Once Upon a Time in Hollywood


ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド  (2019年8月)

3年前に公開されたクエンティン・タランティーノの前作「ヘイトフル・エイト (The Hateful Eight)」を見てないのはなぜかと思ってその頃の記録を読み返したところ、最初、上映時間が長過ぎるために時間が合わず、その後も風邪引いたのと大雪のために結局見そびれていた。そういやそういうこともあった。 

 

映画を見る時、その時の天候が作品の印象に大きく影響することは結構ある。暑かったり寒かったり、大雨や大雪等の悪天候ならなおさらだ。雪の場合、「オペラ座の怪人 (The Phantom of the Opera)」みたいに内容とシンクロして忘れ難い経験になることもあるが、大雪過ぎると、そもそも交通が麻痺して劇場に行けない。 

 

というわけで「ジャンゴ 繋がれざる者 (Django Unchained)」以来6年ぶりとなるタランティーノ作品「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」、ちょうど半世紀前の1969年のハリウッドの、落ち目の西部劇スターを描く。主演がレオナルド・ディカプリオ、共演がブラッド・ピットとマーゴット・ロビーということもあって、注目を集めていた。 

 

1969年は、人類の節目とも言える大きな事件が多く起こった年だった。こないだもABCが1969年をテーマとする、「1969」というまんまの回顧ドキュメンタリー・シリーズを放送していた。その1969年に起こった事件の、最たるものが人類の月面着陸であることに対しては、誰も異論はないだろう。しかしそれ以外にも、音楽の一大祭典ウッドストック、ゲイ・ムーヴメントの転機ストーンウォール、ケネディ家の呪いチャパキディック等、政治・音楽・文化と、その後のアメリカの、引いては人類の歩みにも大きな影響を与える大事件が続け様に起こった。 

 

そしてハリウッドでは、アメリカン・ニュー・ウェイヴがメイン・ストリームに躍り出る。極めつけが、チャールズ・マンソンのカルトによるシャロン・テイト殺害事件だ。カルト主宰者のマンソンが、新進女優の臨月のテイトを殺害した事件は、その猟奇性も相俟って、人々に大きな驚愕をもたらした。 

 

そういう時代に旧態依然の西部劇スターであるダールトンは、誰よりも自分の境遇をわかっていた。時代に取り残されそうな予感はひしひしと迫ってくるが、だからといって打つ手はほとんどない。元々演技派というわけではないダールトンはそんなに役幅広くないし、俳優という商売は潰しが効かない。自然、手はアルコールに伸びる。 

 

そんな時、隣りの家に人気監督のロマン・ポランスキーと、妻のシャロン・テイトが越してくる。ダールトンは、前年「ローズマリーの赤ちゃん (Rosemary’s Baby)」で全米の話題を席巻して時代の寵児となったポランスキーと近づきになりたいと思っていたが、なかなかきっかけがない。一方、ダールトンには親友兼ボディガード兼専属ドライヴァー兼ボディ・ダブル、つまりはなんでも屋の付き人ブースがいた。ヴェトナム帰りのブースは、妻を殴り殺したという嘘か真か知れない噂が付随していた。ブースはダールトンのクルマを運転している時、たまたまマンソン・ファミリーの一員だったプッシーキャットを乗せてやったことで、マンソン・ファミリーと接点ができる‥‥ 

 

ダールトンを演じるのがレオナルド・ディカプリオ、ブースにブラッド・ピット、テイトにマーゴット・ロビーという3枚看板が主要ビリングだ。どちらかというとロビーは特に出番が多いわけではないが、ディカプリオとピットはいかにも主役という感じで、共に見せ場がある。撮影中のダールトンが見せる、本当はうまいディカプリオが演じる大根のはずのダールトンによる一世一代の名演は倒錯的で楽しく、近年はさすがにかつてのハンサム・ボーイから脱却してマッチョな役を自然に演じれるようになったピットの、クライマックスのいかにもタランティーノ的スプラッタ・アクションも喝采もの。 

 

そのくせして誰もが予想するテイトの殺害が、ずれていって起こるようで起こらない。当然話はマンソン・ファミリーによるシャロン・テイト殺害がクライマックスになるものと観客は思っているし、実際、話はそういう方向に加速度的に進んでいる。しかしタランティーノ作品では独自の時間が流れており、そうは簡単に予想通りに事は運ばない。マンソン・ファミリーが押し入るのはポランスキーの家ではなくそのお隣りのダールトンの家であり、そこには、かつて妻を撲殺したと噂されている用心棒のブースと、愛犬のピット・ブルのブランディがおり、もちろん黙ってやられるわけがない。さらには普段は暴力的ではないダールトンすら、かつて出演した映画からもらってきた小道具の火炎放射器を手にする。 

 

というように、クライマックスは実際の歴史をなぞるのではなく、タランティーノ的パラレル・ワールドで、いかにもタランティーノ的なヴァイオレンスが炸裂する。一方で、ではテイトはどうなるのという展開は、肩透かしを食ったようでもあり、大団円を迎えたようでもある。この得も言いようのないテイストはやはりタランティーノ的と言うしかなく、それはそれで大いに満足させてくれるのだった。 

 

それにしてもディカプリオは、マーティン・スコセッシの「ウルフ・オブ・ウォールストリート (The Wolf of the Wall Street)」で、実はコメディもわりといいと思わせてくれたが、今回のコメディ演技 (だよな?) も悪くない。案外と向いているかもしれない。そのディカプリオとピットの共演が、実は今回が初めてと知って驚いた。なんだか、どこかで既に共演していてもおかしくない、当然のような気がしていた。そこに目をつけて初共演を実現させたタランティーノの慧眼というかハリウッド事情通みたいなところが、またいかにもという気にさせる。 











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1969年ハリウッド。西部劇俳優リック・ダールトン (レオナルド・ディカプリオ) は、既にキャリアとしては斜陽を迎えており、憂さを晴らすのに始終アルコールを手放せなかった。付き人兼スタント・ダブル兼友人のクリフ・ブース (ブラッド・ピット) は、そんなリックの愚痴を聞きながらリックのためにクルマを運転していた。そのリックのハリウッドの家の隣りに、飛ぶ鳥を落とす勢いの映画監督ロマン・ポランスキーが越してくる。ポランスキーはどうやら最近はガールフレンドのシャロン・テイト (マーゴット・ロビー) にぞっこんのようだった。リックはなんとかポランスキーと近づきになれないものかと夢想する‥‥ 


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