The Man from U.N.C.L.E.


コードネーム U.N.C.L.E.  (2015年8月)

またまたヴィカンダーだ。アレックス・ガーランドの「エクスマキナ(Ex Machina)」で印象的なアンドロイドに扮したかと思えば、「テスタメント・オブ・ユース (Testament of Youth)」では進取の気性を持つ女性を演じ、そして今回は冷戦時代のスパイ戦に巻き込まれるドイツ人女性を演じる。人種国籍のみならず、時には人間以外の生命体まで演じるなど、今夏は一か月に一本のペースで新作が公開されており、今年がヴィカンダーのブレイクの年であるのは確かなようだ。


さて、「コードネーム・アンクル」だ。実は私は、「コードネーム・アンクル」が「ナポレオン・ソロ」だということを知らなかった。ガキの頃に「ナポレオン・ソロ」というTV番組があったことは覚えているが、まだそういうスパイ・アクションに興味を持つ年齢ではなく、実際に見た覚えはない。むろん「The Man from U.N.C.L.E.」というオリジナル・タイトルなぞまったく知らなかった。


だいたい、「The Man from U.N.C.L.E.」という原題は、初めての者にとってはかなり違和感がある。最初に耳から入ると、「おじさんから来た男」になってしまい、これではなんのことやらさっぱり意味がわからない。アメリカ人にとっては、大文字のUNCLEはほぼ必然的にアンクル・サム、つまりアメリカそのもの、あるいはアメリカ政府を意味することになってちゃんと意図するものが伝わるらしいのだが、日本人にとっては結構苦しい。


そのアメリカのCIAのトップ・エージェント、ナポレオン・ソロという名前もまた、理解の妨げにはなっても一助とはならない。ナポレオンという名前は、私の世代ではほぼ例外なくフランスの英雄かブランデーを想起させる。そしてナポレオン・ソロという名は知っていても番組を見たことは一度もなかった私は、秘密エージェントは秘密エージェントでも、それこそナポレオン時代かはたまた三銃士のダルタニアンみたいなものを想像していた。


つまり、私にとって「The Man from U.N.C.L.E.」からナポレオン・ソロに繋がる接点はまるでなかった。「The Man from U.N.C.L.E.」を見に行ったのは、冷戦時代のスパイものか、面白いかも、と思ったに過ぎない。そしたら上映が始まり、冒頭のナレーションでいきなり主人公ナポレオン・ソロがアメリカの優秀なエージェントだと説明している。なんてこった。知らなかった。こいつがナポレオン・ソロだったのか。これが例えば出演しているヴィカンダーやハマー、カヴィルなら、当時は生まれてないから最初からまったく知らずカン違いする余地もないだろうが、私は50年近くも経ってやっと蒙を開かれたのだった。CIAエージェントだったのか。


しかも語学に堪能で日本語もぺらぺらだという。本当か? この手の、役の上で日本語をしゃべるという設定のアメリカ人で、それらしくしゃべっているのは聞いたことがない。しかもソロを演じているヘンリー・カヴィルが、まったく日本語をしゃべれるように見えない。なんてったってアメリカを具現するスーパーヒーローのスーパーマンを演じているやつだからな。なまじ外国語なんてしゃべらない方がいいんじゃないか。KGBのクールなエージェント、クリアキンに扮しているのがアーミー・ハマーで、実際にロシアの血が入っているそうで、確かに東欧系の顔にも見える。関係ないが、ハマー家は実は大金持ちらしい。


調べてみると「コードネーム・U.N.C.L.E.」は、今春公開された「キングスマン (Kingsman: The Secret Service)」と共通点が多々ある。特にそっくりなのが、秘密組織の本部の入り口が洋装店になっているという点で、これは明らかに本家のTV版がそのオリジナルだろうが、洒落者で知られる英国人ジェントルマンのエージェントで構成されるキングスマンが洋装店経由で本部へ到達するというのは非常にしっくりする。とはいえそのオリジナルはCIAエージェントだったか。


この手の秘密エージェントものは、近年、ダニエル・クレイグ版の007を筆頭に、ジェイソン・ボーン、ジャック・ライアン、イーサン・ハントまで、リアリティを重視する方向に進んできた。かつてのショーン・コネリー版007が体現していた、余裕をかまし過ぎのきざったらしいエージェントが、時代とそぐわなくなってきたからだろう。


そしたらここに来て、「キングスマン」に「コードネーム・U.N.C.L.E.」だ。どちらも冗談が過ぎるほど洒落やユーモアを詰め込んでいるわけではないが、明らかに初期の007が持っていたきざったらしさ、エスプリ、洒落っ気というものを紛れもなく継承している。近年、リアリティに重きを置くことで展開してきたエージェントものが、今度はこれでは息が詰まり過ぎたと感じているのか、また余裕を見せる方向に進もうとしている。


こうなると、やはり気になるのは今秋の007最新作「スペクター (Spectre)」だ。いったんは袋小路に入りかけた007が、ダニエル・クレイグが新007となってシリアスなアクションものとなることで復活を遂げた。たぶん今後はシリアスな方向に向かうエージェントものと、余裕を見せて展開するエージェントものとが共存していく感じがする。むろん色んなアクションを見せてくれるなら、見る方としては異存はない。ところで、「コードネーム・U.N.C.L.E.」は続編はありなんだろうか。










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1963年、ナポレオン・ソロ (ヘンリー・カヴィル) は一流のスパイとして業界では知らぬ者のない存在だった。東ベルリンで、かつてナチで核の研究をしていたウド・テラーが行方をくらませ、その行方を突き止めるため、ソロは危険の迫っている娘のギャビー (アリシア・ヴィカンダー) に接触する。ソロとほぼ同時にKGBのスパイ、イリア・クリアキン (アーミー・ハマー) もギャビーに接触、拉致しようとしていたが、ソロはなんとかクリアキンの追跡を振り切ってギャビーと共に西側に逃げ込むことに成功する。その後事の重大さのために、西側は一時的に冷戦を棚上げにしてソ連と手を結ぶ。ソロは一度は命を狙われたクリアキンと手を組み、ギャビーと共にウドを追う任務に就き、身柄を詐称してローマに飛ぶ。そこでは大金持ちで世界支配を目論むヴィンチグエラ家が、ウドに核の研究をさせていた‥‥


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