Nobody


Mr. ノーバディ  (2022年3月)

毎週グーグルのアドセンスはチェックしているのだが、今回チェックしていて、久し振りにウクライナからのアクセスがあって、なんとなくほっとする。いまだに大変だとは思うが、少なくともアメリカの映画やTVに興味を示すくらいにはなったということか。これ以上戦火が広がって欲しくはないが、プーチンは本当に何考えているかわからない。 

 

「Mr. ノーバディ」では、主人公の敵はロシアン・ギャングで、近年、アメリカにおける悪役はイタリアン・マフィアではなく、ロシアン・ギャングというのが定着している。プーチンを見ていると、それも納得だ。 

 

「Mr. ノーバディ」は引退した元殺し屋が派手に暴れ回るヴィジュアル重視の作品ということで、近年で真っ先に思い出すのは「ジョン・ウィック (John Wick)」だが、こちらは主人公は引退したとはいえ、まだまだ美形の部類に入る暗殺者だ。そうではなく、一見どこから見ても普通の人、それも凡庸であればあるほど、実際にアクションになるとその落差が際立って効果的というのが、「ノーバディ」だ。 

 

調べてみると脚本は「ジョン・ウィック」のデレク・コルスタッドで、「ジョン・ウィック」を書きながら、主人公がキアヌ・リーヴスじゃなくて、一見普通人ならもっと効果的というアイディアが膨らんできたものと見える。 

 

実際、主人公に扮するボブ・オデンカークは、出世作のAMCドラマ「ブレイキング・バッド (Breaking Bad)」、「ベター・コール・ソウル (Better Call Saul)」と、日和見の冴えない弁護士を演じてきた。その彼が実は凄腕の殺し屋だったらという妄想は、寝かしておくにはもったいなさ過ぎるアイディアだったと思われる。 

 

このアイディアの変奏だと思えるのが、BBCアメリカの「キリング・イヴ (Killing Eve)」に出てくるヴィラネルで、一見おつむの回らないおねーちゃんだが、実は暗殺の技術はピカ一という、その落差が効いていた。 

 

一見どこから見ても冴えない中年のおっさんの暗殺者と、見かけばっちりだがおつむてんてん、しかしやはり暗殺技術は図抜けているという妙齢女子とでは、暗殺者としてはどちらが上か、なんとも言えないジレンマに陥る。 

 

「キリング・イヴ」は先頃最終回を迎えたのだが、最後までヴィラネルは期待に違えず人を殺しまくっていた。そのシーンが、特にヴィジュアル重視ではない、いや、ヴィジュアルはなかなか凝っているのだが、特にアクションを交えているわけではない、というか、痛いシーンがあまりない、というのが、両者の差になるかと思う。 

 

さらに一見冴えないおっさん暗殺者というので思い出したのが、浦沢直樹の「マスター・キートン」か「パイナップル・アーミー」に出ていた日本人中年オヤジで、オデンカークよりまったく風采の上がらない農協ヅラのおっさんが、実は爪楊枝を油断している相手の急所に突き刺して一瞬にしてあの世行きにする超技術の持ち主だったというもので、こういう話を今でも覚えているところが、やはり一見地味な人物が実は一流の暗殺者だったという展開がインパクトあることの証拠だろう。なにもジョン・ウィックのような美形のものばかりが、暗殺者として成功するわけではない。 


そういえば伊坂幸太郎にも、一見冴えない恐妻家の凄腕殺し屋が登場する話があった。 洋の東西において、「一見冴えない凄腕殺し屋」が、一方では愛妻家、一方では恐妻家になるところが、文化、というか、ものの考え方の違いであるような気がする。
 

「Mr. ノーバディ」ではまた、同様に風采の上がらない、というか、既に片足棺桶に突っ込んだ主人公のよいよいの父親が出てきて、どんぱち活躍する。これまた定石と言えなくもないが、演じているクリストファー・ロイドがいかにもという感じで、ついつい応援してしまう。同様の役柄を、最近ニック・ノルティが演じていてるのを何度か目にしているが、やはりロイドの方が、見かけと役の落差が効いていて楽しい。 

 

芸能人やアスリートで、技術や人気の点で一流を極めた者がある時バーン・アウトして引退、もしくはそこから距離を置いた後、結局、やっぱり自分にはこれしかないと現場に戻ってくることが多い。どうやら暗殺者でもそれは同じらしい。 













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ハッチ・マンセル (ボブ・オデンカーク) は、義父が経営する工場で事務職をこなす、どこから見ても風采の上がらない中年親父だ。妻のベッカ (コニー・ニールセン) も、息子も娘もそう思っており、ある夜、家に忍び込んだ二人組の強盗をみすみす逃してやったことで、ますますそう思われていた。しかし実はハッチはかつて国のために戦ってきた凄腕の殺し屋だった。ある夜、ハッチはバスの中で暴漢共を袋叩きにするが、その中の一人は、地元の悪名高いロシアン・ギャング、ユリアン (アレクセイ・セレブリャコフ) の弟だった。ユリアンは復讐として手下をハッチの家に差し向け、ハッチは家族を逃してギャングに立ち向かうが‥‥ 


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