The Address   ジ・アドレス

放送局: PBS

プレミア放送日: 4/15/2014 (Tue) 21:00-22:30

製作: フローレンティン・フィルムズ

製作/監督: ケン・バーンズ


内容: ヴァーモント州パットニーの知的障害を持つ子供たちが通う学校グリーンウッド・スクールで、生徒らがそれぞれリンカーンの歴史的なゲティスバーグ演説を暗誦する様をとらえるドキュメンタリー。


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The Address


ジ・アドレス  ★★★

実はこの番組ではなく、書こうと思っている番組が他にいくつかあったのだが、それらが次々とキャンセルされてしまった。最初A&Eのクロイ・セヴィニー主演のスウェーデン性刑事ドラマのリメイク「ドーズ・フー・キル (Those Who Kill)」を書こうと思ったのだが、2話放送されただけで視聴率が稼げず早々とキャンセルされてしまった (オリジナルの邦題を調べていたら、「ゾーズ・フー・キル」になっていた。そうだったのか。)


さらにNBCの「ビリーヴ (Believe)」、「クライシス (Crisis)」も続けてキャンセルが発表される。「ビリーヴ」なんて、今「ゼロ・グラビティ (Gravity)」で旬のアルフォンソ・クアロンの製作で、話題性充分と思っていたのだが、敢えなく撃沈、D.C.を舞台にした、ジリアン・アンダーソンが久し振りにアメリカTV界に帰ってきたということで話題のポリティカル・スリラー、「クライシス」もダメだった。


特にドラマは、私が気になっているものと世間の関心が違うなとはいつも思っているのだが、気になっていた番組に限って連続でキャンセルが発表される。今シーズンも、CBSのサスペンス・アクションの「ホステージス (Hostages)」なんてできもいいと思っていたのだが、裏番組のNBCの「ザ・ブラックリスト (The Blacklist)」に押される形でジリ貧となり、今となっては途中キャンセルではなく、一応第1シーズンを最後まで放送して終えられたのは好運だったとすら言える。


いずれにしても、それで既に放送されていないか終了が決定した番組について書くのもなんだかなあと思ったので、今回はそれらの番組の次くらいに書こうかなと考えていた、ケン・バーンズ製作監督のドキュメンタリー、「ジ・アドレス」を繰り上げることにした。


アメリカのドキュメンタリー界ではこの名を知らなければもぐりのバーンズだが、製作のテーマが基本的にアメリカの歴史主体ということもあって、アメリカ以外ではあまり知られていない節が見受けられる。しかし現在マックのiMovieで動画の編集を行う者は、そのエフェクツに「Ken Burns」があることに気がついているだろう。例えば写真や絵画等の静止画を捉える時、退屈を避けるためにそこに非常にゆっくりとしたパンやティルト、ズーム・イン/ズーム・アウトを配して、気にならない程度の動きを導入することがある。それこそがバーンズが最も得意としている手法であって、iMovieではバーンズに敬意を表し、そのエフェクツをKen Burnsと名付けているのだ。


バーンズといえば、何はともあれ大型ミニシリーズだ。彼が作るドキュメンタリーは、出世作となった「南北戦争 (The Civil War)」を筆頭に、「ベイスボール (Baseball)」、「ジャズ (Jazz)」、「ザ・ウォー (The War)」等、とにかく重厚長大で知られており、放送時間が5、6時間で済めば短い方だと言える。「ベイスボール」はオリジナル製作から16年後に4時間の続編「ザ・テンス・イニング (The Tenth Inning)」が製作され、全編では10何時間にも及ぶ作品になった。


それからすると1時間30分の「アドレス」は、いかにも小粒だ。バーンズといえども毎回毎回10時間ミニシリーズを作るわけではなく、たまにはこのような、短いが印象的な作品も撮る。


「アドレス」は、ヴァーモント州の知的障害を持つ子どもたちが集う学校グリーンウッド・スクールで、エイブラハム・リンカーンが南北戦争時に行った、歴史的なゲティスバーグ演説を子供たちに暗唱させる様をとらえたものだ。


ゲティスバーグ演説といえば、あの超有名な、「人民の、人民による、人民のための政治」という文言が含まれている演説として歴史的に名高い。正味2分程度の、どちらかといえば短い演説だ。グリーンウッドではそれを生徒たちに覚え込ませて、人々の前で暗唱させるという行事を毎年行っている。


学習障害、知的障害を抱える者は、全米に少なくない。彼らは一見しては他の健常者と何も変わるところはないが、学習障害があると、他の者たちと一緒に社会生活を送ることは難しい。そのため、彼らはいじめられる。ある生徒は、人生は戦場だ (Life is battlefield) と言っていたが、たった十何年間でもたぶん本当にそういう人生を送ってきたのだろうと思う。グリーンウッドには、その中でも行き場をなくして途方に暮れる者たちが、最後の希望の光として、藁にもすがる思いで全米から集まってくる。


ゲティスバーグ演説の暗唱は、そういう子供たちに、社会で生きていくための自信を持たせるための一助として行われているものだ。もちろんこのリサイタルが、演説自体の趣旨と合致していることにも意味がある。


2分の演説と簡単に言うが、学習障害を持つ子供たちにとって、その2分の演説を記憶するのは並大抵の所業ではない。むろん個人差があって、わりあい楽に暗記できている者もいるようだが、それが今度は人前で暗誦する段になると言葉が出てこないとか、口がうまく回らず何言っているかわからないこともある。そういう時のフラストレーションは、聞いている者よりもうまく言えない本人の方が何倍も強いと思え、だからこそその憤懣の捌け口をどこに持っていけばいいかわからず、よけいにフラストレーションが溜まる。


教師の一人が言っていたが、子供たちにとって2分の演説を記憶して人前で暗誦するというのは、圧倒的に難事業なのだ。スクールの教師やカウンセラーは、そういう生徒たちを、地道に、忍耐強く指導する。ADHD (注意欠陥・多動性障害) を持つ子は、特に教室で皆と一緒に学習することができない子が多いから、自然生徒と教師のマン・ツー・マンでの指導になる。生徒も大変だと思うが、一人一人を辛抱強く指導する教師たちも、なかなかどうして偉い。


そうやって何か月も指導訓練実習を繰り返した後、生徒たちは正装して本番を迎える。何度も練習してきたが、それでも本番でうまくいくとは限らないため、側には指導教師が控えている。集まった親兄弟も心配そうだ。我が子が無事最後まで暗誦するのを見届けた親は、感極まって涙を流して子をハグする。私もちょっとうるうるしてしまうのだった。











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