Q’Viva! The Chosen   ケ・ビバ! ザ・チョーズン

放送局: ユニヴィジョン (Univision)/FOX

プレミア放送日: 1/28/2012(Sat)19:00-20:00 (ユニヴィジョン)

3/3/2012 (Sat) 20:00-22:00 (FOX)

製作: XIXエンタテインメント

クリエイター/製作総指揮: ジェニファー・ロペス、マーク・アンソニー

ホスト/ジャッジ: ジェニファー・ロペス、マーク・アンソニー


内容: 勝ち抜き音楽/ダンス/タレント発掘リアリティ。


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¡Q’Viva! The Chosen


ケビバ! ザ・チョーズン   ★★

「ケビバ! ザ・チョーズン」は、中南米から集めてきたパフォーマーによる、勝ち抜きの音楽を中心としたタレント発掘リアリティ・ショウだ。「ケビバ (Q’Viva)」なんてなにやら耳に馴染みのない単語が用いられているのを見てもわかるように、基本的に英語番組ではない。スペイン語番組だ。それがなぜアメリカでネットワークのFOXで放送されているかというと、もちろん番組のクリエイター兼ホスト兼ジャッジが、ジェニファー・ロペスとマーク・アンソニーという、アメリカでも訴求力のあるラテン系の大物であるからに他ならない。


アメリカで生まれてはいるものの、ラテン・コミュニティで育っているロペスとアンソニーは、二人とも英語もスペイン語もペラペラのバイリンガルだ。アメリカでは特に都市部においてはラテン系コミュニティが多々あり、そういう場所に足を踏み入れると、耳に入ってくる言語や窓から漏れてくる音楽がスパニッシュで、ここがアメリカなのか南米なのかわからなくなることがよくある。ロペスもアンソニーもそういうところで育っており、当然中南米の音楽にも造詣が深い。そこで埋もれたまま発掘されていない才能を、どうにかしてアメリカにも紹介したいと思ったのだろう。


「ケビバ」はアメリカではまずスペイン語放送局のユニヴィジョンでオリジナルのスペイン語ヴァージョンを放送、その後英語編集を施して、約1か月半遅れでFOXでも放送が始まった。ロペスは現在FOXの「アメリカン・アイドル (American Idol)」でジャッジも務めており、FOXとはかなり太いパイプがある。そのためFOXでも放送ということになったと思われる。


番組タイトルの「ケビバ! ザ・チョーズン」というのは、選ばれた者を意味する「ザ・チョーズン」はともかく、「ケビバ」の意味がわからない。英語のWhatがスペイン語でQue (ケ) というのだけは知っていたので、たぶん「Que Viva」の短縮形だろうと勝手に思っていた。調べてみると、当たらずとも遠からずといったところで、「栄光あれ」とか「乾杯」の意で、選ばれた者を称えるという番組名のようだ。


タレント発掘番組でもあり、その部分は英語だろうがスペイン語だろうが関係あるまいと思われたので、私は最初ユニヴィジョンが放送しているオリジナルを見てみた。実際、パフォーマンスを見る分にはまったくと言っていいほど問題ないのだが、案外とこういうタレント・ショウでも誰それがしゃべっている部分は結構あり、その部分が意味不明だと、進行がどうなるのかがまったくわからない。パフォーマーのバック・グラウンドの紹介とか、そういうドラマ部分もあってこそのパフォーマンス・ショウなのだなと改めて気づいた。


というわけでスペイン語で番組を見ることは諦め、3月まで待って英語版を見ることにした。むろんパフォーマンスの歌の部分は原語のままだが、パフォーマーのスペイン語の発言の部分は字幕が入る。また、アメリカでの放送が最初から念頭にあるため、ロペスとアンソニーがお互いにしゃべる時は最初から英語を使っており、その部分は問題ない。しかしロペスとアンソニーがパフォーマーと会話する時は当然スペイン語なため、そこは英語字幕だ。


また、中南米と一くくりに言っても、全部がスペイン語を話すわけではない。同じラテン系でもブラジルなんかは基本的にポルトガル語だし、国によって微妙に違う。ただし、ブラジル生まれの知人に訊いたところ、南米出身なら、出身地が違ってもだいたい6-7割方くらいは何言っているかわかるという。方言くらいの違いに近いらしい。


因みにユニヴィジョンは、アメリカにおいては外国語放送局という建て前ではあるが、国民の3分の1か4分の1はスパニッシュ系と言われているアメリカでは、既に米ネットワーク並みの視聴者数を誇る。現実に弱小ネットワークのCWよりスペイン語放送局のユニヴィジョンの方が視聴者数が多いので、近年は業界向け視聴者数ランキングではユニヴィジョンも必ずリストに含まれている。でないと視聴者の絶対数がわからないのだ。


番組進行は、まず番組宛てに中南米の各地から寄せられたエントリーを通して2、30人 (組) が選抜され、彼らが住む場所にロペスとアンソニーが訪れ、その場で演奏演武、パフォーマンスを行う。そこでお眼鏡に適うと、LA行きの切符を手渡される。ロペスとアンソニーは、もちろんアメリカにおいても人気シンガーだが、中南米においては、それこそ絶大なる人気を持っていることがよくわかる。どこに行っても彼らを一目見ようとする人波に揉まれるという感じだ。


それはいいのだが、多少鼻につくのが、いかにもラテン系大仰さたっぷりという感じのやらせ的演出で、例えば、クルマの中にいるロペスに向かって、ここで歌わせてくれと頼み込んでくる若者がいる。外で最初からカメラが待っており、明らかに打ち合わせ通りの演出なのだが、さもここで初めて機会を得たと言わんばかりだ。例えば、NBCの「ザ・ヴォイス (The Voice)」も、ホストのカーソン・デイリーが参加者に番組出演の切符を手渡しに訪れるのだが、さすがにここまでわざとらしくはない。それに較べると「ケビバ」の演出過剰は、正直言って見ていて恥ずかしい。


とはいえ参加者の感情表現の大きさを見ていると、これがラテン系ではほとんど常識に近い演出なんだろうなとは思う。だいたい、LA行きの切符を得ようが落とされようが、どっちにしても皆よく泣く。老若男女、ほぼ全員泣く。後の方では人が泣いていることに対して不感症になってくるくらい皆よく泣く。少しくらい泣くのをこらえる方が効果的なのにと思ってしまう。


LAに呼ばれた参加者の2次選考になると、今度は空港の格納庫内でロペスとアンソニーを前にパフォーマンスを行うのだが、その後ろに待っているのはわりと大きな旅客機だ。ここで落とされた参加者は、パフォーマンス衣装のまま旅客機に乗り込まされる。つまり、そのまま国に帰されるという、劇的な演出効果を狙っている。むろん数人、時には一人だけ乗せて飛行機を飛ばすわけはなく、これまた演出過剰という印象は拭い難い。後で皆一緒に乗せるか、あるいはまったく普通に翌日ロサンジェルス空港からちゃんと税関手続きをしてから国に帰るに違いない。


番組は各種の才能を発掘するというのが趣旨であり、特に音楽だけにこだわっているわけではない。要するに「アイドル」や「ヴォイス」というよりも、NBCの「アメリカズ・ガット・タレント (America’s Got Talent)」だ。歌、楽器演奏、ダンスの類は当然として、さらにカポエラの演武やダブル・ダッチ、ジャグリング、曲芸、よくはわからない民族舞踊、舞踏、オリジナル芸、はっきり言ってそれはサーカスのサイド・ショウとしか思えない芸まである。舌に釘を刺すとか鼻から鎖を通すとか、それ、大昔に歌舞伎町の花園神社でやっていた胡散くさい小屋で見たことがあるぞという出し物を、大真面目にやっている。さすがにこれには見てるロペスやアンソニーも評価に困っていた。


一方、そういう者たちはまったくすれてなく、いかにも朴訥で純な田舎の者たちだったりする。ロペスとアンソニーはそういう場所に実地に赴いて現地でパフォーマンスを見ているために、実はこの番組、最初の数回は中南米旅行記という印象が濃厚で、かなりHGTVの「ハウス・ハンターズ・インターナショナル (House Hunters International)」を見ているような気分にさせる。そういう意味で別の楽しみ方ができるのは確かだ。


パフォーマンス自体で最も意外に思ったのがアルゼンチンのタンゴ・ダンサーで、正直言って、あのレヴェルだったらFOXの「アメリカン・ダンス・アイドル (So You Think You Can Dance)」に出てくる、別にラテン系でもないダンサーやコレオグラファーの方がうまい。要するに、実際に上のレヴェルの者たちというのは、多くが既にもうアメリカに来ているのだ。そのため、実は番組では歌やダンス等ではなく、本当に地元でしか見ることのできないような芸や、単独でのギター弾き語り辺りの方が見どころがある。


ところでロペスとアンソニーが別れたのは昨年の大きな芸能ニューズの一つであり、それなのに二人が一緒にTV画面に現れるのを見て、一瞬、これって昨夏以前に撮り溜めしてあった番組かと疑ったのは私だけではないと思う。しかしそうではなく、二人は実際に離婚後に一緒に番組を製作している。この辺の割り切り方は、アメリカ人ともまた違うラテン的なセンシティヴィティという気がする。もう二人一緒にいられないから離婚したのに、その二人で一緒に番組を製作するってか。それができるんなら離婚することもなかったんじゃないかと思うのだが、仕事は仕事なんだろうか。


あるいは離婚前から番組にコミットメントしていて、ここで二人が一緒に製作に携わらないと、法外な賠償金を払う必要があるのかもしれず、しょうがないから一緒にいるのかもしれない。とはいえ、二人一緒に、時々皮肉を言いながらも結構楽しそうにやっているように見える。二人して話していながら、こんなんだから別れたんだというジョークが口を突いて出る。昨年、「アメリカン・アイドル」のシーズン・フィナーレで、二人して熱々のパフォーマンスを見せておきながらその熱も冷めやらないうちに離婚の発表があった時には驚いたものだが、離婚してもいまだに仲がよさそうなのにも驚かされる。ラテンの血ってこんなんですか。


「ケビバ」は現在のところ、ユニヴィジョンでは毎週視聴率でスペイン語番組で10位以内に入る好調さで推移しているが、FOXでの放送となると、話はちょっと違う。最初は土曜夜8時から編成されていたものが、第5回目からいきなり夜11時からの放送となった。土曜深夜というのは、主要視聴者の若者はだいたい外で飲み騒いでおり、TV局にとって不毛の時間帯だ。要するにこの番組、アメリカでの放送は、ユニヴィジョンでスパニッシュ視聴者相手には成功しているが、アメリカ人視聴者相手には失敗している。


正直言って私も、中南米全部合わせてこれくらいの芸しかないんだったら、まだ「アメリカン・アイドル」や「ヴォイス」、「アメリカズ・ガット・タレント」の方がレヴェルは上と思う。「ケビバ」がいいのは本当に土着の、民族やオリジナルのパフォーマンスだが、一方でそれらは、人に見せて金をとるにはまだまだソフィスティケーションが必要だ。しかしそういう民俗芸能に演出を持ち込んでも、それだと今度はパフォーマンスの核となる部分が消滅してしまうおそれがある。難しい。


「ケビバ」は「アメリカズ・ガット・タレント」とは異なり、勝ち抜きで選抜するとはいっても、優勝者を決めて賞金をあげるという体裁ではなく、最後まで残ったファイナリストたちで、揃ってパフォーマンス・コンサートを開かせるまでで終わりのようだ。異なるジャンルや国を代表してきている者たち全員に花を持たせるというよりも、ロペスやアンソニーの力をもってしても、きっと優勝賞金100万ドルを出すスポンサーを見つけきれなかったからという気がする。



追記: 2012年5月

途中から、あ、これは優勝者を決めるのではなく、全員で合同パフォーマンスをするんだなと気づいた「ケビバ」だが、その最終回、全員でラスヴェガスに移動してその公演の模様を見せると思ったら、そこで舞台は5月26日から始まります、という予告になって番組は終わってしまった。


なんだ、それ。あれだけ引っ張っといて、そのでき上がったパフォーマンスは見せず、見たいならヴェガスに行って金払って見ろってか。それはないんではないか。第一、番組を見ていた全員がそんな金も時間も余裕があるわけない。要するに私が見せられていたのは、この公演までの長い長い宣伝か。ちょっと、かなり本気で頭に来た。こんな番組作りをするから中南米諸国はいつまで経っても一流国になれないんだ。もうアンソニーとロベスがプロデュースする番組なんて二度と見ない。









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