The Beguiled


ザ・ビガイルド  (2017年7月)

「ザ・ビガイルド (The Beguiled)」、要するに「白い肌の異常な夜」のリメイクだ。1971年にドン・シーゲルがクリント・イーストウッドを起用して撮った「白い肌の異常な夜」は、南北戦争時代に女子だけの寄宿舎に一人の怪我をした軍人が紛れ込むという設定で、特異な印象を残した。 

 

1971年は同じくシーゲル-イーストウッドのコンビが「ダーティ・ハリー (Dirty Harry)」を世に送り出した年でもあり、その印象があまりにも強烈だったために、なおさら「白い肌の異常な夜」の違和感が増した。まず、北軍のユニフォームに身を包むイーストウッドがしっくり来ない。 

 

イーストウッドというと西部劇かダーティ・ハリーかという、要するに一匹狼という印象が定着している時に、その他名もなき軍人の一人としてユニフォームを着ているイーストウッドが、まったくしっくり来ない。イーストウッドの魅力は硬派のそれであって、それが「白い肌の異常な夜」では、ハーレムだ。このイメージの乖離は甚しく、正直言って私の目にはミスキャストにしか見えなかった。ダーティ・ハリーが女に囲まれてにたにたと鼻の下なんか伸ばすな。 

 

ついでに言うと1971年は、イーストウッドが監督デビュー作の「恐怖のメロディ (Play Misty for Me)」を撮った年でもある。実はこれもイーストウッド作品として見ると異色ではあるが、「白い肌の異常な夜」のように違和感の充満したスリラーではなく、どちらかというと正統的なサスペンスだ。 

 

これらの映画は、私は封切り時ではなく、大学生になって上京してから名画座で見ているのだが、封切り時に時間軸に沿って見ていたら、さらにイーストウッドの懐の深さに驚嘆したに違いない。いずれにしても1971年は、イーストウッドの才能と魅力が花開いた年だった。 

 

元に戻って「白い肌の異常な夜」だが、イーストウッドがしっくり来ないミスキャストというかその微妙なずれ具合いが、話の内容と相俟ってある種のエロティシズムを醸し出したこともまた事実だ。それに話がどう転ぶかわからないスリラー的要素が加わり、結果として映画はカルト化した。実際の話、印象に残るという点ではかなりのもので、私が映画を見たのはもう何十年も前に一度きりで細部は忘れているのにもかかわらず、その微妙に不安定な収まりの悪さの印象は、いまだに強く残っている。どうやら今回の演出のソフィア・コッポラもそうだったようで、普通ならまず考えそうもないリメイクを考えた。よほど訴えかけるものがあったんだろう。 

 

今回、イーストウッドが演じた主人公マクバーニーを演じるのは、コリン・ファレル。女子校の経営者マーサ・ファーンズワースに扮するのがニコール・キッドマン、教師のエドウィナ・モロウに扮するのがカースティン・ダンスト、年長の生徒アリシアに扮するのがエル・ファニングで、主としてこの3人とファレルの間で、微妙な四角関係が展開する。 

 

ファレルは一時期セクシーな男として名を馳せたこともあったので、この人選はわからないではない。また、女性陣も悪くない。キッドマンは元々演技が大仰になりがちなのが癖なので、こういう、思っていることを抑えようとする役を与えると効果が高い。ダンストもこういう役もできるのかと感心した。「ミッドナイト・スペシャル (Midnight Special)」ではカルトの信者を演じているので、もしかしたらこちらが本筋か。しかし個人的に最も印象深かったのがファニングで、「マレフィセント (Maleficent)」の幼い子が、もうこんなに大きくなって大人の男に色目使うようになって、と、まったくおっさん視点で感慨深い。 

 

姉のダコタも「ラスト・スキャンダル (The Last of Robin Hood)」ではロリータ系の役に挑戦していたし、姉妹でこういう役にも挑戦したいようだ。考えたらその「ラスト・スキャンダル」で、ダコタではなくエルを起用したらどうだったかと、見た時思ったのだった。たぶん二人共、純なイメージが先行しているので、なおさらそういう殻を破りたいんだろう。 

 

個人的には、前回のシーゲル-イーストウッド版より今回の方が、全体のできとしてはよくまとまっていると感じた。なんといっても全体を覆っていた居心地の悪さが今回はない。インモラルな話なのだが、今回は結構適材適所のキャスティングのため、ある意味安心して見れる。そして逆にそのためもあってか、後に残る印象の強さではシーゲル-イーストウッド版が勝るのだ。今考えると、あれはカルトどころか歴史に名を残す作品だったのかもしれない。 

 
 







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1864年南北戦争時代ヴァージニア州、戦争のために男手が少なくなった世界で、女子校を経営するマーサ・ファーンズワース (ニコール・キッドマン) は、数人の教師と生徒だけで寄宿生活を切り盛りしていた。ある日、生徒のエイミーが森にきのこを採りに行って、怪我をした北軍兵士のジョン・マクバーニー (コリン・ファレル) に遭遇する。エイミーはジョンを宿舎に連れて帰る。ほとんど若い男がいなかった世界で、ジョンは一瞬にして皆の興味の対象になる。特にマーサ、教師のエドウィナ・モロウ (カースティン・ダンスト)、年長の生徒のアリシア (エル・ファニング) 間で、見えない確執、駆け引きが始まる‥‥


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