の金が隠されているところを知っており、彼を逃がすために、クリスティは連絡係のジルダ (カトリネル・マーロン) と接触し、カナリー諸島でギャングの上層部に会い、指笛で会話する術を徹底的に教えられる。しかし警察も無能ではなく、上司のマグダ (ロディカ・ラザー) はクリスティに疑惑の目を向け始めていた‥‥ 


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