The Painted Bird


異端の鳥  (2020年10月)

ドナルド・トランプがコロナウイルスに感染したのは、マスクなしで不行状を繰り返す普段の行いを見ていれば、ほとんど当然と思えた。ざまあみろとまでは言わないが、因果応報とは思った。それがほとんど痛い思いをしないで退院してくるのは、それこそ憎まれっ子世にはばかるを地で行っているようで、むしろ奇跡的に生還した強い男をアピールして、コロナ感染が大統領再選の宣伝効果として有効にすらなっている感がある。この男、どこまで悪運が強いんだか。  

 

少なくとも一つ好転したと思えるのがアメリカにおけるマスク着用状況で、トランプ陽性発覚直前までは、人々の危機意識も薄れて、外を歩くとマスクを着用しているのはだいたい3分の1くらいまで減っていた感があった。それがトランプ感染が公になると、だいたい3分の2くらいの人々がマスクをするようになった。どうせなら重篤化してくれるともっと効果あったのにと思わないこともない。大統領選投票日までまだなにか起こるのだろうか。 

 

さて、「異端の鳥」も昨年末から映画祭サーキットを回っていて評判になっており、興味あったんだが、当然のように今年公開の目処が立たず、夏にストリーミング配給となった。先頃huluに降りてきたので早速見てみた。 

 

まず、何よりも先に「異端の鳥」は、モノクローム作品だ。近年、「ザ・ライトハウス (The Lighthouse)」「COLD WAR あの歌、2つの心 (Cold War)」「ローマ (Roma)」等、 モノクロで撮る作品が一定量ある。「ローマ」なんて、いくらNetflix作品で劇場公開と同時に家でストリーミングでも見れるとはいえ、TVでモノクロの表情が見えなくては元も子もないと思って慌てて劇場まで見に行ったのに、今回はその選択肢が最初からなく、TVで見るしかない。作り手も残念だろう。 

 

「異端の鳥」は、イェジー・コシンスキ著の「ザ・ペインテッド・バード」の映像化だ。1965年発表の原作は、当時からそのヴァイオレンスやエログロ、性描写等で問題となったらしい。とはいえ私はなるべく事前情報は少なく見るようにしているので、第二次大戦時の東欧が舞台で描写が強烈、モノクロ作品、と話題になっていることくらいしか知らずに見た。原作があることは知っていたが、半世紀も前の作品ということは、映画を見た後で知った。 

 

冒頭、イタチ? を抱えて走る少年が村の者に捕まり、イタチはガソリンをかけられて焼き殺される。なんの説明もないが、想像するに、戦争下で食料も制限されている状況で、保存している食料を食い荒らしかねない害獣をペットとして飼っていたためか、あるいは単にいじめの対象としてか、その動物は焼き殺される。 

 

家に帰るとおばさんが、全部お前の責任だからと告げるので、やっぱり飼ってはいけない動物を飼っていたんじゃないかと思うが、結局その説明はなく、想像で納得するしかない。いずれにしても冒頭から理不尽なヴァイオレンス全開だ。そのおばが死に、家が焼け、取り残された少年は一人で世の中を渡り歩いていかなければならない。その後に少年が経験するのは、ちょっと想像を絶するほどの死と狂気との隣り合わせの世界だ。 

 

この作品がモノクロで撮られているのは、そういうヴァイオレンスやエログロ的描写を中和するためだったと思われる。これらがカラーだとほとんど正視に耐えないと思われるが、モノクロであることで、むしろ美しいとすら思われるイメージになっている。 

 

また、場所は東欧ということになっているが、演出のヴァーツラフ・マルホウルは、場所の特定を避けている。人がここまで残酷になれるかという描写が頻出するので、場所を特定するのは憚られるためだ。この作品、まったくどこの国の言葉かわからずにただ翻訳された字幕を追っていたのだが、言語から場所が特定されないよう、登場人物はインタースラヴィックという東欧圏の言語から構築された、エスペラント語みたいな人工語を喋っているということだ。 

 

もちろんインタースラヴィックが母国語という人間はいないが、ウィキペディアによると、およそ世界で7,000人がこの言語を使用しているという。どこで、誰が使用しているのだろうか。いずれにしてもロシア語やポーランド語等のスラヴ系の言語をしゃべる人々から見たら、登場人物が自国語ではないインタースラヴィックをしゃべっているという効果は多少はあるだろう。ほっとするんじゃないかと思われる。 

 

映画タイトルの「ペインテッド・バード」--「異端の鳥」というのは、作品中で鳥を売り買いしている登場人物が、鳥の羽根にペイントして飛び立たせてみせるところから来ている。群れに戻ろうとする鳥を、他の鳥は敵と見做して容赦なく襲い殺す。仲間とは認められない異質のものは敵だ。確かに一斉に寸分の乱れもなく渡る鳥の場合、一羽だけ他の鳥と違うというのは、群れそのものにとって好もしいものではないだろう。調和を乱すものは群れ全体の命取りとなりかねない。 


鳥を飼っていた男は、恋人のように思っていた女がリンチで殺され、自分も虐げられ、世をはかなんで自殺する。首を吊ったその男に少年はとりすがるのだが、果たして男を助けようと思ったのかそれとも早く楽にしてあげようと思ったのか、たぶん後者だと思うが、これまた確たる説明はなく、確信はない。若竹七海の短編「手紙嫌い」は、似たような状況をミステリに利用していたなと思い出した。

 

今、アメリカで黒人やヒスパニックは異端の鳥と見られているのか。場所によっては白人より人口比率が多い場合でも、警官が白人でやはり殺されたりしている。そしてTVを見ていると、嘘しかついていないトランプを、今でも多くの者が支持している。人は自分が見たいものしか見ない、信じたいものだけを信じるということを痛感させられる。そういう社会では、異端と見做されたらどういう目に遭わされるかわかったもんじゃない。案外大戦時東欧と現代アメリカとでは、それほど違いはないのかもしれないと、暗澹たる気分にさせられる。明日は大統領選投票日だ。今、人々は人類の未来の分岐点に立っているのかもしれない。 











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第二次大戦時東ヨーロッパ。まだ幼いユダヤ人少年 (ペトル・コトラール) が、田舎のおばの家にあずけられる。貧乏でがさつな田舎のブロンドの白人の中では、黒髪の少年はいじめの対象でしかなかった。ある日おばが頓死し、少年は世界の荒波の中に一人取り残される。少年は呪術使いの老婆に庇護されるが、流行り病にかかってしまう。なんとか治癒して少年が次にたどり着いた家では、主と妻、若い男がいたが、妻に色目を使ったとして男は主に目をくり抜かれる。鳥を育てて売って生計を立てている男はジプシーの女とできていたが、女は村の女たちに売女として蔑まれ殺されてしまい、世をはかなんだ男も自殺する‥‥ 


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