The Last of Robin Hood


ラスト・スキャンダル --あるハリウッドスターの禁じられた情事-- (ザ・ラスト・オブ・ロビン・フッド)

(2014年9月)

最初「エロール・フリン」と書こうとして、「エロール・不倫」になってしまった時は、あまりの暗号に思わず思い入ってしまった。ただし「ザ・ラスト・オブ・ロビン・フッド」は、かつて「ロビン・フッド」役で不動の人気を博したフリンの不倫の顛末を描くわけではない。映画は当時の妻であるパトリス・ワイモアについては一切触れることはない。フリンの不倫という行為そのものではなく、フリンと、当時未成年だった愛人のビヴァリー、そしてビヴァリーの母フローレンスの3人に焦点を絞り、彼らの関係がどのようにして始まり、展開し、そしてフリンの突然の死によってどう終わったかを描くものだ。 

 

既に人気は斜陽であったとはいえハリウッドのスーパースターの一人として長らく君臨していたフリンは、ある時ハリウッドのスタジオで一人の女性を見初める。その女性ビヴァリーは、実は女性というよりはまだ少女でしかない年齢だったが、フリンはビヴァリーにぞっこんになる。フリンはビヴァリーを強力に支配していたステージ・ママのフローレンスに取り入り、ビヴァリーを自分のものにしようと画策する。 

 

一方、フリンがどんなに後ろで手を回しても、演技の才能があるわけではないビヴァリーをスターにすることはできなかった。ビヴァリーの持つ魅力はスター性ではなく、フリン一人だけに強烈にアピールするたぶん性的なものであった。むろん若さに溢れているビヴァリーは、銀幕の上でのスター性はなくとも魅力はあったろうからそこそこもてはしただろうし、その点、フリンはビヴァリーが自分よりも若いビヴァ リーと同年代の子と夜遊びすると気が気ではなかった。二人の歳の差は30以上あったわけだし。それだけ歳の差がある子を時にはなだめすかし、時には叱ったりしながら付き合っていくのは、対等に交際するというよりは、ベイビーシットしている感覚に近かったろうと思う。 

 

フリンがビヴァリーと逢瀬を開始した48歳という歳は、私の今の年齢とあまり変わらない。そしてビヴァリーはその時公表18歳、実は15歳だった。大人びて見えたというのはあったかもしれないが、現実にはまだガキでしかない小娘に、そういう感情を持つということが単純に理解できない。実際の話、フリンの二番目の結婚で生まれたデアドレは1945年生まれであり、1942年生まれのビヴァリーと三つ違うだけに過ぎない。自分の娘とそう違わない歳の子に本気で入れ込むのか。 

 

私に言わせてもらえるなら、ティーンエイジャーのガキ、特に女の子ほど扱いにくくイライラさせるものはない。確かに可愛いと思える子はそこそこおり、そういう子を遠目で見ている分、あるいは映画やTVで見ている分にはいいのだが、しかしマジでコミュニケーションをとりたいとはさらさら思わない。世代が違い過ぎて話が噛み合わない。それなのに惚れたはったなど、想像の埒外だ。 

  

一方でまた、ロリータ、もしくはそういう若い子から本気でなにがしかのインスピレーションを受けて創造の糧を得ることのできる大人もいるとは思う。チャップリンだってそうだった。たとえロリータ趣味であったとしても、それを源泉として「街の灯 (City Lights)」や「モダン・タイムス (Modern Times)」を生み出した。たぶんフリンもそのタイプだったのだろう。若い子が傍にいるだけでこちらもインスピレーションが湧くというのは、確かにありそうな気もする。 

  

ビヴァリーとフリンは、当時、なんとスタンリー・キューブリックの「ロリータ (Lolita)」で共演予定だったそうだ。しかし当時まだ未成年のビヴァリーとフリンが性交渉を持っていた場合、法に抵触している可能性があったため、急遽二人の代役としてスー・リオンとジェイムズ・メイソンが抜擢されて撮影された。 

 

「ロリータ」のリオンは、ロリータという言葉に人が持っているイメージとは裏腹に、実は少々大人びている。どちらかというと、当時の写真で見るその時のビヴァリーが持っている印象、要するに大人びているティーンエイジャー、という感じに近い。リオンのキャスティングには、ナボコフの原作のイメージよりも、現実のビヴァリーのイメージが影響しているのは間違いないものと思われる。「ロリータ」を見た時、リオンは別に特にロリータには見えないけど、と軽い違和感を持ったことを思い出したが、製作にそういう経緯があったことと無関係ではないだろう。一方でフリンとメイソンは、イメージとしては月とすっぽんというくらいかけ離れているのも面白い。 

  

1942年生まれビヴァリーに対し、リオンは1946年生まれと、ビヴァリーはリオンより4つ歳上だ。ということは実際にビヴァリー-フリンで「ロリータ」が製作されていた場合、ビヴァリーはリオンよりもさらにロリータっぽくないが、現実に愛人関係であったフリンとの共演により、製作されればかなりインモラルな雰囲気を持つ作品に仕上がったことが予想される。キューブリックがイメージしたのは、そちらの方ではなかったか。キューブリックはその後、当時夫婦関係にあったトム・クルーズとニコール・キッドマンを起用して「アイズ・ワイド・シャット (Eyes Wide Shut)」を撮っている。要するにキューブリックは、「ロリータ」でも現実のカップルを起用して、モラルや虚実の境界を曖昧にしたエロティシズムを撮りたかったんだろう。 

  

横道にそれたが、今回「ラスト・オブ・ロビン・フッド」でビヴァリーに扮しているのは、ダコタ・ファニングだ。ファニングは1994年生まれ。IMDBによると映画は2013年作品となっているから、幅を見て撮影が2012年だとしても、撮影時既に18歳だ。 

 

彼女がビヴァリー役として適しているかは微妙なところで、一見18歳、実は15歳というのではなく、実際に18歳くらいに見える、というか微妙に歳が読めない。人によっては20歳に見えるという者もいそうだし、いや、15歳で充分通用するという者もいそうだ。つまり人によっては作品の勘所となる、一見成熟しているが実はまだミドル・ティーンというポイントがうまく伝わるか疑わしい。 

 

また、現実のビヴァリーは、どんなに稽古しようともやっぱり大根だった。そのビヴァリーに、同年代の演技派としては随一のファニングが扮している。撮影シーンでは意図的に下手に演じていているわけで、これまたなんか倒錯的で、そういうのを見る快感はなくもないのだった。たぶん色んな役に挑戦したいんだろう。 

 

そういえばダコタには、それこそ四つ違いの妹エルがいる。もしかしてエルこそこの役には最適だったのではと一瞬思う。しかしそれだと撮影時に13、14ということになって、今度はさすがに幼な過ぎるかもしれない。実際「マレフィセント (Maleficent)」を見る限り、ビヴァリー役は難しそうだ。当時のビヴァリーの写真を見ると、大人びた独特の魅力があることは確かではあるのだ。などなど、映画を見た後で色々と妄想を逞しくしてみたりなんかしているのだった。 











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1957年、ロビン・フッドが当たり役だったエロール・フリン (ケヴィン・クライン) は、ピークは過ぎていたとはいえ、いまだにハリウッドの押しも押されぬスーパースターの一人だった。ある時エロールはスタジオで一人の女性の姿を目にする。女性というよりも少女といった方が近いビヴァリー (ダコタ・ファニング) に心を奪われたエロールは果敢にアタックを開始する。ビヴァリーにはステージ・ママのフローレンス (スーザン・サランドン) が おり、エロールはフローレンスを懐柔してビヴァリーを手に入れようとする。その案は功を奏するが、一方女優としてのビヴァリーにはほとんど才能はなく、ど んなにエロールが後ろで手を回しても、ビヴァリーが女優として芽を出す可能性はほとんどなかった。さらにビヴァリーが実はまだミドル・ティーンである事実 が発覚する。そのことが公になると、エロールは未成年と性交渉を持ったとして、犯罪として逮捕される可能性があった‥‥ 


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