Parasite


パラサイト 半地下の家族  (2019年11月)

いきなり「パラサイト」が巷の話題を席巻している。単館上映に等しいマンハッタンでは、チケットを買うために人が列を成し、ニューズ・ネタになっていた。カンヌでパルムドールをとったのは知っていたが、それにしても、パルムドールをとったからといってNYの映画館で人が並んだというのはほとんど聞いたことがない。しかも外国語映画、韓国映画だ。なんでもヴィレッジのIFCセンターでは監督のポン・ジュノの挨拶があったようだから、それもあるかもしれないと思う一方、それだけであれだけの人が並ぶというのも、俄かには信じ難い。たまたま、あらゆる環境が映画公開に追い風となったという感じだ。要するに「パラサイト」はそういう映画なのだろう。 

 

ポン・ジュノの新作で、前作の「オクジャ (Okja)」を見逃しているということもあり、私ももちろん「パラサイト」に興味は持っていたが、人のよさにつけ込んで金持ちの豪邸を乗っ取るという内容に、実はあまり惹かれていなかった。こういうイヤミス的な話はあまり好きじゃない。 

 

特に、同様の話である昔読んだヒュー・ウォルポールの短編「銀の仮面 (The Silver Mask)」の不快な印象が強烈で、以来この手の話には、特に興味は惹かれない。がしかし、映画として見てないわけでもない。近年では、ダーレン・アロノフスキーの「マザー! (Mother!)」なんてのもあった。 

 

そういやポン自身に、「母なる証明 (Mother)」という、「マザー」というタイトルを持つ作品が既にある。そうか、ジュノとアロノフスキーは繋がってんだなと、一人納得する。ニューヨーク出身のアロノフスキー繋がりで、「パラサイト」はニューヨークでヒットしているのかもしれん。そうか、そうに違いない。 

 

その「パラサイト」、「銀の仮面」と違って特にイヤミス的嫌らしさがないのは、やはり登場人物がノンシャランというか、悪意を持って家を乗っ取るというより、なんか成り行き任せで金持ちの家に寄生することになってしまった、みたいな展開のせいかと思う。そりゃ人間、金があっていい暮らしができるならそれにこしたことはないが、どうやら主人公一家のキム家は生来楽天的で、心の底から悪人というわけではない。結構憎めないのだ。どちらかというとコメディとすら言える。 

 

とはいえ、まあ、結局人のよさにつけ込んで金持ちの家を乗っ取るというか、寄生するわけだし、心証的にあまり応援しようという気にもならない。そして一人また一人と金持ちのパク家に送り込むことに成功し、ほとんどパク家はキム家のものと化し、彼らにとってはほとんどめでたしめでたしとなって話は終わる‥‥わけではなく、実はほとんど奇想天外と言える本当の話はここから始まる。 


 

(注) 以下、結末に触れてます。 

 

いかにそれほど嫌らしさがないとはいえ、人んちを乗っ取って、それで話が終わるか、まあ、確かに手堅い演出ではあるが、しかしなあ、これがカンヌのパルムドールかという、ある種の肩透かし感は否めず、こんなもんかと思っていた矢先、話は急展開を迎える。 

 

パク家の最後の砦は長年パク家に仕えてきたお手伝いのムングァンで、ある意味彼女がパク家を仕切っていると言ってもいい。それを知恵を絞ってついに彼女を追い出すことに成功する。パク家は事実上これでキム家のものになった。 

 

パク一家が家族総出でキャンプに出かけ、家に誰もいなくなったことをいいことに、キム一家は勝手知ったるパク家で酒盛りを始める。外は嵐模様になっている。そこへムングァンが、忘れ物があるから家に入れてくれと言って姿を現す。無下に追い返すのもなんなので、留守番を装っているチュンスクはムングァンを家に入れる。そしてムングァンが明らかにしたのは‥‥地下に匿っている夫だった。 

 

こう来るか! こちらとしては話は既にほとんど終わっており、どう結末をつけるんだろうということに頭を巡らせている矢先、実は話はこれからが本番になる。ムングァンの夫は、商売に失敗して借金取りから逃げ回った挙げ句、ムングァンが地下で何年もの間匿っていたのだ。 

 

この、家の持ち主ですら実は知らない隠れ地下室というのは、韓国という場所を考えると、かなり信憑性がある。北朝鮮の核攻撃を憂慮して、多くの金持ちが実は隠れバンカーを地下に設営しているというのは、説得力があるのだ。金があるなら、韓国に住んでいたらかなりの確率で地下バンカーを作ることを考えると思う。地続きのお隣りの国を統べているのは、いつも核をちらつかせ、自分の実の兄を暗殺することを厭わない狂人だ。 

 

最初ムングァンは、お願いだからこのことを秘密にしていてくれと低姿勢だったが、すぐにキム家の素性もばれる。そこへパク家が、嵐でキャンプが御破算になったからこれから帰ると連絡してくる。もうすぐ近くまで来ている。 

 

この後に続く怒涛の展開は、息もつかせない、という感じで、クライマックスを迎える。特に日本全国津々浦々で台風や大雨が吹き荒れ、家が浸水したり流されたりというのが日常的なニューズになっていた今年、嵐で半地下のキム家が水没する展開は、日本人にとってもまったく身近で、充分起こり得るリアルさを持っている。「パラサイト」は、寓話にもファンタジーにも見えない。そして最後はカタルシス‥‥になっているのか?  

 

結局誰にも救いが訪れているようには見えないラストに最も印象が近いのは、是枝裕和の「万引き家族 (Shoplifters)」だったりする。一方で赤の他人が家族を形成する「万引き家族」と、一家揃ってあたかも居心地のいい場所に移住するかのような「パラサイト」では、家族間の距離感というのが微妙に異なるのも確かだ。いずれにしても、韓国の方が階級意識は強いとは言えそうだ。それにしても‥‥面白かった! 











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韓国で低層階級として暮らしているキム家の長男ギウ (チェ・ウシク) に、軍隊時代に知己を得た友人が、海外留学に行っている間、豪邸に住むパク家の娘ダヘの家庭教師を代役で務めないかというまたとない話を持ってくる。金はないが世知に長けているギウは、すぐさまダヘと母のヨンギョ (チョ・ヨジョン) の信任を得、さらにダヘの弟の家庭教師として、自分の妹のギジョン (パク・ソダム) を推薦して雇ってもらうことに成功する。ギジョンは策を弄してパク家のお抱えの運転手をクビにさせ、今度は父のギテク (ソン・ガンホ) を運転手として雇ってもらう。残る一人はお手伝いのムングァン (イ・ジョンウン) を辞めさせて母のチュンスク (チャン・ヘジン) を送り込むだけだったが、長年一家に仕えてきたムングァンには隙がなく、なかなかチャンスがない。しかしムングァンには桃に対するアレルギーがあり、それをうまく利用して、ついにキム家は全員パク家に雇われる。今や事実上キム家がパク家を支配しているに等しかった‥‥ 


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