Shoplifters


万引き家族  (2018年12月)

私個人としては2005年の「誰も知らない (Nobody Knows)」以来10年以上振りとなる是枝裕和の新作「万引き家族 (Shoplifters)」が、アメリカでも劇場公開されている。「誰も知らない」が公開されたのは主演の柳楽優弥がカンヌ映画祭で主演男優賞をとったからだろうし、「万引き家族」が公開されたのも、やはり今年カンヌでパルム・ドールをとったからだろう。 

 

「誰も知らない」の時のカンヌは日本映画贔屓のクエンティン・タランティーノが審査委員長で、今年のカンヌの審査委員長はケイト・ブランシェットだった。ブランシェットは、いつぞやTVで私は前世は日本人だったと思うなんて話しているのを見たことがあるから、彼女も日本映画贔屓なのは間違いあるまい。カンヌもなかなかやる、というか、是枝はかなりカンヌに借りがあるな。 

 

たまたまだろうが、「誰も知らない」と「万引き家族」は、かなり印象が似ている。共に家族がテーマで、いったい何が家族を形作っているか、何が家族を家族たらしめているのか、その構成要素は? という疑問を投げかける。子を産めばそれは自動的にその子の母であるのは間違いないだろうが、そういう生物学的要素以外にも、社会的に家族を家族たらしめる要素があり、そこに血の繋がりは必ずしも必要としない場合もある。養子縁組はその例だろう。血の繋がりの濃さか、それともお互いに家族と認めることの方が重要か。家族も多様化している。 

 

「万引き家族」の場合、その家族関係を最初から明らかにせず、徐々に開示するという構成のために、ある種ミステリ色があるのが特色だ。そのため、見ている途中で驚かされたり考えさせられたりして、飽きさせない。「誰も知らない」の時よりも作り方が上手になったと感じた。特に今回は、先の読めない展開や人と人との関係を強く感じさせる肌触り、登場人物が小さな悪事に手を染めていたりすること、東京、パリという大都市を舞台としていながらあまり都市感がなく、その周辺の人々を描くなど、ミハエル・ハネケに近いものを感じさせる。是枝はどちらかというとヨーロッパで高く評価されているようだが、それも納得だ。 



(注) 以下かなりネタばれ感あり。

 

一方、作品として「万引き家族」から強く連想するのは、M. ナイト・シャマランの「ヴィレッジ (The Village)」だ。ホラー・ミステリとしての「ヴィレッジ」は、テーマとして家族が前面に出てくるわけではないが、それでも家族や共同体のあり方にあっと言わされる。また、麻耶雄嵩にも同様に家族という意味が大きな伏線になっている傑作ミステリがあった。 

 

「万引き家族」も含め、「家族」という構成自体がミステリの主要な伏線、鍵になるのは、むろん誰でも家族という一つのまとまりの単位に対して、それが当然のものとしてあることに最初から疑いを持っていないからに他ならない。親がいて子がいて時に祖父や祖母、孫がいて、家族がある。誰でも当たり前のようにそう思い、そこに疑問の挟まる余地はない。だが、果たして本当にそうか、という疑問を持つと、そこにミステリの発生する隙間が生まれる。 

 

一方で、家族でありながら血は繋がっていないという状況は、昔からあった。養子縁組は昔からどこにでもあった。子供ができないから近親からもらってきたり、子供を産み過ぎてもらってもらったりという状況は、日常茶飯というわけではないが、それでも近くにそういう例の一つや二つはどの家庭にもあった。 

 

また、アメリカではやたらと養子をとる家庭があったりして、そうなると子供が白人黒人アジア系南米系と、色とりどりだったりする。こうなってしまうと一と目で血が繋がっていないことが明らかで、「万引き家族」の設定自体が成り立たない。麻耶雄嵩作品といい、日本みたいに少なくとも今現在単一民族国家だと、そのこと自体がミスディレクションになってミステリとして成り立つ。それも段々変わって行くかもしれない。ある意味「万引き家族」は変わりつつある現代日本への挽歌と言える。 











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東京の下町で柴田治 (リリー・フランキー) とまだ子供の祥太 (城桧吏) は、万引きによって家族の日々の生活を支えていた。ある夜、二人が家に戻る途中、戸外で寒空に腹をすかして凍えている少女ゆり (佐々木みゆ) がいた。アパートの中からは親と思える男女の言い争う声が聞こえ、ゆりは虐待されて放置されているようだった。治と祥太は女の子に声をかけ、家に連れて帰る。家では、歳とった初枝 (樹木希林) を中心に、狭い家にさらに治の妻の信代 (安藤サクラ) と、信代の妹の亜紀 (松岡茉優) が一緒に住んでいた。信代はクリーニング工場で働いていたが、不況の折り待遇はよくなく、いつクビを切られるか知れなかった。亜紀は風俗で働いており、ガラス越しに見知らぬ男相手にポーズをとっていた。治たちは帰りたがらないゆりを手元に置いておくことにして、勝手にりんと名乗らせる。一方、実の親たちは、その子を誘拐されたと騒ぎ立て、事件になっていた‥‥ 


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