The Tenth Inning    ザ・テンス・イニング

放送局: PBS

プレミア放送日: 9/28 (Tue), 9/29/2010 (Wed) 20:00-22:00

製作: フローレンティン・フィルムズ、WETA

製作/監督: ケン・バーンズ

ナレーション: キース・デイヴィッド


内容: ベイスボールの歴史をとらえたドキュメンタリー・ミニシリーズ「ベイスボール (Baseball)」に、その後の展開を付加した補遺版。



Four Days in October   フォー・デイズ・イン・オクトーバー

放送局:  ESPN

プレミア放送日: 10/5/2010 (Tue) 20:00-21:00

製作: ESPNフィルムス、MLBプロダクションズ

監督: ゲアリ・ワックスマン


内容: MLBのボストン・レッドソックスが、ニューヨーク・ヤンキースを破った2004年のリーグ・チャンピオンシップを回顧する。


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私は見るスポーツは主としてゴルフ、次にフィギュア・スケート、テニス、F1、MotoGP辺りが主体だ。それにたまさかのワールド・カップ・サッカーやラグビー、オリンピックや世界陸上、世界水泳等が加わっただけで、もうほとんど年がら年中見るスポーツの枚挙に暇がなく、既に時間がいくらあっても足りない。


そんなわけもあって、アメリカの国技とも言えるベイスボール (MLB) を筆頭とする、フットボールのNFL、バスケットボールのNBA、アイス・ホッキーのNHLの4大プロ・スポーツも、ほとんど追っかけてない。どれもプレイオフくらいになるとそこそこ見たりするが、せいぜいそんなもんだ。


なんせメイジャー・リーグの場合、1チームで年間160試合、それが30チームもある。既にもう全部把握するのは不可能だ。こういうのにはまると泥沼になるのがわかりきっているから、意識的に避けているというのもある。私だって特別暇というわけじゃない。


というわけで、ケン・バーンズが製作した、ベイスボールの歴史をとらえたドキュメンタリー「ベイスボール」も、まともには見ていない。「ザ・ウォー (The War)」にように、はまれば全部見る時もあるが、しかしこの人の作るドキュメンタリーはいつも長い。そうそう毎回つき合ってもいられない。


この「ベイスボール」、放送は1994年だ。全9話で、ベイスボールの誕生から現在 (当時) までの歴史を俯瞰するというものだった。それから既に16年経ち、ベイスボールをめぐる状況も大きく変わった。なんてったってその1994年には、ストでシーズンが流れるという異例の事態が起きた。1998年のサミー・ソーサとマーク・マグワイヤのホームラン競争、ステロイド疑惑、イチローの登場、ヤンキース-ソックスの死闘、ボンズのホームラン記録など、特にMLBに注意を払っていたわけでもない私ですら、いくつも印象的な出来事がすぐに思い浮かぶ。


そんなわけで、バーンズは「ベイスボール」に新たな章を付加して完全版を作ることを考えた。それが「ベイスボール」第10話目となる、「ザ・テンス・イニング」、つまり「延長10回」だ。もちろんとにかく何でも長い話にしたがるバーンズのことだ、ちゃんと延長10回の表と裏、つまり「トップ・オブ・ザ・テンス (Top of the Tenth)」と「ボトム・オブ・ザ・テンス (Bottom of the Tenth)」の2部構成になっている。


番組はさらにその中でいくつかの章を構成してそれらを繋いでいる。例えば「トップ・オブ・ザ・テンス」では、まず冒頭に「ナンバーズ・ノー・ワン・キャン・ビリーヴ (Numbers No One Can Believe)」というチャプターで、1993年に史上最高額でフリー・エージェントとなったバリー・ボンズに注目することから始まる。ボンズは父親もMLBプレイヤーだったが、まだ差別の残る時代風潮の中、孤独にプレイする父を見て育ったボンズは、誰も信用せず、ただひたすら寡黙に世界一のプレイヤーになることだけを目標にプレイに専心する。


私はスポーツにせよ音楽にせよ本にせよ映画にせよ、作品やプレイそのもので人々を魅了してこそプロと思っているので、その舞台裏の背景を知ることを意識的に避けたりする。時によけいな情報は邪魔ですらある。しかし、スポーツが筋書きのないドラマと呼ばれたりすることがあるように、そういうドラマがどうしても付随してくる時があり、そしてそれがパワフルだったりする。


当然バーンズはそのことをよく承知しており、ベイスボールというゲームの歴史のあちこちからこんな話あんなエピソードを持ち出してきて、言いたいポイントを補強する。そして実際の話、それがツボを突いていて非常にうまいのだ。この人は話の作り方が本当にうまい。ドキュメンタリーというものは、畢竟取捨選択の問題だ。すべては現実に起こったことであり、人々は既にそれを知っている。しかしそれは当然多くの人々にとって断片的だ。それをある大きな枠組みの中で再構成する。その手際のよさこそがバーンズ・ドキュメンタリーの真骨頂に他ならない。


「トップ・オブ・ザ・テンス」では、その後、「アートフル・デセプションズ (Artful Deceptions)」と題して不正やインチキの歴史を紹介する。もちろん近代最大の不正とは、ステロイド使用のことに他ならない。「ア・ボーイフッド・ドリーム (A Boyhood Dream)」では再びボンズとSFジャイアンツを採り上げ、「ミリオネア vs ビリオネア (Millionaire vs Millionaire)」ではストと、その後に続いたファンの怒りをオリオールズのキャル・リプケンの連続試合出場記録がどのように宥めたかを検証する。「トップ」ではその他、ブレーブスの黄金時代、ヤンキースの名物オーナー、スタインブレナーとヤンキース・ダイナスティ、ラテン・プレイヤーの抬頭、そしてマグワイヤ vs ソーサのホームラン競争等が採り上げられる。


そして「ボトム・オブ・ザ・テンス」では、インターナショナルのプレイヤーが登場し、イチローも「Ichiro」というチャプターを丸々割いて紹介される。イチローの幼い頃のフッテージまで探し出してきて紹介する。このしつこいくらいの徹底さこそバーンズだ。日本人にとっては非常に興味深いパートだが、「ボトム」が本当に焦点を当ててとらえているのが、2001年、9/11のテロリスト・アタック後のアメリカが傷から立ち直るためにも全米がNYヤンキースを応援し、そして叶わなかったヤンキース vs ダイアモンドバックスのワールド・シリーズ、および2003年と2004年、連続してアメリカン・リーグのチャンピオンシップをかけて戦った、ヤンキース vs ボストン・レッドソックス戦だ。レッドソックスと戦った時のヤンキースには、日本出身のもう一方の雄、ゴジラこと松井がいる。


実際の話、MLBで私にとって最も印象に残って覚えているのが、11月にまでもつれ込んだこの2001年のワールド・シリーズと、2003年、2004年のリーグ・チャンピオンシップに他ならない。もちろん私がNY在住で、当時街もTVもヤンキース応援一辺倒であったことを抜きにしても、これらのゲームがツイストにツイストを重ねた、歴史に残るクラシック・ゲームであったことを認めない者はいまい。バーンズもそう思ったからこそ、このチャプターが中心に据えられている。


2001年のワールド・シリーズでダイアモンドバックスが第7戦で9回裏に逆転サヨナラ勝ちしたゲームは忘れられるものではないが、第4戦、第5戦とリードしていたダイアモンドバックスのクローザーとして登場し、共に9回裏にホームランを打たれて同点にされ、放心してマウンドにうずくまったキムはさらに忘れられない。


2003年のリーグ・チャンピオンシップでは、第7戦でレッドソックスがヤンキース相手に4点リードしていながら8回裏に同点にされ、延長でブーンがサヨナラ・ホームランを打ってレッドソックスを悲しみのどん底に突き落とした。そして翌2004年、レッドソックスは再度ヤンキースと対戦、今度は3連敗であとがないという剣が峰に立たされる。


レッドソックスは第4戦も1点リードされ、9回裏、マウンドにはヤンキースの守護神リヴェラが立つ。9分9厘ヤンキースが勝っていた試合だった。そこからレッドソックスが追いついて延長でサヨナラでヤンキースをうっちゃり、残る3試合もものにして史上初めて3連敗後の4連勝でヤンキースを下し、その勢いでワールド・シリーズも制したシーズンは、もはや伝説だ。


ESPNの「フォー・デイズ・イン・オクトーバー」は、この、レッドソックス・ファンにとって永遠に忘れられない、ヤンキースに4連勝した10月の4日間だけに焦点を当てたものだ (因みにこの番組は、スポーツ・ドキュメンタリー・シリーズ「30フォー30 (30 for 30)」の1本である。) 2001年にはダイアモンドバックスに在籍し、今回はレッドソックスで再度ヤンキースに煮え湯を飲ませたピッチャーのシリングが、足に怪我をしてソックスに赤い血を滲ませ、本当にレッドソックスで投げたゲームなど、このシリーズは確かに記憶にこびりついている。そんなにベイスボールに入れ込んでいるわけではない私ですら、第4戦でヤンキースがほとんど手にしていた優勝を取り逃がした時は、自分の目が信じられず、TVの前で茫然自失した。もうこれで世界が滅亡してもいいと満足したレッドソックス・ファンも多かったに違いない。


そういうレッドソックス・ファンの一人であったに違いない、ベン・アフレックがレッソックスの本拠地フェンウェイ・パークをクライマックスの舞台として撮った「ザ・タウン (The Town)」を思い起こしながら番組を見るのもまた一興だ。はてさてあと10年後に「ジ・イレヴンス・イニング」が作られることにになった時、ベイスボールは果たしてどういう変貌を遂げているだろうか。








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ザ・テンス・イニング   ★★★

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フォー・デイズ・イン・オクトーバー   ★★1/2

 
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