ベター・コール・ソウル   Better Call Saul

放送局: AMC

プレミア放送日: 2/8/2015 (Sun) 22:00-23:15

製作: ハイ・ブリッジ・プロダクションズ、クリスタル・ダイナー・プロダクションズ

製作総指揮: ヴィンス・ギリガン、ピーター・グールド

出演: ボブ・オデンカーク (ソウル・グッドマン/ジミー・マクギル)、ジョナサン・バンクス (マイク・エルマントラウト)、マイケル・マッキーン (チャック・マクギル)、レイ・シーホーン (キム・ウェクスラー)、パトリック・ファビアン (ハワード・ハムリン)、マイケル・マンド (ナチョ・ヴァーガ)


物語: 尾花打ち枯らしたソウルは、今ではショッピング・モールのシナボンで一従業員として働いていた。過去の亡霊に脅えるソウルは、少しでも不穏な雰囲気を持つ男を見ると、自分を殺しにやってきたのではと脅える毎日だった。そんなソウルが唯一リラックスできるのは、なみなみと注いだアルコールと共に、かつて自分が最も精力的に働いていた時のヴィデオテープを再生する時だけだった‥‥

6年前、ジミー (ソウル) は、ほとんど実入りのない弁護士だった。どれだけ熱心に弁護してもほとんど収入の見込みはなく、兄のチャックは共同創設者の一人として大手弁護士事務所に関係していたが、チャックが突然回復の見込みがあるかどうかすらわからない電磁波に対するアレルギーで引きこもり状態になると、はした金で手を切ろうとしていた。思いあまったジミーは、同様に金のないスケートボーダーの双子のキャル兄弟と手を組んで、交通事故を演出して金を得ようとする。しかしよりにもよってキャル兄弟が当たり屋のターゲットに選んだのは、ギャングのトゥコの母だった‥‥

_______________________________________________________________

Better Call Saul


ベター・コール・ソウル  ★★★

思わずにやりとしたのが、「Metastasis」という単語を用いたポスターで、オリジナルの「Breaking Bad」では、ウォルトが化学教師であったことから、タイトル内の「Br (Bromin: 臭素)」と「Ba (Barium: バリウム)」が強調され、そこに元素番号が添えられていた。「Metastasis」では、やはり同様にタイトル内の「Ta (tantalum: タンタル)」と「As (Arsenic: ヒ素)」が強調され、同じ効果を狙っている。もしかしたらこれをしたいがためにわざわざ「Metastasis」という単語を見つけてきたのかもしれない。それにしてもタンタルってなんだ? メスを作るのに必要とも思えんが。


さて、人気がまだまだ高かった「バッド」であるが、それでも確かにある意味、終わらざるを得なかった。ある種の悪漢映画がそうであるように、主人公ウォルトは破滅への道をひた走っており、遅かれ早かれ彼は破滅する運命にあった。作り手やネットワークがどう画策しようと、番組は終わらざるを得なかったと言える。その時、一般的視聴者からすると、ほとんど瓢箪から駒的な印象で現れたのが、「ベター・コール・ソウル」だ。


「バッド」にはウォルトを筆頭に、印象的なキャラクターは多い。むろん悪徳弁護士のソウル・グッドマンことジミー・マクギルもその一人だが、彼以外にも印象を残したキャラクターは多かった。ウォルトおよび準主人公的な存在を別にすると、個人的に私がソウルよりもよく覚えているのは、まずギャング王ガス、その片腕マイク、老いたティオ、粗暴なトゥコ、双子の殺し屋レオネル&マルコ兄弟等で、考えたら全員死んでるじゃないか。それにしても登場人物の死亡率が異様に高い番組だったんだなと、今になって思う。


個人的に「バッド」のベスト・エピソードを選ぶとしたら、身体の不自由なティオが、ウォルトがトゥコを毒殺しようとしていることに気づき、それをベルで教えようとするエピソードで、あの緊張感は本当に手に汗握った。結局サブ・キャラで生き残っているのはソウルくらいで、だからこそ彼を主人公にしたスピンオフができたと言える。むろん「バッド」の前日譚という話にしたら、死んだキャラクターでもいくらでも話は作れるだろうが、「バッド」以前と以降という話の方がさらに面白い話を作れそうなのは確かで、それもあってソウルが選ばれたに違いない。ということは、落魄したソウルの現在をちらと描いた「ベター・コール・ソウル」のプレミア・エピソードのオープニングは、つかみというだけでなく、今後の展開の伏線にもなっていると思うのだが。


それにしてもシナボンだ。番組のオープニングでは、今ではどこぞのモールで店員としてユニフォームを着てバイザーを被り、シナボンを売っているソウルをとらえる。シナボンはアメリカではよく知られているシナモン・ロールを販売するチェーン店で、特に空港ターミナルに必ずと言っていいほどある。最初は甘過ぎシナモン効き過ぎと思ったものだが、慣れるとこれが結構癖になる。マクドナルズに対応する裏ファスト・フードの筆頭と言える存在だと思う。そういう店で今ではソウルが過去の亡霊に怯えながら働いていることが、いかにも無常感を誘う。今でもいつギャングが自分を殺しにやってくるかもしれないと脅え、アルコールがないと夜寝られない。


そして今度は6年前に遡り、ソウルがなぜこの道に入ったかが描かれる。公選弁護士としてほとんど金にならない仕事ばかりを受けていたソウル/ジミーが、思い余って当たり屋を雇って依頼人を確保しようとしたところ、よりにもよってその相手はトゥコの母であり、脅しに行ったはずなのに逆にトゥコに監禁されるまでを描くのがプレミア・エピソードで、既にドツボにはまっているソウルの境遇は充分描かれている。なるほど、金になる仕事ならなんにでも手を出しただろうなと思わせる。どちらかというと、「バッド」ではコミック・リリーフ的な印象すら与えたソウルだが、彼自身を主人公にすると、まったくそんなことはない。どちらに転んでも人生は辛かった。











< previous                                    HOME

 

AMCの人気ドラマ「ブレイキング・バッド (Breaking Bad)」は、昨年、惜しまれながら最終回を迎えた。アメリカのドラマは人気があると延々と続くが、ピークは過ぎていた感はなくもなかったとはいえまだまだ多くの話題を提供していた「ブレイキング・バッド」が終わることは、かなり潔いという印象を受けた。


AMCは現在、ケーブル界で無敵最強のドラマ、「ザ・ウォーキング・デッド (The Walking Dead)」を編成しているだけでなく、「マッド・メン (Mad Men)」というこちらは最も批評家受けのいいドラマも放送している。実はその「マッド・メン」も、こちらも現在最終シーズンを放送中だ。しかも、これもやろうと思えばまだまだやれそうなものを、作り手の意志を尊重して、最終回を迎えることを決定した。


とはいえ、人気番組が最終回を迎えても、それで一巻の終わりではないことは、今回の「ベター・コール・ソウル」が如実に証明している。なんとなれば「ベター・コール・ソウル」は、「ブレイキング・バッド」のスピンオフ番組だからだ。


また、「バッド」自体も海外でリメイクされている。アメリカではよく海外でヒットした番組がリメイクされるし、その逆にアメリカでヒットした番組が海外でリメイクされるのもめずらしい話ではない。しかし、その時、ご当地に合わせたマイナー・チェンジが施されるのが普通で、ストーリーに若干手が加えられるのが普通だ。


ところがたまに、あまりにもオリジナルのできがよすぎて手が入れられないか、あるいは製作側の怠慢で、オリジナルの脚本をそっくりそのまま使ってまったく同じ正真正銘のリメイクを製作することがある。かれこれ4年ほど前にNBCが基本的にオリジナル脚本を一字一句違えずそのままリメイクした「フリー・エージェンツ (Free Agents)」は、オリジナルが英語でしかもアメリカでも放送される番組のリメイクで、このあまりものいい加減さで強く記憶に残っている。


これとは多少異なり、「バッド」の舞台をアメリカからコロンビアへと移し、同じ脚本をスペイン語に翻訳して製作されたのが、「メタスタシス (Metástasis)」だ。本来はがん等の転移を意味する医療用語だそうだが、なんとなく雰囲気は伝わる。「メタスタシス」は、アメリカでもラテン系放送局のユニヴィジョンが放送したので、私も興味本位でちらと見てみた。私はスペイン語は解さないが、実際まったく同じシチュエイションで同じセリフをしゃべっているように見えた。主人公ウォルトを演じる俳優も、気のせいかオリジナルのブライアン・クランストンになんとなく印象が似ている。

 
inserted by FC2 system