Cold War


COLD WAR あの歌、2つの心  (2019年2月)

5年前 (もう5年になるのか) 「イーダ (Ida)」で印象を残したパヴェウ・パヴリコフスキの新作「コールド・ウォー」は、「イーダ」同様モノクロ・スタンダード作品だ。よほどこの時代このスタイルに思い入れがあるようだ。 

 

実は「イーダ」と異なり「コールド・ウォー」は恋愛がテーマであるようで、一瞬どうかなと思う。もう恋愛ものにはほとんど惹かれない歳になっており、あまり興味が持てない。それでも「イーダ」は面白かったし、「コールド・ウォー」の主人公は音楽関係で、「イーダ」同様音楽が重要なパートを担っているようでもあり、いいかなと劇場に足を運ぶ。 

  

ポーランドは第二次大戦後、共産圏となり、西側と自由に行き来できなくなった。そういう環境下で時代に翻弄される一組の音楽に携わる男女を描くのが、「コールド・ウォー」だ。上述のように「イーダ」同様モノクロ・スタンダード作品で、ワイド画面に慣れた現代では、ほとんどイメージが縦長で安定感を欠く印象すらある。その点、アルフォンソ・クアロンの「ローマ (Roma)」より徹底して懐古趣味と言え、描かれる時代の近いフェレンツ・トロックの「1945 (1945)」ですら、モノクロ・イメージでも少なくともスクリーンは横長だった。 

 

ただし「イーダ」と一点大きく異なっているのは、「コールド・ウォー」では実は結構カメラが動く。それなのに、ほとんどカメラが動かない「イーダ」の方が、逆に運動という点では効果的だったと感じる。フィックスのままのカメラで、登場人物がフレーム・アウトしてまたフレーム・インしてくる動きや、ほぼ唯一カメラが動き出した時の興奮等、「イーダ」の方がより映画的だったという印象は否めない。動かないカメラの方がより運動を感じさせる。  

 

等々、内容よりスタイルの方に目が行ってしまうのは、いかんせん恋愛というテーマに私がもう興味を持てないからだ。たとえば、ヴィクターに誘われて西側に亡命しようとするズーラが、直前に翻意して約束の場所に現れない。フランス語を解せず歌えないズーラには、パリでやっていく自信がなかったからだが、そんなの、本当に好きなら一緒に行けよ、恋愛ものなら行ってからどうするか考えるのが当然の展開と思う。 

 

一方、その考えが誤りであるのも自明で、当然そうあるべきところがそうでないことによって障害を増やし、それによって逆に感情を燃え立たせるのが恋愛ものの定石と言えないこともない。おかげで会いたくとも会えない二人は、ヨーロッパを股にかけた恋愛大河ドラマを提供することになる。やっとズーラがパリに来たと思ったらヴィクターは愛人と一緒に暮らしているし、その当てつけにかズーラはレコード・プロデューサーと寝たりする。生活が大事なのはわかるしキャリアも大切だが、もう少し素直になれんのかねこの二人と思ってしまうのはいかんともし難く、それが恋愛ものでは誤った反応ということもわかるのだが、あー、しかし、じれったい。 

 

ヴィクターはズーラ会いたさにいったんは捨てたポーランドにすべてをなげうって戻ろうとするし、そして捕まったヴィクターをズーラもすべてを捨てて助けようとする。だから最初から、お互いに好きだと言って一緒になってればよかったんだよ、なんでここまで自分たちで話をややこしくする。しかし、人はそれをロマンティックと呼び、これを乗り越えてこその愛する喜びなんだろうなと思うのであった。一つだけ言えるのは、私にはこういう破滅型恋愛はできないということで、やっぱりどうも私は恋愛もの向きの体質ではないようだ。


ところでズーラ役の ヨアンナ・クーリグを、知らないなと思って調べてみたら、「イーダ」でイーダが訪れるクラブで演奏しているバンドのシンガーだった。それだけでなく、「夜明けの祈り (The Innocents)」の修道女の一人でもあった。実はポーランドを代表する女優だったか。












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1949年、まだ戦争の傷口から完全に癒えないポーランド。ヴィクター (トマシュ・コット) を中心とする3人の音楽家が、ポーランドの民族音楽を後世に残すため、ポーランド中から集めた者たちを相手にオーディションを行う。ヴィクターはその中の一人ズーラ (ヨアンナ・クーリグ) に、荒削りながらも稀有な才能を見出す。2年後、ヴィクターたちの率いる舞踏・歌唱隊によるコンサートは成功を収めるが、コミュニスト政権の要人が、歌唱隊を政府のプロパガンダとして使うよう要請してくる。ほぼ時を同じくしてヴィクターとズーラは愛人関係になるが、政治に巻き込まれることを嫌ったヴィクターはズーラを連れてパリに亡命しようとする。しかし待ち合わせの場所にズーラは現れず、ヴィクター一人亡命する。ヴィクターとズーラはその後何年かの時を置いてヨーロッパで何度か顔を合わすが、しかし二人が一緒になることはなかった‥‥ 


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